表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せって不幸せ  作者: 夢見たむぅ
2/10

宣戦布告のパンケーキ

3日ぶりの第1話!


前回の大雑把なあらすじです\(^^)/


失恋によるショックで堕落した生活を送っていた主人公の優真はバイト中のうたた寝(寝言)をきっかけに、米屋さんを訪れた結原美実の提案によって免罪符として喫茶店を奢るはめになってしまいそうに‥‥。

「え、喫茶店ですか? 」


 彼女からの視線に負けて、弱腰気味に考えもなく聞き返してしまう。


 正直もう彼女どころか友達すら欲しいとも思っていないので、速攻で拒否したいところだが、僕は先程アルバイトで前科を犯しているのにそれを見逃してくれるというのだ。


(今回きりならいいかな‥‥)


 孤独の安泰と免罪の天秤が後者の方にわずかに傾きかけようとしたところで、彼女がそこに重鎮を追加するかのように追撃を仕掛けてくる。


「そう、喫茶店のモーニング。あと、断ったら泣きますよ! 」


 ニヤニヤしながらこちらを見つめてくる表情から見ても十中八九泣くことなんて有り得ないが、彼女と一度朝食を食べた所でこれからの日常に何ら支障をきたすことはないと考えられるので、首を縦に振っておいた。


 僕の反応を見て彼女は何やら鞄の中身をゴソゴソとあさり始めて、やっと取り出せたかと思えば何やら作業をしている。

 

 数秒もすると、目の前にSNSのQRコードが表示されているスマートフォンが差し出されて。


「これ私の連絡先だから、追加しといてください」


 バイト中に店員に連絡先をせばむこの行為もどうかと思うが、どちらにしろこの米屋さんは販売というより、留守番に近い仕事だから客が来ることの方が少ないので、まぁ然程(さほど)問題にはならない。


 それよりも、あまり連絡先を教えたくなかった。


 人と極力関わらない生活は幸せも感じないが、不幸も感じることがない。


 この環境はたった一度の大きな失恋で心が折れてしまうような弱い僕にとっては、慣れてしまえばむしろ居心地のいい環境になっていたのだ。


「今ここで、口頭で約束すれば良くないですか? 」


 自己の恣意的な都合で相手に不快な思いをさせるのも嫌なので、断る上で当たり障りのない最も妥当な返事を画策して出た答えがこれだ。


 彼女の反応を伺うようにチラっと目線を向けると、明らかに納得していない様子でこちらを軽く睨んでいる。


 (でもその反応だと、まるで‥‥)


 自分の連絡先を知りたがっていると思ってしまう。


 勘違いで自信過剰になりたくないので声には出さないが、このケースの場合だとそう誰でも考えざる得ないはず。


「私と連絡先交換するのが嫌なの? 」


 困惑で思考を巡らせている最中(さなか)、彼女がやや強めの口調で尋ねてくるので、慌てて首を横に振った。


 目の前にいる彼女は、なら何でと問い掛けるように視線をより一層強めているのがわかる。


「えっと、その‥‥実は‥」


 僕はこの状況にシドロモドロになりながら、今日今さっき会った人に自分のこれまでの人生の話をしなければいけないのかと、自問自答を繰り返す始末。


 もちろん答えはノーであるが、その場合の切り返しがわからず悩んでいる。


 このようにさっきから考えてばかりの僕に対して、鋭かった彼女の視線はいつの間にか緩んでいて、見るからに笑いを堪えるのに必死そうな顔をしていた。


 やがて笑いのダムが決壊したのか、アハハッと彼女の笑い声が店内に響き渡る。


「優真くん面白すぎるよ。動揺しすぎ! 女の子からのアプローチにそんな反応しちゃいけないんですよっ! 」


 大変申し訳ない所ではあるが、動揺というよりはむしろ困惑であり、特に彼女を女として意識して返事が滞ってる訳ではない。


 しかし反面の事実として、そこで笑うあどけない姿の彼女は、もし僕以外の男だったら確実に惚れてしまうであろう黒髪の女神様にしか見えなかったのも事実だ。


 同時に、こんな可愛い子と一緒にいる時間の代償に、同じ程度の不幸が反射的に自分に降り掛かることに対する心配が可愛いなんて気持ちを掻き消そうとするように胸を締め付けてくる。


 何秒時間は過ぎただろうか。


 可愛い以上の感情は負の感情に押し潰されて湧いてこないが、内面とは反対に身体は勝手に彼女のQRコードを読み込んでいて。


 気がつけば読み込んでいるその手を支えるように温かい別の手が添えられていた。


「あの、コードを読み取ることくらい自分で出来ますよ 」


 温もりの懐かしい感触にふと我に帰った僕は、彼女にそう告げて柔らかくて心地のよい手を離すように示唆する。


 彼女も彼女の方で大胆な行動とは裏腹に焦るようにすぐに手を放して、顔を頬をほんの少しだけ赤らめ、続けざまに喋り始めた。


「えへへ、読み取るフリしてバックれられたら困るでしょ? 」


 すぐにさっきまでの彼女の仕草に戻って、からかうように再びニコッと笑い、そんな彼女に僕は極力目を合わせないようにして登録し終えたスマートフォンを返そうと手を伸ばしながら、ふとあることが脳に(よぎ)る。


 (ま、まさか、戸惑ってばかりの自分に母性本能が自然と表に出てきたとかじゃないよな‥‥よな? )


