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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

埋め合わせの意思 

掲載日:2019/02/09

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一遍。


あなたも共に、この場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おっと、ここでも下水道の工事をしているのか。

 通行する人や車にとっちゃ、迷惑千万に感じるけれど、ものすごく大事なことなんだよなあ、これ。

 道とかのインフラって、誰も善意でやってくれたりしないでしょ? もうけにつながらないから。国がお金を出して、それを使って成り立つっていうのは、昔からよくあるスタイルだよね。

 目立たないところで、しっかりとかばう。これってなかなかできるものじゃない。

 それに関する一話、聞いてみないかい?


 戦国時代。

 ある領地は、敵対している勢力が、冬場に豪雪に見舞われやすく、ほとんど出陣してこない。その分、春先に軍を出してくるのはほぼ年中行事となっていて、ますます警戒を強めるべき時期に差し掛かっていたんだ。

 兵たちも城の近辺を含め、各所の見張りを絶えず行っていたが、ある晩に不審な一団を見かけることになる。


 それは寒い日が続く中、突然訪れた、暖気に包まれる日の夕暮れのこと。

 矢倉の上から、件の敵勢力と接している方角を見やっていた兵のひとりが、奇妙な一団を発見する。

 兵がその方角を見る時、視界の左半分はほぼ森、右半分は平地となっているんだが、その森の部分から、ぞろぞろと人影が出てくるんだ。

 およそ50人ばかりが姿を現し、敵勢力のある方面へと駆け去っていく。先頭を切る者の動きに合わせているようで、そのまとまりにはほとんど乱れがない。

 50人余りのかたまりはあと三回。最終的に、計200人余りが駆け去っていったんだ。


「これは妙だぞ」と、見張りの兵が報告。はかりごとを警戒するため、数十人の偵察が現地に派遣されることになった。

 その200名ほどが潜んでいた森なのだが、見張りの兵の報告によると、奴らが現れる瞬間まで怪しい点は見受けられなかったとのこと。だが偵察に参加している中で、少しく兵法をかじっている者は、やや不審感を覚えたらしい。

 動物たちの感覚や警戒心というのは、人間のそれをはるかにしのぐ。身の危険を感じたのならば、遠慮なく声を張り上げて逃げ出すことなど、しょっちゅうだ。

 これは森の中に兵を隠す時の難点としてあげられる。入り込んだ時点で鳥たちはいっせいに空中へと逃げ去ってしまうんだ。

 更にしばらくじっと待機し、鳥たちが戻って来たとしても、動き出せばまたわめき散らしながら、ほうぼうへと散っていく……。だから見張りのいう、怪しい点がなく、200名余りが木立の中から姿を現したとなると、少なくとも手練れの隠密ということになる。

 それが大人数でまとまり、何を為そうとしているのか……。


 偵察隊が森の入り口を丹念に調べた時には、もう、陽が暮れかけようとしていた。

 奴らが去ったと思しき箇所には、足跡が残っている。話を聞いた限りでは身軽そうに去っていったとのことだったが、ひとつひとつの大きさが異常なものだったんだ。

 つま先走りを思わせる、片手の指数本程度の広さしかないが、その深さは、まるで柱でも挿し込んでいたかと思うほどで、底が見えない。そのような穴が、人の歩幅で点々と続いている。


 どう見ても、一介の人間につけられるようなものじゃない。

 危険の臭いを感じ取った偵察は、一度、城内へと引き返し、明るくなってからの再調査を願い出る。

 けれども「謀略の類ならば相手に時を与えてしまう」として、取り下げられてしまう意見。引き続き、調査を行うことが申し渡されたんだ。

 一筋縄ではいかないかも、と総員はもう一度それぞれの装備を確認し、二手に分かれることに。

 一方は、奴らが出てきたという森の内部の探索。もう一方は奴らが去っていった先へと向かったんだ。


 森の中へ入った者たち。日頃から足を運んでいた場所であっても、景色が暗さを増しただけで、瞬く間に見知らぬ場所へと変貌を遂げてしまう。一同はささいな空気も見逃すまいと、松明を掲げながら中を探っていく。

 感覚からして、およそ森の中央部までたどり着いたところ、彼らのうちのひとりが不意に転んでしまう。

 木の根に足を取られたのかと思い、他の面々がそちらを向いたところ、「うっ」と息を漏らしかけた。

 転倒した者の足先にあったのは、こんもりと盛り上がった土。しかし、土は更に隆起をし続けて、ほどなく七尺(約210センチ)ほどの背丈で、髪のない丸い頭と四肢を持つ人影へと変わってしまったんだ。

 その足は、すねにあたると思しき部分までしか地表に出ていない。それより先は地面と同化していて、見えないんだ。

 他の者たちも、あるいは目前に、あるいは足元が盛り上がって、例の人影たちが続々と浮かび上がってくるのを、目の当たりにする。松明でかざしたところ、その身体は赤茶けた土の色をしていたとか。

 

 彼らは一斉に、走り始める。地面に差し込まれた足を、順々に持ち上げては、一歩を刻む。いや、差し込みなおしていくんだ。

 先に見たような、指数本分の広さしかない足の先。持ち上げられたそれが地面に触れるたび、音を立てることなく沈み込む。そして足を持ち上げた後には、あの途方もない深さの穴を残していくんだ。

