ウロナ村の戦い12
「はぁっ? こいつは何言ってる?」
ウル団長が銀色の眉を吊り上げた。
「というか、お前は誰だ?」
「こいつは氷室彼方だ」
ユリエスがウル団長の質問に答えた。
「Fランクの冒険者だが、実力はAランク以上と思っていいぞ」
「こいつがAランク以上…………」
ウル団長は彼方の顔を覗き込む。
「…………ネフュータスじゃないって、どういうことだ?」
「影武者…………ニセモノですよ」
彼方は視線を足元の死体に向ける。
「どうして、こいつがニセモノだとわかる?」
「遠くからですが、ニセモノがダークエルフと話してるところを見たんです。会話の内容まではわからなかったけど、指示をしてたのはダークエルフのほうでした。それに」
「それに何だ?」
「前に会った時と手の動きや歩幅が違ってたから」
「歩幅だと?」
「はい。ニセモノのほうが歩幅が大きいんです。わざとそれをやる意味もないだろうし、まず間違いないかと」
「どこで入れ替わってたんだ?」
ユリエスが乾いた声でつぶやく。
「多分、前の戦場でネフュータスが地上に下りた時だと思います。あの時、白い煙が充満してたから」
「あーっ、あの時か…………」
「予想ですけどね」
「で、本物のネフュータスはどこに行った?」
「それはわかりません。ただ、注意したほうがいいと思います。このまま逃げ去るとは思えませんし」
「ウル団長っ!」
銀の鎧を装備した騎士が息を弾ませてウル団長に駆け寄った。
「ウロナ村にネフュータスが現れましたっ!」
「ウロナ村だと!」
「はっ、はい! ネフュータスは強力な呪文で東門を破りました。赤鷲騎士団のスワロ副団長が戦死して、村は大混乱になってます」
「くそっ! やってくれたな」
ウル団長はぎりぎりと歯を鳴らした。
「クリル千人長に伝えろ。掃討戦はいい。全軍、ウロナ村に戻るぞ!」
騎士にそう伝えると、ウル団長は硬くしたこぶしを震わせた。
「いいだろう。今度は本物のネフュータスを殺してやる! ニセモノと同じように真っ二つにしてな」
◇
彼方が斜面を駆け上がると、ウロナ村の東門が見えた。東門は周りの壁ごと壊されていて、多くの騎士たちの死体が地面に転がっていた。
村の中からモンスターの鳴き声と村人の悲鳴が聞こえている。
――まずいな。村の中に入り込んでるモンスターの数が多そうだ。
彼方は意識を集中させて、召喚カードを選択した。
◇◇◇
【召喚カード:武神呂布の子孫 呂華】
【レア度:★★★★★★★★★(9) 属性:地 攻撃力:9900 防御力:4800 体力:5200 魔力:0 能力:防御力無効、防具無効の強力な攻撃を対象に与える。召喚時間:3時間。再使用時間:25日】
【フレーバーテキスト:りょ、呂華が出たぞーっ! 逃げろーっ!】
◇◇◇
中華風の鎧を装備した十八歳ぐらいの少女が彼方の前に現れた。
少女は切れ長の目をしていて、長い黒髪を後ろに束ねていた。肌は小麦色で、右手には槍と斧が組み合わさったような武器――戟を持っている。
「呂華、風子といっしょに村の中にいるモンスターを倒して!」
彼方は呂華に素早く命令をする。
「弱いモンスターは風子が倒すから」
「私は強い奴担当ってことね」
呂華は不敵な笑みを漏らす。
「で、その中に総大将はいるの?」
「うん。前に君が戦ったキメラの飼い主がね。名はネフュータス。外見は骸骨みたいな顔をした老人だよ」
「そいつを倒していいの?」
「もちろん」と彼方は即答する。
「ただ、それなりに手強いと思うよ。なんせ、魔神の四天王だった上位モンスターだからね」
「…………ふーん。それは楽しみだな」
呂華は黒い瞳をきらきらと輝かせた。
◇
彼方はレーネといっしょに壊れた東門からウロナ村に入った。多くの家が燃えていて、焦げた臭いが漂ってくる。
その時、中央の丘の上に巨大な魔法陣が現れた。その魔法陣から黒い霧が染み出し、白い骨だけのドラゴンが姿を現した。
ドラゴンの体は多くの人の骨が組み合わさってできていた。肋骨や大腿骨、尾骨には無数の頭蓋骨がはめ込まれている。
「ゴアアアアッ!」
ドラゴン――ボーンドラゴンは空気を震わせるような声を出して、周囲にいる騎士たちに青白い炎を吐き出した。
数十人の騎士たちが青い炎に包まれ、ばたばたと倒れていく。
「ウソ…………」
レーネが掠れた声を出した。
「ボーンドラゴンまで召喚できるなんて…………」
「危険なモンスターなの?」
「…………うん。災害レベルってやつだよ。しかも、魔術で強化されてるみたい」
「なら、犠牲者が増える前に早めに倒したほうがいいな」
「騎士たちも、そう考えてるみたいね」
レーネはボーンドラゴンに突っ込んでいく騎士たちを指差す。
「僕たちも行こう!」
「ボーンドラゴンを倒す手段はあるの? アラクネーを倒した武器は使えないんでしょ?」
「うん。でも、他にも倒す手段はあるから」
彼方は暴れ回っているボーンドラゴンに鋭い視線を向けた。




