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方
山道を馬に乗り蔡の娘が走っていく。
滝の側に山寺が見えて来た。
寺の中では不精髭を生やした男が横になり居眠りをしていた。
蔡の娘は寺の前で馬から降り、入り口に立った。
男はうっすらと眼を開けた。
「方」
「どうした?杏」方が聞く。
「父が殺されました」
「誰に殺られた?」
「黄と言ってました」
方は身を起こした。
「復讐に来たんだな」
方は幼い頃、道場で蔡が黄の父親を倒した事を思い出した。
「父の仇を討ちたいから力を貸して」杏が言う。「興味がない」と方は答えた。
「どうして?」と杏が聞く。方は「俺は破門になった。だからもう先生とは関係ない」と言った。
「わかりました」と言うと杏は寺を出て馬に乗り去って行った。
その姿を見た後、方は引き出しを開け、小刀を何本か取りだし、柱に投げつけた。
そして、柱に刺さった小刀を抜くと懐に入れ、寺を出て山道を歩いて行った。