『作家刑事毒島』プレビュー
世の中には「業界小説」や「お仕事小説」と呼ばれるジャンルがあります。ある特定の業界、仕事に従事する人を主人公、もしくは主要な登場人物に配置して、その業界の内幕で起きる事件を主軸にしてストーリーを展開していく、という小説です。
今回ご紹介する作品も、ミステリでありながら「お仕事小説」のスタイルを採っています。というよりも、その「お仕事要素」のほうが遙かに比重が大きいです。その「仕事」とは何か。それは……。
『作家刑事毒島』 中山七里 著
タイトルからも容易にお察し可能でしょう。本作『作家刑事毒島』において紹介される「お仕事」それはずばり「作家」です。
しかしながら、この作品、通常のお仕事ミステリのように、特定の職業のトリビア的専門知識を紹介しつつ、業界に関連して起きる事件や謎を、これまたその職業独自の視点や知識を武器に解決していくなどといった、ある意味「ユルい」代物ではありません。タイトルに現れているように、恐ろしい「毒」をこの作品は内包しています。「毒にも薬にもならない」という慣用句がありますが、本作は間違いなく毒です。あるいは「ある特定の人種」にとっては、「決して気楽に読み流すことは出来ず、毒か薬か、どちらかにしかならない」と言い換えることも可能かと思います。その「特定の人種」とは「プロアマ問わず文芸関係者」です。
本作は連作短編ですので、その第一話「ワナビの心理試験」のあらすじをご紹介しましょう。
~あらすじ~
フリーの編集者、百目鬼二郎が刺殺体となって発見され、被害者宛てに脅迫状めいた抗議文書を送っていた三人の人物が容疑者として浮上した。
百目鬼は〈小説すめらぎ新人賞〉の下読み(応募作品の中から二次選考に上げる作品を選抜する作業)の仕事を請け負っており、容疑者の三人はいずれも同賞に応募した作家志望者で、百目鬼の下読みによって一次選考で落とされていた。さらに、百目鬼本人から酷評が並べられた評価シートを受け取っており、文書はこの評価に対する抗議として送られたものだった。
自作を酷評されたことが殺害動機となったのではないかと考えた捜査一課は、出版業界という特殊な世界で起きたこの事件に対して、刑事技能指導員である毒島真理の出動を要請する。毒島は刑事の他に、人気ミステリ作家としての顔も持つ「作家刑事」だったのだ。
いかがでしょう。あらすじ(と、サブタイトル)からもう、危険な匂いをギュンギュン感じ取っていただけたかと思います。
この『作家刑事毒島』が、そこらの「お仕事小説」や「お仕事ミステリ」と一線を画するのは、作品全体から醸し出される「危険な匂い」のためです。
さて、ここで連作ミステリである本作の第一話(作品としては、各話は「一」「二」といった漢数字だけで区分けされています)以降、第五話(「五」)までのサブタイトルを羅列してみようと思います。
二「編集者は偏執者」
三「賞を獲ってはみたものの」
四「愛瀆者」(※筆者注:おそらく「あいどくしゃ」と読ませるのだと思います)
五「原作とドラマの間には深くて暗い川がある」
どれもこれも、危険な匂いがぷんぷんしますね。
本作は誤解を恐れずに言えば、ミステリとしては特段取り上げるべきところのない、ごく普通の作品として仕上がっています。ですが、本作の肝がそこにないということは、もうここまでで十分察していただけたかと思います。そういった意味で、この『作家刑事毒島』は、謎の独自性やインパクトよりもキャラクターの魅力で読者を引っ張る、いわゆる「キャラミス」に属するという解釈も可能でしょう。
本作に登場する「キャラクター」は主人公の毒島をはじめ、一見、一癖も二癖もある強烈な曲者ぞろいですが、それをして「フィクションならではの荒唐無稽」と切り捨てることは出来ません。本作の登場人物たちは、荒唐無稽でありながら、かつ、一種異様なリアリティを持って読者に迫ってくるからです。
本作を読む方が、読むなり書くなり、または編集するなり、何かしら「文芸」に関わる立場を持つ人であれば、必ずや登場人物の誰かしらに自分自身を投影して読んでしまうはずですし、そうせざるを得ないでしょう。
この本は、特に「一」でテーマとなっている「プロデビューを目指す素人作家」は絶対に読んでおいたほうがいいバイブルだと思います。そこらの小説指南本を何十冊読むよりも、本作一冊からのほうが遙かに大きく、深いものを得られるはずです。
「プロ作家になれるというのは、また、デビュー後も継続して書き続けられるというのは、どういう人なのか?」その答えが本書には明確に記されています。
作家刑事毒島真理。彼は果たしてあなたにとって「毒」でしょうか、それとも転じて「薬」となるでしょうか。本作を読んでそれを確かめたあと、また「ネタバレありレビュー」でお会いしましょう。




