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「銀河連合日本」二次創作

銀河連合日本外伝 ~『ウナギもいいけど、ウサギもね!』と、バニーガールは微笑む~

作者: トファナ水

 広大な星間国家連合体「ティエルクマスカ連合」では、地球の小動物「ウサギ」の飼育が流行し始めた。

 ティ連に加盟する日本での生産のみでは、増え続けるウサギ需要に対応出来ない。そこで愛好家達はNGOを結成し、地球内の他国家からの調達を目論むが、そこには思わぬ問題があった……


※「銀河連合日本外伝 ~教育改革を行ったら、宇宙でエルフがドワーフを飼い始めた~」(N5982EK)の後日談となります。

※この作品は「銀河連合日本」(N5084B)の二次創作作品です。原作者・柗本保羽様の御許可を頂いています。


 日本の学校へ派遣された、あるディスカール人補助教員が疑問を持った事がきっかけとなり、多くの日本の学校で行われているウサギ飼育の現状が大きく問われる事となった。

 文部科学省が動物愛護の観点から通達を出すに至った結果、惰性で続けていた多くの学校はウサギ飼育廃止を決断する。

 役目を終えたウサギ達は、事の発端となった教員の働きかけにより、彼女の本国であるディスカールで引き取りを望む人達の元へと送られていった。

 ディスカールでのウサギ飼育熱はさらに広がりを見せ、実験動物としてウサギ繁殖を手がける日本の農家が愛玩用へ転向し、新たな供給源として需要に応じる様になった。

 しかしながら、膨大な人口を抱えるディスカールではそれでも需要に応じきれない。

 さらにはネット網を通じてウサギの魅力を知ったティ連の他国からも入手希望が殺到する様になり始めた。

 しかしウサギは繁殖力が並外れて強い為、万が一の野生化を警戒して、地球外での繁殖について未だ慎重な立場が取られ続けている。

 その様な状況下で、可愛らしいウサギを同志達へ少しでも多く送り届けるべく、ティ連ではウサギ愛好家団体「うさぴょん友の会」が結成された。

 ちなみに名誉会長は件の補助教員だが、実務は他の構成員で賄われている。多くは専従ボランティアだ。

 ハイクァーン経済下のティ連では、社会を維持する為に必要な労働者数が、人口に比べてとても少ない。

 しかし、衣食住が保証されているからといって、食っちゃ寝生活で一生を送る「無為徒食の身」はなかなかに辛い。

 少なからぬ地球人が、食べる為だけに意に沿わない仕事に就き低収入に甘んじているのだが、それとはまた違った悩みがハイクァーン経済下の生活にはあるのだ。

 公共事業のポストは、承認欲求を満たしたい人々によって、競争倍率が高くなってしまっている。

 それを得られずに「余剰労働力」となった大多数の人々、砕けた言い方をすれば「暇人」は、各々で「己が生きる意味」「社会的な役割」を模索する必要があるのだ。

 その為、ティ連では文化活動を目的とした民間団体が多く、そこに属し働く事で生きがいを見いだす人達もかなりの数に上る。

 地球の料理であるカレーに関する学会が設立されて話題となったが、背景にはその様なティ連社会の事情もあった。

 ウサギや猫といった地球からの愛玩動物が人気となれば、新たな文化活動を起こす格好の材料なのである。

 「うさぴょん友の会」もそんな訳で、ディスカール人だけでなく、ティ連各国から多くの献身的な志願者が集っていた。

 いずれもウサギの普及に自らの存在価値を求めた、筋金入りの強者つわもの共である。



*  *  *



 「うさぴょん友の会」はヤルバーン州、及び日本でNPOとして法人格を取得。JA、そして日本国内の動物愛護団体や獣医師会、畜産試験場といった組織と協力し、実験動物用が主体だった日本のウサギ畜産を、愛玩用へと転換を促していった。

