コンボ発動
「嬉しいだと?」
デルーダが首をかしげた。
「何を言ってる? 頭が壊れちまったか?」
背中の甲羅を揺らして、デルーダは彼方に近づく。
「俺の部下に目がいいゴブリンがいてな。お前を発見した後、完全に包囲してから俺がここに来たんだ。つまり…………絶対に逃げられない」
「…………みたいだね」
彼方は両足のつま先に重心をかけ、周囲の状況を確認する。
――とりあえず、見える範囲にオークが四匹、リザードマンが六匹、ゴブリンが十匹…………いや、十一匹か。なかなか統率が取れてるな。
――そして、リーダーのデルーダは防御特化タイプか。背中の甲羅は堅そうだし、両手の武器は盾と剣が組み合わさったランタンシールドだ。
「さて…………」
デルーダは赤い目をすっと細めた。
「誰が氷室彼方を殺す?」
「俺にやらせてください」
背丈が二メートルを超えたリザードマンが一歩前に出た。その手には黒く長い槍を手にしている。
「こんな、ちっぽけな人間、すぐに殺してやりますよ」
「…………いいだろう、ザム。お前にまかせる」
「感謝します」
リザードマン――ザムはヘビのように舌を動かして、彼方の前に立った。
彼方は自分より五十センチ以上高いザムをじっと見つめた。
――最初は部下にやらせるか。デルーダは用心深い性格だな。ただ、油断もしてる。まずは僕の腕前を確かめたいってところかな。
――ならば、相手の油断を利用するのもありか。
彼方は左手に持った魔銃童子切をちらりと見る。
「おい、人間」
ザムは黒い槍を構えた。
「お前など、俺ひとりで十分だ。かかってこい!」
「じゃあ、僕から攻めさせてもらうよ」
彼方は周囲のモンスターを警戒しながら、軽く左足を前に出す。
――周りのモンスターも様子見か。僕が魔神ザルドゥを倒した情報は知らされてないんだな。もし、知ってたら、こんなに油断はしてないはず。
彼方は魂斬剣エデンを斜めに構えて、ザムとの距離を詰める。
ザムは両手で槍を握って腰を落とす。
彼方は槍の先端を狙って魂斬剣エデンを振った。ザムは笑みを浮かべたまま、槍を引く。
「おいおい、その程度のスピードか」
ザムは引いていた槍を突き出す。
彼方はわざとスピードを落として、魂斬剣エデンの刃で槍を受けた。
ザムは槍をくるりと回転させて、真横に振った。鋭い刃が異界龍の鎧に当たる。
キンと甲高い金属音がして、刃が弾かれる。
笑っていたザムの表情が変化した。
「ちっ、いい鎧を装備してるな」
「まあね」と答えて、彼方は後ずさりする。
――弱攻撃無効の効果もしっかり出てるみたいだな。
「遊びは終わりだ! 終わらせてやるっ!」
ザムは右足を踏み込み、槍で彼方の頭部を狙った。同時に彼方は前に出る。首を傾けて槍の攻撃をかわし、魂斬剣エデンでザムの首筋を斬る。
「なっ…………がっ…………」
ザムは首筋から血を流しながら地面に倒れる。その体から青白く輝く球と赤く輝く球が飛び出し、魂斬剣エデンと魔銃童子切に吸い込まれた。
「…………ほう」
デルーダが感嘆の声をあげた。
「なかなかやるな。強力な攻撃呪文を使えると聞いてたが、近接戦闘も悪くない」
くくくと笑いながら、デルーダは彼方に近づく。
「だが、このデルーダ様には勝てない」
「そうかな?」
「ああ。お前程度の腕ではな」
両手に持ったランタンシールドの刃を胸元で重ね合わせて、デルーダは笑う。
――あのランタンシールド、呪文耐性もあるみたいだな。
彼方は十字の形をした魂斬剣エデンの柄を握り直す。
――まあ、油断してるうちにリーダーは倒しておくべきか。
「デルーダ、君の部下の時と同じように僕から攻めていいのかな?」
「…………いいぞ。やってみろ」
デルーダは両足を大きく開き、亀のように首をすぼめた。
――そう答えるしかないよな。周りには多くの部下がいるみたいだし。
「では、遠慮なく…………」
彼方はゆらりと上半身を傾けて、デルーダに走り寄った。
デルーダは左手のランタンシールドで体を守りながら、右手のランタンシールドを斜めに振った。その攻撃を彼方はネーデの腕輪で受け、魂斬剣エデンを振り下ろした。
バターのようにランタンシールドが斬れ、デルーダの右手が地面に落ちた。
「あ…………」
呆然とするデルーダの懐に入り込み、彼方は魂斬剣エデンを振り上げる。
デルーダの分厚い胸当てが斬れ、青紫色の血が噴き出した。
「ばっ、バカな…………さっきとスピードが違…………」
デルーダは口をぱくぱくと動かしながら、仰向けに倒れた。
一瞬、その場の時が止まった。
モンスターたちは両目と口を大きく開いて、命を失ったリーダーを凝視する。
彼方は近くにいたオークに攻撃を仕掛けた。
一瞬でオークの首が飛び、その隣にいたゴブリンの心臓が魂斬剣エデンで貫かれる。
「ぜっ、全員で氷室彼方を殺せっ!」
赤い金属の鎧を着たリザードマンが叫んだ。
――あいつが副リーダーっぽいな。
彼方は魔銃童子切の銃口をリザードマンに向けて引き金を引いた。
銃声が響き、赤黒い弾丸がリザードマンの額に穴を開けた。
「ぐあっ…………」
リザードマンは立ったまま、その命を奪われた。
彼方はちらりと魔銃童子切を見る。魔銃童子切の後部に埋め込まれた宝石に『4』と数字が浮かび上がっていた。
――これが弾数ってことか。
彼方は左右から襲ってきたオークを魔銃童子切で撃ち、茂みに隠れていた二匹のゴブリンを魂斬剣エデンで斬り殺す。
――魂斬剣エデンでモンスターを殺せば、弾はいくらでも補充できる。それに六体のモンスターを殺したから、全てのアイテムの具現化時間が六分間延長された。上手く調整しながら戦えば、三つのアイテムは、ずっと使用することができる。
彼方はミュリックに襲いかかっているゴブリンの首を魂斬剣エデンで跳ね飛ばした。
「かっ、彼方っ!」
ミュリックは青白い顔で迫ってくるモンスターたちを見回す。
「この状況はまずいわよ。デルーダを殺しても、あいつの部下が千体もいるんだから」
「大丈夫。弱いモンスターの攻撃なら、異界龍の鎧が防いでくれるし」
「わっ、私はっ!?」
「君だって、一応、上位モンスターなんだろ?」
そう言いながら、彼方は斧を振り上げたオークを魔銃童子切で撃った。オークの巨体が地響きを立てて倒れる。
「まあ、僕の側にいてくれたら、できる範囲で守るよ」
「できる範囲って…………」
ミュリックの頬が、ぴくぴくと痙攣する。
「とりあえずは安心してていいかな。この状況なら、僕たちのほうが有利だから」
彼方は魂斬剣エデンの柄を強く握り締めた。




