第三話 賊
夜の森、其れは極めて危険な場所の一つであり近寄っては行けない……もし居たとしても、夜営なりするはず。
だから今森の中を疾走している女二人は異常なのだ。
「GRUUUAAAAA!!」
疾走する二人の前に熊の様な生き物が現れた、この生き物の普通の熊とは違い体毛は無く代わりに非常に固そうな甲殻に覆われていた、この生き物の名は『アーマード・ベアー』と呼ばれ、この世界の住民達の間では恐るべき魔物と恐れられている。
この甲殻は生半可な剣や槍、魔法は全て跳ね返し非常に鋭い爪や歯は鉄さえ切り裂く…その為この魔物を倒す事が出来るのは強力な武器や魔法を習得している実力者だけである。
この魔物に対し疾走している二人の女の内、片腕が無く左目もも無いのか眼帯を付けている長身の女…神無がアーマード・ベアー目掛け加速する。
「DAAAEEEEEEEDAAAAA!!」
加速する神無に向け、魔物は素早く二足歩行になり恐るべき速度で腕を振り下ろした。
その時神無は振り下ろされた腕に向かい斬り上げの動作で腕を振るった。
その瞬間アーマード・ベアーの極めて強靭な甲殻で覆われた腕が宙に待った…そして噴き出す鮮血悲鳴を上げる魔物。
神無の手には刀が握られていた、その刀は白く月明かりで更に白く見えるその刀は門外不出の宝刀にして守り刀…天下五剣が一振り。
『大典太光世』天下の宝刀が魔物の腕を斬り飛ばしたのだ、更に神無は一閃と魔物の胴体を撫でる。
魔物の胴体を寸断は出来なかったが腹から臓器や血を吐き出し血に伏せた。
「さっすがだね、綺麗にバッサリと」
いつの間に居たのか神無の横にもう一人の女…玲奈が地に伏し絶命した魔物をマジマジと見ながらそう言った。
神無は玲奈に言った(返り血は浴びる前に事前に回避している)
「さっさと行くぞ他の化け物が集まる」
「はいよ」
其から二人は森を疾走し、迫り来る魔物を斬り殺しながら一時間後、二人は森から脱出する事に成功した。
暗闇の森から脱け出せた彼女らを祝福するかの様に、月明かりが二人を出迎える。
「よーやく脱け出せたね…」
暫く殺風景な草原を歩いた所で、玲奈はそう言いながらペタリと地面に座る、其につられ神無も玲奈の隣に座る、何せ二人は一時間余り疾走し刀を振るって居たのだ。
「其にしても変な化け物ばっかりだったな」
そうポツリと神無が呟く、確かに先程の森に居たのは地球にいたなかった奇妙な生物ばかりだった。
「まぁ…異世界だし」
「そう言うもんなのか?」
「そう言うもんだよ……神無あれ見える?」
唐突に玲奈がある場所を指す、その方向を見れば何人かの人間が此方に向かって来ている。
「ついてるな」
「ついてるね」
そう言いながら二人は立ち上がり向かって来る人間の方に歩いていく。
「動くな!」
暫く歩き他の人間に会ったが第一声は其れだった、見れば明らかに柄の悪い人間の集団で武器も粗悪品ばかりだった。
神無と玲奈は互いに顔を見合い同時に言った。
「「賊だな」」