『絶叫城殺人事件』プレビュー
まさかの有栖川作品二連発。
『絶叫城殺人事件』 有栖川有栖 著
もし私が森に住む木こりで、木を切っている最中に手が滑って、持っていた斧がそばにある泉に落水したとしましょう。で、泉の中から出てきた神様に、こう問われたとしましょう。
「お前が今まで読んだ本格ミステリの中で、一番面白かったのは何だ?」
私は恐らく、「『絶叫城殺人事件』か、『薔薇荘殺人事件』(鮎川哲也 著)のどちらかです」と答えると思うのです。それくらい本作が好きです。
~あらすじ~
東京のホテルで原稿執筆のため缶詰にされていた有栖川有栖(作家と同名の作中登場人物。探偵火村のワトソンでもある)は、テレビニュースで、大阪でまた通り魔殺人事件が起きたことを知る。三人目の犠牲者となった被害者の口の中からは、今までの二件の殺人同様、丸め込まれた紙片が見つかった。先の二件は、判読不明なペンでの書き殴りの羅列にしか見えなかったのだが、三件目に発見された紙片からは、明らかにアルファベットと判読される文字が書かれていることが分かった。その文字は「NIGHT PROWLER」――夜、うろつく者。
やがてすぐに、それは「絶叫城」というビデオゲームのタイトル演出の模倣であることが判明する。この連続殺人事件に際して、警察は臨床犯罪学者である火村英生に捜査協力を取り付ける。
「ナイト・プローラー」を名乗る快楽連続殺人犯と、名探偵火村英生の対決の幕が開く……
無作為に被害者を選出して殺していく、いわゆる快楽連続殺人犯が、本格ミステリ、ひいては名探偵にとって難敵であることは明白です。犯人と被害者との間に何の人間的繋がりも、「殺したいから殺す」という以外の何の動機も存在しなければ、推理の取っかかりも何もなく、探偵は現場に残された僅かな痕跡や目撃情報から、地道に推理を重ねていく以外に方法はありません。
快楽連続殺人犯は、本来であれば本格ミステリでなく、サスペンスやホラーが活躍の舞台です。しかし、名探偵火村英生は、被害者のひとりに対して感じた、ある違和感を取っかかりに、次第に真相に肉薄していきます。
殺人鬼ナイト・プローラーの正体が暴かれるとき、どす黒い真実が火村、アリスに纏わり付きます。
いわゆる、本格ミステリにあまり明るくない方が思い描く「本格ミステリ」とは少し趣を異にしますが(アリバイトリック。絶海の孤島。密室殺人。などといった、いかにもなガジェットとは無縁です)、本作はまぎれもない「本格」です。関係者の証言を総括してのアリバイ崩しや、トリックの解説など、本格ミステリ特有の、ある意味「面倒くさい」作業がない分、普段ミステリをお読みにならない方も、ストーリーを追うだけで十分楽しめると思い選んでみました。
2016年に火村シリーズが実写ドラマ化された際にも、第一話として選ばれた本作。単行本では、表題作を含む全六作で構成されています。どれも独立した短編、中編ですので、どの作品からでも楽しめます。
それでは、「ネタバレありレビュー」でまたお会いしましょう。