 明らかに人のものじゃない。直に接した者たちはとっさに道を空けてしまったが、集団の最後尾。あの人影たちが現れる様を、ろくに目撃していない者のひとりが、彼らの前に立ちふさがった。


「止まれ! うぬら、ここで何をしている!」


 その問いに、人影の誰も答えず。

 いささかも勢いを緩めない連中に、立ちはだかってわめくばかりの彼が、壁になりようはずがない。

 次々とぶつかられた彼は、勢いのままに押し倒されてしまう。だが、相手が人だったならば踏みつけられるだけで済んだものを、事態は更に悪い方向へ。

 

 人影のひとつが振り上げた左足。それがあお向けになった彼の腹へ、きれいに吸い込まれてしまったんだ。腹を貫かれた彼はうめき声をあげるが、それも奴らの歩みを止めるには至らない。

 上げては下ろし、上げては下ろし。そのたびにびたん、びたんと、彼の背中が大きな音を立てる。

 奴らの足をきねと見立てるならば、彼の身体はそれに取り付く、モチのごとき様相だった。

 このような事態を迎えても、奴らの疾走は止まらず。

 かの勢いならどこかで戒めから放り出されることも考えられて、一同はすぐさま奴らの後を追いかけ始めた。


 対する、足跡を追っていた組は、数ヶ月前の戦ですっかり裸になってしまった、かつての森にたどり着いていた。

 前線の砦の補修と、水攻めのはかりごとのために大量の木材を消費。無数の切り株が残るばかりだったその中央部に、ぽっかり穴が空いていた。

 すっかり囲うのに五十人は要るのでは、と感じるこの大穴は、以前、木を伐った時には確かになかったはずのもの。例の深い足跡も、この穴の近くで途切れ、引き返した様子も見えない。

 恐る恐る、縁からのぞき込んでみる一同。


 縁よりわずか一尺(約30センチ)ほど下に、周りの灰がちな土よりも、ずっと茶色い液体が注がれていた。かすかに揺れているそれは、上からのぞき込むと、火にあぶられているかと思うほどの熱気が吹きつけてくるんだ。

 ひとりが、それにひるんで、思わずのけぞる。その拍子に、せり出していた縁の部分の土のかけらが、ころりと落ちた。

 ちゃぷん、と音を立ててかすかに水はねが上がる。その波紋が広がり出すや否や、穴の近くの地面が揺れ始めた。

 ただの揺れじゃない。足の裏に無数の震えが噛みついたかと思うと、すぐさま体を駆け上がって、身を震わせる。

 足が地面に吸い付いてしまったかのようだった。倒れることも、尻もちをつくこともできず、全員は感じる揺れのままに、身体を揺らし続けてしまう。

 

 その揺れに混じって。背後から、びたん、びたんと何かを叩きつける音が迫ってくる。

 振り返って、総員は息を飲む。七尺近い人影、顔も造形も今一つ判じることができない図体が、どんどん押し寄せてくるんだ。まだ地面は揺れているというのに、いささかも戸惑っている様子が見えない

 叩きつけは、後ろの方から近づいてくる。すでに先頭部分の人影たちは、一同の脇をすり抜けて穴へと到達。その中へ、飛び込み始めたんだ。

 

 先ほどの石とは、比べ物にならない大きさの水しぶき。だが、今度は逆に、揺れが急速に収まり始めた。穴のすぐそばにいた者は、人影が飛び込んでいくたびに、わずかずつだが茶色い部分の「かさ」がどんどん増しているのを、確認できたらしい。

 ようやく動けるようになった一同は、大きくなる音の出どころに目を向ける。そこには森の探索組のひとりの姿が。

 人影の足に貫かれ、馬のひづめもかくやと何度も叩きつけられる彼の髪は乱れきっている。服はすでにズタズタで、のぞく皮膚のあちらこちらには、土と血がこびりついていた。

 彼を縫い付けている人影もまた、先駆者と同じく、ためらいのない勢いで穴へと迫っている。一向に自分が引きずっているものを、意に介する様子はない。

 

 森からの追跡組が追いついた時には、間一髪。突きさされていた彼は、穴のすぐ近くの別動隊に助けられていた。

 叩きつけられる瞬間を見計らい、人影をはさむ形で、両側から待ち受けていた二人が、地面に着いた瞬間の身体を、抑え込んだのだという。

 足はそのまま抜けて、人影も迷いなく穴の中へ消えていったらしい。もう十歩遅かったら、彼も一緒に穴の中へ落ち込んでいただろう。

 

 森からの追跡組が、穴を見ることはなかった。というのも、後から後から飛び込んだ人影がなだれ込み、溶けてしまった結果、増加した水かさにすっかり隠されてしまったからだ。

 周囲の土とは、明らかに浮いた色を持つ、穴のあった箇所。

 一部の者は、ケガの上にできる、かさぶたのようだと感じたそうだ。自然の傷を、別の場所の自然が癒そうとしたのでは、と。

 その証拠に、一年が経つうちに新たに草が生え始めた穴の周囲に比べ、城近くの森では、あの人影が現れた辺りを中心に、枯れ木が目立つようになったという。


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