 だとしたら大問題だ。


 高校を卒業して6年が、大学を卒業して2年が経っている立派な大人だというのに見ず知らずの人に母性本能なんて抱かれているとしたらそんな恥ずかしいことはない。


 まぁ、大学卒業して2年間もアルバイトやってる時点で()()とは言えないかもしれないが。


 端から見たら不思議なところに危機感を覚えながら、スマートフォンを返した。


 連絡先の交換をし終えた所で、場の雰囲気も一段落着いたような空気になり、彼女は後から連絡する旨を伝えながら軽く手を振ってそそくさと店を後にしていった。


 大量の米と二人きりに戻った店内はいつも通りの静寂に包まれ、僕は留守番という仕事を再開する、もちろん居眠りなんてしないように極限まで気を張りながら。


 それから数分して気を張れば張るほど、ある1つの疑問も強く自分に主張するように膨れ上がってくる。


 (ところで、彼女は何をしに米屋に来たんだ? )


 彼女が買うというより無料で貰っていったものといえば、明日の喫茶店の奢りの予約と僕の連絡先くらいだ。


 まさかそれが目的だったとは到底思えないので、戻ってくるかもしれないと自動ドアの方を見てみると、ドアの隅っこから見覚えのある長い黒髪の女の子が店内をチラチラと覗いている。


 僕がその存在に気づいたことにその女の子が気づくと、目をそらすようにして店内に入ってきて一番人気で庶民向け品種の5kg袋のお米を手に取り目をそらし続けたままレジの前にやってきた。


「‥‥お、お米買うの忘れてた 」


 耳を澄ましてないと聞き逃してしまいそうなボソッとした微弱な声。


 恥ずかしそうにモゾモゾする彼女の仕草は、10分前までの自分と立場が逆転したかのようで何となく嬉しい。

 

「あ、やっぱりそうでしたか。1770円です 」


 嬉しいけれども、あくまで1人のお客様として丁寧に接客すると、自身の恥ずかしさの割に反応が薄いことに彼女の方は面白くないらしく、何かを言いたげに2千円を差し出してくる。


 これを気にせずに慣れた手つきでお釣りの230円とレシート、それにこの米屋さんにあるポイントカードを作って彼女に渡そうとすると不意を突くように彼女が僕の差し出した手を釣り銭ごとギュッと握って、宣言してきた。


「明日、絶対に、絶対に一番高いパンケーキ奢ってもらうから覚悟しといてね! 」


 謎の宣戦布告と同時に受け取るものはしっかりと受け取って颯爽とドアの方へ引き返していく彼女、結原美実。


 そんなナレーションが聴こえてきそうなテキパキとした一連の清々しい動作を見せる彼女であるけど、帰りの自動ドアが開き、そして閉じる間の短い時間の中で振り向きざまに垣間見えた優しく包んでくれそうな可憐な笑顔はやはり、なぜか僕の心のキズを(えぐ)ってくる。


 再び彼女の気配を感じなくなってからは、いつも通りの何も無い日常が戻ってきた。


 数人の客の相手をして、15時に後番のおばさんと交代。


 おばさんに相変わらず自分に対する当て付けのような話を聞かされながらそっぽを向かれた背中に見送られて、帰路につく。


 その帰り道の自転車、赤信号で止まり際に空を見上げてみると、果てしなく曇っていて、今にも降りだしそうだ。


 (なんだか今日は、いつも以上に疲れたな )


 空を見上げながら、つい数時間前に起きた久しい感覚の元日常に疲れを感じる。


 次第にポタッ‥‥ポタポタッと雨粒が降り注いできて、疲労を抱えた身体を浄化するかのように濡らしていった。


 家に着いて冷えた身体を暖めるための入浴など身支度を整えてベッドの上に寝転がると、自分のスマートフォンのランプが緑色に点滅している。


『新着メッセージ4件あり』の文字。


 誰だかは明確に察しはつくけれど、親以外と連絡をするのはいつぶりか正直思い出せない程だ。


 『こんばんわ〜美実です! 』


 『早速なんだけど、明日朝の10時にフレンチ喫茶ベールに集合ね♪』


 『遅刻は無しで(笑)、私も全力で起きるようにします!』


 『それじゃあ、おやすみ〜』


 怒濤のSNSの送信は時間表示からして1分以内に行われているらしい。


 文字を打つ速さについてはとりあえず置いておくとして、返信をするべきかしないべきか。


 いや、絶対にした方がいいに決まっているが、それでまた返信が返ってきたりしたらさすがに面倒くさい。


 『わかりました。遅刻しないように僕もがんばります。おやすみなさい。』


 けれでも罪悪感に負けて綴られたのが、この我ながら短調で味気のない文章。


 自分はいつからかこんな素っ気のない駄文しか打てなくなっていた。


 (今日あの程度の会話だけでもこんなに疲れているのに、明日はどうなってしまうんだろうか‥‥ )


 返信が来るかも知れないことも忘れて、スマートフォンを充電器に繋ぐと同時に疲労を癒すように自分の意図せぬまま眠りこけてしまった。


 ――――目覚ましを掛けることも忘れて。

読んで頂きありがとうございます!!


感想・質問などありましたら、書いていただけると嬉しいです( 〃▽〃)


次回からは、【奢りの喫茶店編】です!


尽力して書いていきます((φ( ̄ー ̄ )


※15〜17日ほどを目安に更新する予定

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