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ウロナ村の戦い13

 大通りを進む彼方たちの前に赤子を抱いた三十代の女が現れた。女の後ろには二匹のゴブリンが迫っている。


「私にまかせて!」


 レーネが両手に持ったナイフを同時に投げた。二本のナイフがゴブリンのノドに刺さる。


「ガアッ…………」


 ゴブリンたちはノドを抑えて地面に倒れた。


「大丈夫?」

「は…………はい。ありがとうございます」


 女は肩で息をしながら、泣いている赤子を抱き締める。


「どうして、外に出てるの? 避難所に隠れてないと」

「避難所が襲われてるんです」

「護衛の騎士たちがいるんじゃ?」

「みんな殺されてしまって…………」


 女は北の方向を指差す。


「レーネっ! この人を安全な場所に。避難所には僕が行く!」


 彼方は女が指差した北に向かって走り出した。


 ◇


 避難所は教会の横にあった。壁は石造りで中央の扉が破られていた。周囲には多くの騎士と村人の死体があり、血の臭いが充満している。


 彼方は壊れた扉から避難所の中に入った。天井が高く広い部屋の中にも数十人の村人の死体があった。

 視線を動かすと部屋の奥で三匹のゴブリンと戦っている五十代の冒険者の男が見えた。その背後には地下に続く階段がある。


 ――地下に村人が隠れてるのか。


 彼方は意識を集中させて、呪文カードを選択する。


◇◇◇

【呪文カード:ウインドストーム】

【レア度:★★★(3) 属性:風 対象に風属性のダメージを与える。再使用時間:3日】

◇◇◇


 ヒュンヒュンと空気が裂ける音がして、一番体格のいいゴブリンに無数の傷がついた。


「ギュアア!」


 ゴブリンは全身から血を噴き出しながら、床に倒れる。

 残った二匹のゴブリンが彼方に気づいた。

 彼方は一直線に右のゴブリンに駆け寄り、遠い間合いから聖水の短剣を振る。水色の刃が一メートル以上伸び、ゴブリンの首を跳ね飛ばした。


「ヒイッ…………」


 左にいたゴブリンが彼方に背を向けて逃げようとした。


「逃がさないよ」


 彼方は大きく右足を踏み出し、聖水の短剣を突いた。刃の先端が錐のように細く尖り、ゴブリンの後頭部に突き刺さった。

 ゴブリンは声を出すこともできずに前のめりに倒れた。


「大丈夫ですか?」


 彼方は白髪まじりの冒険者に歩み寄った。


「あ、ああ。助かった」


 男は額に浮かんでいた汗を拭った。


「俺はCランクのアルゴス。この村出身の冒険者だ」

「僕は氷室彼方。Fランクの冒険者です」


 彼方は早口で自己紹介をする。


「地下に村人がいるんですよね?」

「そうだ。おいっ、もう大丈夫だぞ!」


 男――アルゴスが階段に向かって叫ぶと、十数人の村人たちが姿を見せた。ほとんどが女子供で不安げに周囲を見回している。


「アルゴスさん、お願いがあるんですけど」

「お願い? 何だ?」


 彼方は意識を集中させて、一枚のカードを選択した。


◇◇◇

【アイテムカード:爆弾アリの巣】

【レア度:★★★★★★★(7) 1万匹の爆弾アリが棲む巣。爆弾アリは自爆して対象を攻撃することができる。具現化時間:10時間。再使用時間:20日】

◇◇◇


 広い部屋の中央に、いびつな形をした高さ五メートル程の蟻塚が現れた。その蟻塚は赤と緑と青色のコードが絡み合って作られていて、数百個の円形の計器が不規則に設置されている。下部には直径二十センチ程の穴が十数個開いていた。


 カシャ…………カシャ…………カシャ…………。


 不気味な音が聞こえてきて、下部の穴から、機械のアリが現れた。それは体長三十センチぐらいの大きさで、頭部に赤色のレンズのようなものがついていた。足は六本あり、胴体の部分は半透明でぎっしりと詰まった機械の部品が見えている。


「なっ、何だこれは?」


 アルゴスはロングソードを構えた。


「安心してください。爆弾アリは味方です」

「爆弾…………アリ?」


 アルゴスはカチカチと歯を鳴らしている爆弾アリを見つめる。


「お前…………蟲使いなのか?」

「そう考えてもらって構いません」


 彼方は落ち着いた口調で言った。


「今から、爆弾アリを避難所の周辺に配置します。これで弱いモンスターは、ここに近づけなくなるはずです」

「そんなに、このアリは強いのか?」

「強くはありませんが危険な生物ですよ。それに数が多いですから」

「…………それで、俺は何をすればいいんだ?」

「このアリが味方だと、みんなに伝えてください。そして、なるべくここに村の人を集めてください。ここが一番安全な場所になりますから」

「…………わ、わかった」


 アルゴスは戸惑いながらも、太い首を縦に動かす。


「お前はどうするんだ?」

「僕は中央の丘に行きます!」

「おいっ、丘にはボーンドラゴンがいるぞ」

「だから行くんです」

「だからって…………」


 アルゴスは彼方のベルトにはめ込まれたFランクのプレートを見る。


「ドラゴンはFランクが戦えるようなモンスターじゃないぞ」

「大丈夫です! 何度か倒したことがあるので」

「何度か倒した?」


 アルゴスは、ぱちぱちとまぶたを動かす。


「お前、何を言って…………」

「とにかく、ここはお願いします!」


 彼方は爆弾アリに指示を出すと、避難所から飛び出した。


 ◇


 店が並ぶ通りを抜けると、丘の中腹で騎士たちに囲まれているボーンドラゴンの姿が見えた。

 騎士たちは前衛が魔法の盾を構え、後衛から矢と呪文で攻撃を続けている。

 ボーンドラゴンは咆哮をあげて、前脚を斜めに振り下ろす。盾を持った数人の騎士が十メートル以上飛ばされる。


 ――大型のモンスターとの戦いにも慣れてるみたいだな。でも、矢と呪文の攻撃はほとんど効いてない。このままじゃ、犠牲者が増えるだけか。


丘のふもとから新たな騎士の部隊がボーンドラゴンに向かって進軍を始めた。

 その先頭にはウル団長とユリエスがいた。


 ――あの二人は強いし、周りにも多くの騎士がいる。これなら、ボーンドラゴンを倒せるかもしれない。だけど、近くにネフュータスがいたら…………。


 彼方は唇を強く結んで走り出した。


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