★夜の進軍(2巻部分はここで完結)★
カカドワ山の山頂付近に大小の岩が転がる平地があった。
真上に浮かんだ巨大な月が、その平地に蠢く数万のモンスターの姿を照らす。
短剣や曲刀を持つゴブリン。革製の鎧を装備したリザードマン。背丈が三メートル以上あるオーガにカマキリのような姿をしたマンティス。
モンスターたちは整然と列を作り、東に向かって歩いている。
その光景を四天王のネフュータスが高台から眺めていた。
皮膚に骸骨が張りついたような顔をしていて、胸元には能面のような小さな別の顔がある。
「ネフュータス様」
黒い鎧を着たダークエルフの女がネフュータスの前で片膝をついた。
女の髪は銀色で肌は褐色だった。目は金色で猫のように瞳孔が縦に細い。身長は百七十センチを超えていて、足がすらりと長かった。
「報告がございます」
「話せ、ミリード」
ネフュータスが低い声で女の名を呼んだ。
「別働隊が、セルバ村、ノベアプ村の襲撃に成功しました」
「予定通りだな」
「ですが…………クヨムカ村を襲った別働隊は失敗したようです」
「…………失敗?」
ネフュータスが首を右側に傾ける。
「ドラゴン使いのギナがやられたのか?」
「そのようです。ドラゴンも殺されたと報告がありました。それと、同盟を結ぶ予定だったカリュシャスもやられたようです」
「軍団長のカリュシャスもか?」
「はい。部下のリザードマンが死体を確認したと」
淡々とミリードは報告を続けた。
「クヨムカ村には銀狼騎士団の部隊が常駐していました。彼らがギナとドラゴン、そしてカリュシャスを殺したのでしょう」
「だが、軍団長やドラゴンを倒せるような数の騎士を辺境の村に配置するのか?」
「団長のウルがいたのかもしれません。銀狼騎士団のウルは前にもドラゴンを倒した実績があります」
「…………ふむ。まあ、強者は人の中にも存在するか」
ネフュータスは骨と皮だけの手を口元に寄せる。
「氷室彼方のほうはどうなってる?」
「サキュバスのミュリックからの報告はありません。時間も経っていますし、暗殺に失敗したのではないかと」
「それで、あの淫魔は戻って来ないというわけか」
「ミュリックを殺す手配をしましょうか?」
その時、ネフュータスの胸元にある小さな顔の口が開いた。
「それよりも、氷室彼方を殺セ!」
キンキンとした声が周囲に響く。
「奴は危険ダ! 油断していたとはいえ、奴はザルドゥ様を殺し、キメラも殺シタ」
「わかっている」
上の顔が下の顔と会話を始めた。
「ミュリックが暗殺に失敗したのだ。頭も切れて用心深い人間なのだろう」
「ならば、ドウスル? 王都に攻め込む時に邪魔にナルゾ。奴の呪文なら、上位モンスターやドラゴンも…………」
「どうした?」
「クヨムカ村に氷室彼方がいる可能性はナイカ?」
「それは…………」
上の顔の眉間にしわが刻まれる。
「…………ありえなくはないな。クヨムカ村に強者がいることは間違いない。それが、氷室彼方かもしれぬ」
「ならば、私におまかせください」
ミリードがネフュータスたちの会話に割って入った。
「私の部隊でクヨムカ村ごと、その強者を倒してみせます!」
「お前がか?」
「はいっ! 私の部隊は精鋭で油断などしません。クヨムカ村にいる強者が氷室彼方でも団長のウルでも確実に殺せます」
「確実にか」
ネフュータスはほら穴のような目でミリードを見つめる。
「…………いいだろう。クヨムカ村のことはお前にまかせる」
「はっ! ありがとうございます」
ミリードはネフュータスに向かって、深く頭を下げる。
ネフュータスの下の顔の口が開く。
「では、我らは予定通りイベノラ村を攻め、その後にウロナ村を落とすカ」
「ああ。ウロナ村は周囲を石の壁で囲まれた砦のような村だ。そこを落とせば、ヨム国の王都ヴェストリアを攻める拠点にもなる」
「食糧の調達もデキルナ」
「そうだ。生きている食糧が、ウロナ村にはあるだろう。たっぷりとな」
ネフュータスの二つの顔が、同時に笑みの表情を浮かべた。
この話で、『異世界カード無双 魔神殺しのFランク冒険者』の2巻部分が終わりました。
次から、3巻部分に入っていきます。
しっかりと、2巻部分まで書き続けることができたのは、多くの読者さんが、ブックマーク、高評価をしてくれたおかげです。
おかげで、モチベを保つことができました。
本当にありがとうございます。
これからも、応援していただけると嬉しいです。
書籍化目指して、頑張っていきます!