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この「本格ミステリ」が読みやすい!  作者: 庵字
ミステリヲタの中のミステリヲタ、出て来いや!『ミステリー・アリーナ』深水黎一郎 著
41/84

『ミステリー・アリーナ』ネタバレありレビュー

『ミステリー・アリーナ』いかがだったでしょうか。

 次から次へと出てくる推理。そしてそれがことごとく破られていく。その階層、実に十五段階! 多重解決ものミステリとして、これを越えるのはほぼ不可能なのではないでしょうか。

 しかも驚くべきは、一回解答が否定されるたびに最初に戻るのではなく、否定された推理を抱え込んだまま、次の階層に行くという呆れた構成です。確かにそのしわ寄せは至る所に見られます。無意味に跳びはねるだけの「たま」(これはこれで大変面白いですが)終盤になると、トリックのほとんどが叙述に頼る。など。ですが、それを補って余りある魅力が本作(正確には作中作)にはあると思います。

 この十五段階トリックの魅力を最大限引き出すためには、どうしたらベストか。作者が考え出した構造、それが、出題者と解答者の対決という構図を用いた、この『ミステリー・アリーナ』でした。


「多段階解決によるしわ寄せ」と書きましたが、作者の深水黎一郎(ふかみれいいちろう)にしてみれば、そんなことは百も承知です。深水は、その「しわ寄せ」をも効果的に使用しました。ここで生きてきたのが、「解答者対司会者」という構図です。

 ミステリー・アリーナ(作品タイトルではなく、作中の番組)に恐るべき(しかし、作中では合法な)目的を与え、さらに番組主催者の目論見という上位の要素を入れる。主催者(司会の樺山桃太郎(かばやまももたろう))にしてみれば、「絶対にこの目論見を見破られるわけにはいかない」ひいては、「絶対に解答者を出してはならない」この執念があるからこそ、「汚いぞ!」という誹りを受けるような解決であっても強行突破する。半ばこじつけ、無理矢理な解答に説得力を持たせることに成功しているわけです。


 この司会の樺山桃太郎。とんでもないやつではありましたが、ミステリマニアとしては極めてオーソドックスかつ、正統派な男です。特にそれが現れているのが、ラスト近くになっての一ノ瀬(いちのせ)とのやりとりです。

「多重解決にするのであれば、〈ループもの〉や〈パラレルワールド〉といったSF要素を使えば楽なのに、どうしてそうしなかったのか」と問う一ノ瀬に対し、「パラレルワールドもタイムリープも、全く信じていない」と言い放ちます。なんという正統派でしょうか。

 さらに、「世界はいまここにあるたったひとつ、人生は一度きり(中略)一度収束してしまった過去は絶対に変えられない。パラレルワールドだのタイムリープだのは、その現実の重みに耐えられない連中が、逃避しながら見ている夢に過ぎない」と辛辣な言葉を投げかける、揺るぎない人生観を持った人物でもありました。

 加えて、番組進行中に「番組的にも、もうどんどんぎ(せいしゃ)、いやもとい解答者が名乗り出て欲しいところです!」や、「それでは五所川原さんも、ぞ(うき摘出ブース)、いやもとい、解答済みブースの方へと移動して下さい」と本当のことを言い掛け(括弧内は筆者の想像です)、窮地に陥ると山形弁になって誤魔化そうとするなど(作者の深水が山形出身のためでしょう)、実に味わい深いキャラクターでした。


 本作の問題となったテキストには、「多重人格」「性別誤認」「年齢誤認」「時間誤認」「生物誤認(人間と思わせて動物)」「漢字の読み方誤認」「意図的に現場にいる人物を隠すテキスト」など、ミステリにおける、ありとあらゆる(特に叙述方面に特化した)トリックの例が出てきました。本作を読み終えたあなたは、もう今後叙述トリックに騙されることはなくなるでしょう(?)。


 それでは、次回の本格ミステリ作品で、またお会いしましょう。

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