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冒険者ミケ

 ――ティアナールさんの弟に誤解されちゃったけど、問題はないか。身内なら、ちゃんと看病してくれるだろうし。


「それより、僕のほうが問題だな」


 視線を動かすと、十数メートル先に 甲冑を装備した男が歩いていた。その隣には淡い緑の服を着たエルフの男がいる。二人は笑いながら、酒場らしき場所に入っていった。


 ――二人とも剣を持ってたな。この世界では武器を持ち歩いているのが普通なのかもしれない。


 彼方の横をダチョウのような鳥が引く荷車が走り抜けていく。その荷車には、多くの野菜と果実が積み上げられていた。


「まいったな…………」


 彼方はふっと息を吐いて、頭をかいた。


 ――ここが異世界なのは間違いなさそうだ。となると、僕が知ってる常識は通用しない。突然、武器を持った誰かから、攻撃される可能性だってある。警察のような組織があるかどうかもわからないし。


 視線を動かすと、町並みの先に、ぼんやりと白く輝く城が見えた。


 ――まあ、城と町があるんだし、歩いている人たちの表情にも緊張感はない。法律のようなものがあるのかもしれない。


 ふと空腹を感じて、彼方は腹部を押さえた。


「そういや、ずっと何も食べてなかったな」


 さっき受け取った銀貨のことを思い出す。


 ――たしか、これで一食分の飯になるって兵士が言ってた。ってことは、日本で考えると五百円から千円ぐらいの価値があの銀貨にあるって考えていいかな。


「とりあえず、そこの酒場に行ってみるか。食べ物もあると思うし…………」


「それはダメにゃ!」


 突然、背後からかわいらしい声が聞こえてきた。

 振り返ると、目の前に十一歳ぐらいの女の子が立っていた。女の子はつぎはぎだらけの茶色の服を着ていて、ぶかぶかのブーツを履いていた。腰には革製のベルトをつけていて、背中に大きなリュックサックを背負っている。


 短めの茶色の髪から猫のような耳が生えているのを見て、彼方の目が大きく開く。


「君は…………?」

「ミケにゃ!」


 女の子――ミケは尖った八重歯を見せて笑う。


 ――この子…………人じゃないのか。猫の耳が生えているし、ショートパンツに穴が開いてて、茶色のしっぽが見えてる。瞳も紫色で、瞳孔の形が猫っぽい。

 

 ミケは彼方の顔を覗き込む。


「お名前は何にゃ?」

「僕? 僕は彼方。氷室彼方だよ」


 彼方は戸惑いながらも、自分の名前を伝えた。


「彼方は異界人かにゃ?」

「う、うん。そうだと思う」

「やっぱりにゃ。服が変だから、すぐにわかったのにゃ」


 ミケは自慢げに薄い胸を張った。


「彼方は、さっき銀貨もらってたにゃ。ミケは見てたのにゃ」

「うん。それで、何がダメなの?」

「あのお店はお料理が高くて、お酒も頼まないとイヤな顔されるのにゃ。銀貨一枚じゃ足りないにゃ」

「あ、そうなんだ」


 彼方は酒場の入り口に視線を動かす。木製の扉は上下にすき間が空いていて、店内の灯りが漏れている。


 ――大衆酒場のような外観だけど、ちょっと高めの店ってことか。


「そこでにゃ」


 ミケの紫色の瞳が輝いた。


「ミケが銀貨一枚で、美味しいご飯が食べられるお店を紹介するにゃ」

「そんなお店を知ってるんだ?」

「うむにゃ。そこだと、ミケと彼方がお腹いっぱいになれるのにゃ」

「…………それって、ミケの分も僕が払うってことだよね?」

「その通りにゃ。彼方は頭がいいにゃ」


 ミケは腕を組んでうなずく。


「ミケはお腹が空いているのにゃ。朝にチャモ鳥の焼き卵を一個食べただけにゃ。ずっと、ガリアの森で狩りをしてたのに、卵しか見つからなかったのにゃ」

「そうなんだ」


 彼方はミケをじっと見つめる。


 ――まあ、いいか。この子に悪意はなさそうだし、いっしょに食事をすれば、この世界のことをいろいろ聞くこともできるだろう。まずは、情報を増やしていこう。


「わかった。じゃあ、銀貨一枚で二人分食べられる店に行こう」

「了解にゃ。ミケにまかせておくにゃ!」


 ミケは尖った八重歯を見せて、ぐっと親指を突き立てた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 危機意識が絶望的に足りないように感じました。 ザルドゥを倒す直前や王都に入る時、その後もですがどんな危険があるか分からないのにクリーチャーを事前に護衛として召喚しておかないのは何故なの…
[一言] あの凄まじく失礼な弟の仕打ちをスルー出来る彼方は悟りをひらいた菩薩かなにかなのでしょうか。
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