ダークエルフ
オレンジ色の太陽が西に沈む頃、クヨムカ村から数キロ離れた森の中に黒い鎧を着たダークエルフの女――ミリードがいた。
身長は百七十センチを超え、金色の瞳は猫のように縦に細い。肌は褐色で足はすらりと長かった。
ミリードの周りには九人のダークエルフの男たちがいた。全員が森に溶け込むような深緑の服を着ていて、マジックアイテムの短剣、ロングソード、槍、弓を手にしている。
背の低いダークエルフがミリードに歩み寄った。
「クヨムカ村に銀狼騎士団のウル団長はいませんでした。騎士の数も十人程度かと」
「十人? 少ないな」
ミリードは整った銀色の眉を眉間に寄せた。
「近くに簡易の墓がありましたから、別働隊との戦いで騎士の数が減ったのでしょう」
「…………他に誰かいたか?」
「村人以外には、冒険者らしき者が数人いました。ただ、SランクやAランクの冒険者ではないようです」
「どうしてわかる?」
「プレートの色が白ではなく、茶色でしたから」
ダークエルフの男は淡々とミリードの質問に答えた。
「冒険者の強さの目安はプレートの色で判断できます。クヨムカ村にいる冒険者たちは茶色のプレートでした。それは最弱のFランクである証です」
「Fランクの冒険者か…………」
「どうかされたのですか?」
「その中に、黒髪で黒い瞳の若い男はいたか?」
「…………いました。華奢で色白の人間が」
その言葉にミリードは沈黙した。
「ミリード様?」
「…………氷室彼方だ」
「氷室彼方っ!? ザルドゥ様を倒した異界人ですか?」
「ああ。サキュバスのミュリックが言っていた特徴と一致する」
「しっ、しかし、黒髪に黒い瞳の人間なら他にもいます。氷室彼方ではない可能性も」
「たしかに絶対ではない。だが、状況が証明している。あの村にいる誰かがドラゴンを倒し、別働隊を壊滅させてるのだ!」
ミリードの声が大きくなる。
「銀狼騎士団のウル団長でもなく、Sランクの冒険者でもない。なら、氷室彼方しかいない」
ダークエルフの男たちの表情が強張った。
「では、早くネフュータス様に連絡を」
「バカなことを言うな。これは好機だぞ」
ミリードは右手をこぶしの形に変える。
「我らで氷室彼方を殺せば、ザルドゥ様の仇を我らが取ったことになる」
「でっ、ですが、奴はザルドゥ様を倒す程の強力な呪文を使うことができます。それに召喚呪文も」
「わかってる。だが、奴は人間だ。呪文を使う前に近づいて殺せば問題ない」
その言葉に、ダークエルフの男たちの表情が引き締まる。
「では、我ら全員で氷室彼方を狙いますか?」
「…………いや、待て。まずはゴブリンの部隊に村を襲わせる」
「陽動ですか?」
「そうだ。我らの目的がクヨムカ村を襲うことだと誤解させる。そして、氷室彼方が油断した時、一気に殺る」
「たしかに、それなら反撃される前に倒すことができる…………」
ダークエルフの男たちは互いに顔を見合わせて、首を縦に動かす。
「シャムス、お前の弓なら、遠くから氷室彼方の心臓を狙えるな」
「ああ。当たれば即死は間違いない」
「心臓に当てる必要はない。肩でも腹でもいい。後は俺たちが剣で殺す」
「そうだな。俺たちの連携技なら、相手に呪文を使う時間など与えない」
「ふっ、ふふふっ」
ミリードが小刻みに体を震わせて、笑い出した。
――やってやる。氷室彼方を殺して、私がネフュータス様の右腕となるのだ。
乾いた唇を舌で舐め、ミリードは猫科の肉食獣のように金色の瞳を輝かせた。