 ゼロからの構築ではなく用途の転換である事から、およそ一年程でそれは達成されたのだが、生産頭数については頭打ちとなってしまっていた。

 日本国内での養兎場の新設も考えたが、まずは既存業者からの調達を優先したい。

 日本では、365日・24時間稼働の畜産業は不人気職業の一つであり、少子化の中では求人難が目に見えていたからだ。

 無論、「うさぴょん友の会」メンバーで飼育員を賄う事も可能だが、なるべく生産地の経済に貢献する形にしたいというのが、会の方針でもある。

 そうなると日本国外からの調達という事になるが、実験動物を扱う国外の代表的な養兎農家に問い合わせた結果、意外な現状が明らかになった。

 日本国外に於いて、実験動物の需要はむしろ高まっていたのである。

 ティ連の技術資料はある程度、日本国内でも公共図書館等で閲覧可能となっている。

 地球で言えば素人向けの解説書・入門書程度の内容なのだが、そんな初歩的な物でも他国にはオーバーテクノロジーの貴重な資料なのだ。

 それを少しでも解析し自らの物にしようと、各国は躍起になっていた。

 そして、試行錯誤で試作した物の「人体や環境への有害性」を確認する為に、ティ連の日本来訪以前よりも、遙かに多くの実験動物が消費される様になったのである。

 日本なら、有害性の検証については、ティ連の人工知能を利用してシミュレーションで済ます事も可能となったのだが、海外ではそうも行かない。

 技術提供の規制が遠因になっている面もあり、ティ連側である「うさぴょん友の会」は、心を痛めつつも静観するしかなかった。



*  *  *



 次に当たったのは、食肉用や毛皮用の品種を扱う養兎農家である。

 ウサギは本来、肉や毛皮を得る為に家畜化された動物だ。日本では廃れて久しいが、他国の多くでは、今でもその用途での飼育が盛んである。

 「うさぴょん友の会」は、ウサギの飼育が盛んで、地球内の親ティ連陣営・LNIFの一角でもあるEUへと視察団を派遣した。

 毛皮用品種のチンチラやレッキスといった品種を手がける養兎農家は、「うさぴょん友の会」の申し入れを諸手で歓迎した。

 地球では以前から、衣類への毛皮使用を反対する運動が行われており、近年はその勢いが増していた。

 化学繊維の発達によって防寒衣類の性能は飛躍的に向上し、実用品としての毛皮はその役割を終えた。然るに、贅沢品としての毛皮製衣類の生産存続は、必要悪として許容出来ない動物虐待だというのである。

 これを受け、いくつもの高名な服飾ブランドがウサギを含む毛皮製品の取り扱い終了を表明しつつあり、養兎農家は危機に陥っていたのである。

 EU各国も、これらの養兎農家への支援に頭を痛めていたので、新たな顧客となる「うさぴょん友の会」へは協力的だった。

 一方、食肉用品種については、問題が発生した。

 狭いケージでの肥育が近年は問題視されていた事もあり、養兎農家としては愛玩用への転換は問題なかった。

 養兎農家としては用途が何であれ、買ってくれればそれでいいのである。むしろ、肥育の手間がかからない分、商売としては楽となる。

 食肉用品種はフレミッシュ・ジャイアントやジャーマン・ジャイアントに代表される大型種が主体だが、これについてはディスカールで人気の高い、ネザーランド・ドワーフ等の小型愛玩用品種に切り替える事で話が進んだ。

 しかし、生産者団体との話がまとまりかけた処で、EUから待ったがかかった。

 ウサギ肉は市民の大切なタンパク源であり、残酷と批判されるケージ飼育も、廉価に食肉を提供する為の技術なのである。ウサギは食肉用の家畜として、極めて優秀なのだ。

 いくら外貨が入ってくるからといって、食糧自給率の低下につながってしまう用途変更を、政府としては安易に認めたくはない。

 養兎農家への補助金や税金の優遇といった措置の停止を盾にして再考を促す政府に加え、食肉の価格上昇を懸念する消費者団体も反対の声を挙げた。

 一方、動物愛護団体は「うさぴょん友の会」の申し入れを好機として、愛玩用への全面転換を積極的に訴える。

 EU内を割る論争になりかけた処で、「うさぴょん友の会」側が新たな提案を出した。

 ハイクァーンでは、肉類の造成も可能である。そこで、ウサギ代金の一部を、造成肉によるバーター取引としてはどうだろうか。

 言ってみれば、実質的に食肉加工を「うさぴょん友の会」が引き受ける様な物だ。

 EU側での食糧安保上の懸念緩和に加え、「うさぴょん友の会」側も、支払い外貨の節減につながる案である。

 これを受け、EUと「うさぴょん友の会」による協議が始まった。

 EUの要望は、次の通りである。


 この取引がハイクァーン技術その物の譲渡でない以上、なし崩しに域内での食肉生産その物が途絶えてしまう事をEUは懸念する。

 よって、代価として受け取る造成肉もまたウサギの精肉に限定し、かつ加工食品状態での出荷はしない事を条件としたい。

 これは、EU域内の牛・豚・鶏等の他家畜・家禽の生産農家、及び食品加工業者への影響を予防する措置である。

 また、飼育品種を全面的に愛玩用品種へ切り替えるのではなく、一部は従来の食肉用大型種のままとする事を希望する。これは、万が一ハイクァーン造成肉の輸入が途絶えた場合、ウサギ肉生産の再開を容易とする為の”保険”である。


