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この「本格ミステリ」が読みやすい!  作者: 庵字
少年、自分だけの美少女に出会う『僕の光輝く世界』山本弘 著
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『僕の光輝く世界』プレビュー

 本格ミステリというジャンルの小説は、何もミステリを専門としている作家だけが書くものではありません。『堕落論(だらくろん)』で有名な、評論家でもあり無頼派作家の坂口安吾(さかぐちあんご)には、『不連続殺人事件ふれんぞくさつじんじけん』を始めとしたいくつかの本格ミステリの著作がありますし(『不連続』は横溝正史(よこみぞせいし)の『獄門島(ごくもんとう)』や高木彬光(たかぎあきみつ)の『刺青殺人事件(しせいさつじんじけん)』を抑えて、第二回 探偵作家クラブ賞(現 日本推理作家協会賞)の受賞を果たしています)、SF作家の筒井康隆(つついやすたか)も『ロートレック荘事件』などのミステリを書いています。他に珍しいところでは、NHK大河ドラマにもなった『天地人』でおなじみの歴史作家、火坂雅志(ひさかまさし)も『美食探偵』というミステリ作品を残しています。

 海外に目を向けてみれば、『くまのプーさん』の作者であるA・A・ミルンの著作には『赤い館の秘密』という本格ミステリがありますし、安楽椅子探偵の嚆矢『隅の老人』の作者であるバロネス・オルツィは、一般的には歴史ロマン小説『紅はこべ』の作者としての顔のほうが有名でしょう。本格ミステリというものは、他ジャンルを専門、得意とする作家にとっても一度は書いてみたいと思わせるだけの魅力を備えたものなのかもしれません。

 さて、ということで今回ご紹介する作品は、ミステリを専門としない作家が書いた本格ミステリです。


(ぼく)光輝(ひかりかがや)世界(せかい)』 山本弘(やまもとひろし) 著


 山本弘は、SF作家、ファンタジー作家、と学会初代会長、と様々な顔を持つマルチな文筆家として有名ですが、本作はそんな山本が、私の知る限りで初めて執筆した本格ミステリです。


~あらすじ~

 マンガやアニメが好きで、いじめに遭っていた過去も持つ気弱な高校生、高根沢光輝(たかねざわこうき)。彼は学校からの帰宅途中に、黄金の仮面のようなものを被った怪人の奇襲を受け、橋の上から川に転落させられてしまう。

 幸いにも一命を取り留めた光輝は、搬送先の病院にそのまま入院することになった。そして、数日後の真夜中。光輝はベッドの上で、謎の人物により湿布薬を無理やり口に貼り付けられ、窒息させられそうになる。光輝が見た襲撃者は、またしても黄金の仮面を被っていた。



 冒頭の限られた場面だけのあらすじ紹介となってしまいましたが、これには理由があります。本作は、なるべく事前情報を遮断した状態で読むべきであると私が判断したためです。

 現在、本作を読むのであれば、講談社文庫から出ている版が一番入手しやすいでしょう。個人的な見解ですが、その文庫のカバー裏表紙に書かれているあらすじも、事前に読むべきではないと私は考えます。あのあらすじは、あまりよろしくないのではないかと思います。特に、主人公が「あの状態」になる、ということは絶対に伏せるべきなのではないでしょうか。いざ、それが知れる場面に至ったとき、読者の受ける衝撃度合いが違います。本作は主人公の一人称視点で描かれるため、読者はまさに主人公と同じレベルで衝撃の事実を受け入れることになるのです。小説における一人称記述の利点のひとつに、主人公と読者の一体化というものがあるのであれば、本作の「仕掛け」は最大限の効果を上げていると言えるでしょう。


 作者の山本弘は、前述のように、SFやファンタジーの分野で有名な作家ですが、本作にはそれらに関連する「超技術」「魔法やオカルト」といった超科学的、非科学的な要素は一切ありません。山本が書くSF、ファンタジーは荒唐無稽な「スーパー」よりも、筋道だった「リアル」系統のものが多いため(さらに何と言っても「と学会」の会長でもありました)、そもそも本格ミステリとも相性がよかったのかもしれません。


 本作は全四話からなり、それぞれが独立した連作短編という形をとっていますが、全体を貫く本筋の流れがあるため、必ず第一話から順に読んでいって下さい。

 裏表紙のあらすじも全く無視して無事本編を読了し、光輝の辿る運命を共体験し終えたあと、またネタバレありレビューでお会いしましょう。

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