第11話 負け犬の意地
居合いの構えを取る少女に対し、馬鹿の一つ覚えの如く突進するユウヤ然も刀を抜いても居ない!居合いなど素人には到底出来ない技だ、少女もその姿を憐れみの表情で見る。度しがたい程の馬鹿!
だがユウヤは何故この様な行動に出たのか?其はひとえに秘策が在るからである、此処に来るまでそして今も負け犬である彼の捨て身の秘策。
ユウヤは地球に居た頃は、クラスメイトに虐められていた。
理由は分からないが何かが気に入らなかったのだろう、そのせいか高校三年までクラスメイトの陰湿な虐めを受けていたが、ユウヤの心は砕かれずそして自宅に引きこもりもしなかった。
彼には唯一の光があったからだ、同じクラスメイトで幼馴染みの 桜由比…彼女だけが彼に優しくし虐めの事を慰めてくれたのだ。
そして……とある日、彼とクラスメイトは丸々この世界に飛ばされた、その世界では召喚された人間…つまりユウヤ達40人余りのクラスメイト達は勇者としてこの世界から魔王を討伐する使命を受けた。そしてその対価として前の世界には無かった力を手に入れた。
この召喚にクラスメイト以外の人間が数人混じっていた、赤毛でゴツゴツとしたパイロットスーツの様な物を着た長身の外人、上半身裸の逞しい身体をした黒人、二人の背の小さい同学の様な女の子が混じっていた。
その四人は様々な理由でこの王宮から出ていった。
此れに気を良くしたのが、ユウヤや小説を良く読む人種の人間だ、前の世界では大人しく虐められていたが、非常に横暴になり…ユウヤも騎士団長 リーシャを騎士団から追放した直接の原因を作っていた。
そして、隣国である帝国との戦争が彼等クラスメイトの運命を変えた。
最初は何故魔王では無く人間と戦うのかと疑問に思ったが、直ぐにどうでも良くなった、この戦争で名声を上げ桜と他の女のハーレムを作る。
だが現実は甘くなかった、敵国の兵士と遭遇し戦闘になったのだが、其処でユウヤを虐めていた主犯 嵐山郷が二人の兵士に心臓を突かれ首を跳ねられ死んだ。
意気揚々と敵に突撃した郷の首が彼の彼女の元に転がる。
クラスメイト達は悲鳴を上げながら、敵から逃げた……ユウヤも桜の手を握りクラスメイトと違う方向に逃げていった。
この判断は非常に良かった、もしクラスメイトと同じ方向に逃げていたら、後方に陣取っている四大ギルドマスターが一人 アンバーの手により無慈悲な魔法爆弾にされ突撃させられていただろう。
戦場の騒音が遠くに聞こえる場所まで逃げた、二人は求めてはいなかった自由を手にした。
今戻ればどうなるか分からない、だが恐らく国が二人を探す事もない。
もはや虐めていた人間に復讐する事にも意味がない。
だからユウヤは桜を守ると本人に誓った……なのに、このまま馬鹿にされながら死ぬ何て出来はしない!
例え満身創痍でも生きなければならない!
少女は眉を潜めた、取るに足らない程の弱敵が一瞬で強者の目付きになったからだ。
だからと言って少女がやる事は変わらない。
(例え目付きが変わっても居合いで斬る!また魔法で攻撃しても寄って斬る!)
少女の腰を後ろに引き更に体勢を低くする、ユウヤが無謀な突撃を仕掛けた、ユウヤが近付く更に近付く近付く!近付く!近付く!
「………!!」
射程範囲に入ったその瞬間に少女は居合いを放った!必殺の居合いだ!だがそれとほぼ同時にユウヤの脳は異常回転し全てがスローモーションの様に遅く見える……自分目掛け迫る凶刃すらも!ユウヤはそんな現象に構わず起死回生の切り札を繰り出した。
「力よ!我に力を与えたまえ!『脚力強化』!」
詠唱と同時にユウヤの駆けるスピードが増した、これは誰でも扱える無属性魔法の一つ『身体強化』だ。
身体強化は文字通り、身体を強化する基本的で誰もが扱える魔法だ。
その魔法は慣れれば慣れるほど様々な強化が出来き、ギルドでこの魔法が完璧に出来ない者は三流と言われ、軍隊では兵士が最初に受ける訓練だ。
ユウヤの脚力強化はかなりの大雑把な物で、僅かな速度しか強化が出来なかった……だが其で充分だ。
(脚力強化!?アタシの刀が届く前に密着する気!?馬鹿!遅すぎる!)
そう!身体強化を使い刀が振り抜かれる前に近付くと言う戦法だったかもしれない、或いはタイミングをずらすのが目的だったか…だが全ては遅すぎた。
凶刃はすんなり胴体を斬り上下に分断する…ユウヤの顔は苦痛に歪むが少女を睨む!そして下半身のない上半身を捻りながら、鞘ごと掴んでいた刀を振る、既に鞘ではなく柄を掴んでいた。
当然遠心力で鞘が抜け恐るべき速度で飛ぶ凶器が少女目掛け飛ぶ、その凶器を縦回転をし回転の威力を付け刀で鞘を真っ二つにした。
其処に駆けるユウヤ!下半身はある!精神世界であるが故傷を再生できるのだ。
「ぜぁ!」
腰を使った一太刀は少女の首目掛け飛ぶ、この戦いで僅かながらユウヤも成長したのだ。
だが戦いはそんなに甘くはない、少女は中段に構えユウヤの首を貫いた。
「ゴボッ!!」
「……中々やるね、随分と変わったじゃない」
「ゴボッ……!…炎よ…力となり……敵を……倒せ!ファイヤーボール!」
感心する少女の顔を咄嗟に掴み初級魔法を唱えた、例え初級魔法でもこうも至近距離で喰らえば……致命傷!
「くそっ……!ぁぁ!?」
少女が刀を握る力が弱まり、ユウヤは力無く喉に刀が刺さったまま地面に倒れる、そして彼は見た。
少女の美しい顔が灰色に近い白の装甲になっており、目も赤く光っていた、何よりその姿は人間の倍近い程巨大になっていた。
その両肩にはそれぞれ、『斑』『鳩』と書いていた。
ユウヤは本来の姿を見た後気を失った。
第三回世界観説明
四大ギルドマスター
エナーシア王国の中で最大ギルドのギルドマスター達であり、そのどの人物も非常に強力な力を持ち並み以上の勇者もあしらう事が出来る。
四大ギルドの一つは剣の乙女である。
そして現地人至上主義を掲げている。