アイテムカード
彼方は木々の密集した盆地の中をミュリックといっしょに歩いていた。周囲には白い霧が立ち込め、どこからともなくモンスターの鳴き声が聞こえている。
――まだ、九尾のフェンリルは戦ってるみたいだな。その調子で頼むよ。
心の中で九尾のフェンリルに感謝しながら、手に持った錆びた短剣を見つめる。柄の部分に埋め込まれていた黒い宝石が、ほぼ赤色に変化していた。
――あと一人で十人か。十人殺せば、錆びた短剣の能力が発動する。
その時、短剣を持ったダークエルフが霧の中から現れた。
彼方は一気に前に出て、ダークエルフとの距離を詰める。
「きっ、貴様っ、氷室彼方かっ!?」
「そうだよっ!」
彼方は右手を伸ばして錆びた短剣を横に振った。ダークエルフは上半身をそらして、その攻撃をかわす。
――悪くない動きだけど、少し甘い。
彼方はダークエルフの右手を左手で掴む。ネーデの腕輪で強化された力でダークエルフを引き寄せ、首筋に錆びたナイフを突き刺した。
「ゴハッ…………」
ダークエルフは口から血を吐き出しながらも、短剣で彼方の左胸を狙う。突き出された刃を彼方は右手首にはめたネーデの腕輪で受け止める。
驚愕の表情を浮かべたダークエルフの左胸に彼方は錆びた短剣を突き刺した。
「ガッ…………ゴウッ…………」
ダークエルフの体が傾き、そのまま地面に倒れた。
――これで、十人。
錆びた短剣が白く輝いた。
◇◇◇
【アイテムカード:異界龍の鎧】
【レア度:★★★★★★★★★★(10) 異界龍の牙、鱗、爪を素材した最強の鎧。スピードと防御力を大幅に上げる。弱攻撃無効、魔法攻撃無効、状態異常無効、体力回復。具現化時間:30分。再使用時間:30日】
◇◇◇
彼方の体に黒く輝く鎧が装備された。鎧に使用されている鱗は無数の星が輝く夜空を切り取ったような模様があり、彼方の全身が淡い光に包まれている。
――鎧だけじゃなく、この光が体全体を守ってくれるみたいだな。
「彼方…………」
ミュリックが口を開いたまま、彼方に近づく。
「何…………その鎧? 魔法の鎧…………よね?」
「ドラゴンの鱗や牙を素材にした鎧だよ。当然、いろんな効果がついてるよ」
彼方は軽く手足を動かした。
――さすが★10の鎧ってところか。重さがまったくない。これなら鎧を着たまま、高くジャンプすることもできるな。
「ちょっと待って!」
ミュリックが異界龍の鎧に触れる。
「あなた、魔法の鎧まで具現化できたの?」
「できないなんて言ってないだろ」
「その言葉、前にも聞いたけど…………」
ミュリックのノドがうねるように動く。
「どうして、いくつもの能力をあなたは持ってるの? そんな異界人、聞いたこともないよ」
「ある意味、能力は一つなんだ」
「一つなわけないでしょ! 私が知ってるだけでも、攻撃呪文と召喚呪文が使えて、具現化能力もあるんだから」
――どれもカードゲームの力なんだけど、それを話す必要もないか。
「今は君と話してる時間はないから」
彼方は意識を集中させて、カードを選択した。
◇◇◇
【アイテムカード:魔銃童子切】
【レア度:★★★★★★★★★★(10) 闇属性の強力な銃。装備者が魔銃童子切以外の武器で殺した死体から弾丸を作ることができる。最初の弾丸は一発のみ。具現化時間:1時間。再使用時間:30日】
◇◇◇
彼方の前に銃身が二十数センチのいびつな形をした銃が具現化された。絡み合った木の根のような形をした銃はところどころに赤黒い宝石が埋め込まれていた。
さらに彼方は別のアイテムカードを具現化する。
◇◇◇
【アイテムカード:魂斬剣エデン】
【レア度:★★★★★★★★★(9) 対象の魂を斬る光属性の片手剣。攻撃力強化、防具無効。特殊能力:魂斬剣エデンによって殺された者一人につき、具現化されている全てのアイテムの具現化時間を一分間延長する。具現化時間:1時間。再使用時間:25日】
◇◇◇
彼方は青白く輝く細身の剣を手に取った。魂斬剣エデンは柄の部分が十字の形をしていて、刀身には見たことのない文字が刻まれている。
――これでアイテムカードは限界の三枚まで使ったか。後はこの組み合わせが上手くいくかどうかだな。
「なっ、何よこれ?」
ミュリックが魔銃童子切と魂斬剣エデンを交互に指さす。
「こんな強い武器まで具現化できたの?」
「強いってわかるんだ?」
「見た目からでも想像つくわよ。危険な武器ってことぐらいはね」
ミュリックは怯えた様子で魂斬剣エデンの刃に触れる。
「でも、どんなに強力な武器を装備したって、敵が二万もいたら…………」
突然、四方から茂みをかき分ける音が聞こえてきた。
音はどんどん大きくなり、やがて、数十体のモンスターが姿を見せた。
「どうやら、お前が氷室彼方のようだな」
亀のような甲羅を持つモンスターが彼方を見て、にやりと笑う。肌は緑色で目は赤い。左右の手には剣と盾が組み合わさったようなランタンシールドを装備している。
「デッ、デルーダ」
ミュリックが震える声でモンスターの名を口にした。
「知ってるの?」
彼方の質問にミュリックはうなずく。
「危険で強い上位モンスターよ。軍団長候補で、ついでに性格も最悪ってところね」
「言ってくれるじゃねぇか。裏切り者のサキュバスがよ」
デルーダはちろちろと細長い舌を動かした。
「まっ、お前のことはどうでもいい。問題は、その異界人だな」
デルーダは彼方に向き直る。
「お前、強いらしいな」
「…………まあね」
彼方は右手に持った魂斬剣エデンの刃をデルーダに向けた。
「ほーっ、その剣もなかなかのレア物のようだな。だが、お前の死は確定してる」
「確定?」
「そうだ。既にお前は何重にも包囲されている。千体の俺の部下たちにな」
デルーダの口が裂けるように開いた。
「…………そっか。この近くに千体もモンスターがいるんだ」
「ああ。残念だったな」
「いや、それは嬉しい情報だよ」
彼方の唇の両端が僅かに吊り上がった。