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彼方とリセラ王女

 リセラ王女の登場に周りの人々が騒ぎ始めた。男の騎士たちがうっとりとした表情でリセラ王女を眺めている。


 リセラ王女が近づくと、リューク団長とティアナールの背筋が伸びた。


「リューク団長…………」


 柔らかく落ち着いた声がリセラ王女の口から漏れた。


「凶悪なモンスターの軍隊からヨム国を守っていただき、心より感謝します」

「騎士の務めに御座りますれば」


 リューク団長は張りのある声で答えた。


「それより、どうしてここに?」

「侍女が教えてくれたんです。白龍騎士団の皆さんが、今夜、祝勝会をすると。ですので、当たり年のワインを三ケース程持ってまいりました。二百四十八年物ではありませんが、よかったら、皆さんで飲んでください」

「ほぉ、それはみんな喜ぶでしょう。ありがたく頂戴致します」


 リューク団長はリセラ王女に頭を下げた後、大きく口を開いた。


「おーい! リセラ王女から当たり年のワインをいただいたぞ! 感謝して飲め!」


「おおーっ!」と騎士たちが歓声をあげた。


 礼を言う騎士たちに手を振りながら、リセラ王女はティアナールに視線を向けた。


「ティアナールもウロナ村で戦ってくれたのね。ありがとう」

「私より、部下たちを褒めてやってください」


 ティアナールは、ふっと笑みを浮かべる。


「白龍騎士団の男どもの中に、あなたのファンがたくさんいますから、きっと眠れないほど喜びますよ」

「私より、ティアナールのほうが人気がありそうだけど?」


 リセラ王女は首を傾けて、ティアナールの顔を覗き込む。

 仲良く喋っている二人を見て、周囲の騎士たちの頬が緩んだ。


 ――二人とも美人だからな。特にティアナールさんはエルフだし、海外のファンタジー映画の一シーンみたいだ。


「彼方さん」


 リセラ王女が彼方に声をかけた。


「彼方さんも活躍されたそうですね。強い軍団長を倒されたとか」

「そんなことまで、ご存じなんですね?」

「彼方さんには、個人的に興味があったので」

「僕にですか?」


「はい」とリセラ王女は答える。


「氷室彼方…………年齢十六歳で異界人。冒険者ランクはFで魔力はなし。ただ、彼の戦闘能力は高く、CまたはBランクレベルではないかと噂されている。性格は温厚で甘い物が好き。そして少女趣味があると報告を受けました」

「…………それ、間違ってますから」

「えっ? 甘い物嫌いなんですか?」

「そっちじゃなくて、少女趣味のほうです!」


 彼方の声が大きくなる。


「多分、ミケとパーティーを組んでるせいだと思いますけど、外見や年齢で選んだわけじゃないから」

「でも、ウロナ村でも十歳前後の女の子が、彼方さんの恋人だと村人に話してたようですよ」

「あ…………風子か」


 彼方はウロナ村で召喚したクリーチャーのことを思い出した。


 ――あの時、召喚した風子と呂華には別行動させてたからな。その時に、風子が村人に変なことを言ったんだ。それが情報屋に漏れたってことか。


「とにかく、僕は少女趣味じゃありませんから」

「じゃあ、どんな女性が好みなんです?」


 リセラ王女が首を傾けて彼方に質問した。


「それは…………」

「たとえば、彼方さんと同じ黒髪の女性が好きとか、獣人が好きとか…………エルフが好きとか」


 エルフという言葉が出ると同時に、彼方の隣にいたティアナールの体がぴくりと動く。


「…………うーん。そういうことは、あんまり考えたことがなかったから」


 彼方は眉を中央に寄せて、唸るような声を出す。


「じゃあ、今、気になる女性はいないんですか?」

「気になる女性…………ですか?」

「はい。恋愛対象的な意味で」


 リセラ王女は意味深長な視線をティアナールに向ける。


 いつの間にか、ティアナールの顔が真っ赤になっていた。


 十数秒後、彼方は結んでいた唇を開いた。


「正直、よくわからないです。元の世界にいた頃から、恋愛のことは考えたことがなくて」

「彼方さんって、元の世界では貴族だったんですか?」

「いいえ。この世界でいう平民ってやつです」

「それなのに自由な恋愛を楽しまないんですね」


 不思議そうな顔でリセラ王女は首をかしげた。


「きっと、彼方さんに好意を持っている女性はいると思いますよ。たとえば…………」


「かっ、彼方っ!」


 突然、ティアナールが彼方の腕を掴んだ。


「せっかく来たんだ。お前も美味い物を食っていけ! 甘い菓子もあるぞ」

「あ…………はっ、はい」


 彼方はティアナールに引きずられながら、料理が並んだテーブルに向かう。


 ――王女様と話してたんだけど、いいのかな? まあ、ティアナールさんとリセラ王女は子供の頃からの知り合いだったみたいだし、このぐらいは問題ないのか。


 にこにこと笑いながら、自分に手を振っているリセラ王女に彼方は頭を下げた。


 ◇


 白い皿の上に乗った正方形のチョコレートを口にして、彼方はうっとりとした表情を浮かべた。


 ――うん。このチョコレートは絶品だな。フルーティーな香りがして、口に中でふわっととろける。コンビニのチョコ系スイーツも美味しかったけど、これは別格だ。多分、いい材料を使ってるんだろう。


 彼方は菓子が並べられたテーブルを見回す。


 ――この世界には、元の世界にあった作物もいっぱいあるし、食べたことがないスイーツもいろいろ食べられそうだな。それは、ちょっと嬉しいかもしれない。


 視線を動かすと、ミケが幸せそうな顔で一角マグロの胡椒焼きを食べている。


 ――そういや、一角マグロなんて生き物も元の世界にはいないか。美味しいらしいし、僕も食べてみようかな。


 その時、見慣れない模様が刻まれた黒い馬車が数台、城に向かって走っていった。


 ――んっ? 見たことないタイプの馬車だな。扉の部分にある模様は…………剣を×印に組み合わせたものか。


 近くにいた騎士たちの声が彼方の耳に届いた。


「おい…………あの紋章はサダル国だよな?」

「ああ。飾りが豪華だし、お偉いさんが乗ってるんだろうな」

「もしかして、俺たちがネフュータスの軍を全滅させたから、感謝の言葉を伝えにきたのかもな」

「言葉よりも、俺は恩賞が欲しいな」

「違いない」


 騎士たちが笑い声をあげた。


「サダル国か…………」


 彼方は僅かに目を細めて、ぼんやりと輝く白い城を見つめた。



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