 「うさぴょん友の会」は、特に異論もなくこれを受け入れた。

 小型種が人気とはいう物の、ウサギ飼育希望者にはあえて大型を好む向きもあるので、食肉用大型種にも需要は充分ある。

 何しろ、ティ連は数千億を超える人口を抱えている。少数派の需要も、絶対数としては膨大な物となるのだ。



*  *  *



 話はまとまり、EUでは重要な対ティ連輸出品として、愛玩用ウサギの生産が始まる事となった。

 また、これをベースとして、北米、中南米、アジア、オセアニア等のLNIFを構成するウサギ生産国とも、同様の合意が締結されて行った。

 この交易の副次効果として、ハイクァーン造成肉の認知が一般に広まり、普及した事が挙げられる。

 むしろ地球としては、そちらの方がより重要となった。

 他の生命を犠牲としなければ生き続ける事が出来ないという宿業からの脱却が、異星の技術で可能である事を示されたのである。

 特に、信条として肉類を摂取しない菜食主義者には福音となった。

 子供達へ肉類を食べさせない事を”児童虐待”として批難されがちな彼等は、それを防ぐ画期的な食品としてハイクァーン造成肉を歓迎した。

 また、宗教的禁忌から肉類を忌避する立場の者も同様である。

 ハイクァーン造成肉については、その様な教義を持つ主要な宗教が「肉ではない故に、食べて差し支えない」との見解を示したのだ。

 特に、ウサギ肉を不浄と位置づけるユダヤ教においても、各教派がその様な見解を出した事は大きい。

 イスラエルのレストランで、ハイクァーン造成肉によるウサギ料理が供される様になったという報道は、ティ連による地球の食文化への影響を示す物として、大きな注目を浴びたのである。

 そして日本では…… 例によって、ティ連市民の大好物であるカレーの具材にどうだろうかという声が挙がり始めた。

 日本ではウサギ肉の食習慣が廃れて久しかったが、カレー狂いの皆さんの情熱は激しく、程なく主要なカレー店のメニューには、「ウサギカレー」が加わる事となる。

 特に、土用の丑の日が近づいた毎年七月には、「ウナギもいいけど、ウサギもね!」という、某大手食品メーカーによるウサギカレーのCMが、毎年の様に流れる様になったのだ。

 バニーガールの衣装を身につけた女性アイドルによるこのCMは、今や「今年は誰が出るのか」という夏の風物詩となって現在に至る……



 さて、トファナ水版「銀河連合日本」外伝も三作目となります。

 本作は、具体的な人物を出さず、ドキュメント調としてみました。自分としては、この様な書き方の方が楽だったりします。

 今回取り上げてみたのは、前作でわずかに触れた「日本国外からのウサギ調達」を背景に、ハイクァーン技術が日本国外へ与える間接的な影響です。

 食糧安保、既存産業への影響、生命倫理、宗教的な解釈…… 

 別にハイテク機器でなくとも、「肉」を造成して輸出するだけで、この様に様々な考察が必要となってきます。

 造成肉その物は、作中にも挙げた通りに消費者の立場からは歓迎されるでしょう。

 ですが、生産者からみれば存続の危機となります。さらに、食糧安保上からは、ハイクァーン技術を握るティ連への食糧供給依存にもつながるのです。

 動物愛護という逆らいがたい美辞麗句に押され、ティ連に生殺与奪の首枷をつけられる事にもなりかねない。

 そこで、畜産を愛玩用に転換し、無限の市場であるティ連へ輸出。その対価として、造成肉をバーター取引で受け取るという構図を考えてみました。

 こうすれば、生産者にとってはむしろビジネス拡大となり、また、食糧安保上も畜産の基盤が保持出来ますので、いざとなれば食肉生産の再開が可能となります。


 ……ペットから始まった話が、実に壮大な社会変革へとつながってしまいました……



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≫何しろ、ティ連は数千億を超える人口を抱えている。少数派の需要も、絶対数としては膨大な物となるのだ。 地球規模で考えてティ連と付き合っては駄目だとつくづく思う一文である。 ≫日本ではウサギ肉の食習慣…
[一言] 合成肉自体は現在でも大豆製品があるのですが普及に苦労している様子 輸送問題とかで実際の手続き等、時間がかかりそう
[良い点] 生産者と消費者、食料政策の落としどころ、宗教観、個人の主義、上手く折り合いをつければこういうのもありか。 もっとも、肉という時点で意味不明の嫌悪をする人もいる。 [気になる点] アイドルが…
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