『超・殺人事件―推理作家の苦悩―』プレビュー
本エッセイは「これからミステリを好きになってもらいたい」というのが主な趣旨です。本エッセイがきっかけとなって、取り上げた作品を読んでいただけたなら、そして、その作品を、ミステリ小説を好きになっていただけたなら、これに勝る幸せはありません。
さて、紹介した作品以外にも、何冊かご自身でお選びになったミステリを読んでみた。という方もいらっしゃるのではないでしょうか。そういうあなたは、すでにミステリの中級者と名乗ってもいいはずです。また、本エッセイをお読みいただいている読者の中には、すでにミステリを愛読されている方も多くいらっしゃるかと思います。
そういったことで本エッセイの読者の方々が、あまねくミステリ中級者から上級者で占められるようになったのでは? というタイミングで、ついにこれをご紹介するときが来ました。
『超・殺人事件―推理作家の苦悩―』 東野圭吾 著
『容疑者Xの献身』に続き、東野作品を取り上げるのは二回目です。『容疑者X』をはじめ、東野圭吾はヒット作を連発する、押しも押されもせぬ本邦指折りの大作家となりました。しかし、最初からそうだったわけではもちろんありません。今からでは考えられませんが、東野圭吾も「売れない時代」というものは経験しています。そんな、酸いも甘いもかみ分けた東野だからこそ書ける問題作。それが『超・殺人事件―推理作家の苦悩―』です。
本作は全八編からなる短編集です。タイトルは短編集全体に付けられたもののため、表題作というものはありません。その中から、最も問題作と思われる「超読書機械殺人事件」のあらすじをご紹介しましょう。
~あらすじ~
ミステリ評論家の門馬は、さるミステリ小説の書評を、かなりの酷評で書き上げた直後、「しまった」と思った。それは門馬からしてみれば酷評に値する作品だったが、付き合いのある編集者絡みで、好意的に紹介しなければならない案件であったことを思い出したのだった。書き直さなければならないと途方に暮れたままひと眠りした門馬は、目覚めたあとにセールスマンの訪問を受ける。髪を七三に分け、濃紺のスーツを来たそのセールスマン、黄泉よみ太は、『ショヒョックス』なる商品の売り込みに訪れたと語る。黄泉によれば、その『ショヒョックス』は中に本を入れると自動的に内容の要約をプリントアウトしてくれる機械だという。さらに黄泉は、『ショヒョックス』のもうひとつの機能を門馬に紹介する。それは、読まずして本の書評を書くことが出来るという機能で……。
中には真っ当な(それでも変化球ですが)ミステリ作品も収録しているのですが、本短編集は、この他にも問題作が目白押しです。「超税金対策殺人事件」「超理系殺人事件」「超高齢化社会殺人事件」「超長編小説殺人事件」など、そのタイトルから、ミステリ界における何をネタにしているのか、おぼろげながらお分かりいただけるかと思います。特に「超長編小説殺人事件」などは、私も含めた素人作家に対しても身につまされる話なのではないかと感じます。
本作の初登場は二〇〇一年。それから十六年が経ち、ミステリ界はもとより、小説を取り巻く環境は大きく変わりました。ウェブ小説という媒体の登場で、我々は誰もが自作の小説やエッセイを世界中に発信するという手段を得ました。そこには、かつての「同人誌」のように特定の場所に行かないと入手出来ないというようなハードルもなく、自宅、外出先関係なく「アマチュアの書いた作品」を閲覧することが出来るようになりました。そういった意味では「プロ」「アマ」の境界は非常にあやふやなものになっていると言えるでしょう。「思い立ったその日からすぐに作家になれる」そんな書くこと、発信することへのハードルが無いに等しいほどにまで下がった現代においてこそ、本作のテーマはより大きく重く、我々に前にその巨躯を横たえており、今こそ本作を読む意義は最高潮に高まっている、と考えるのは牽強付会に過ぎるでしょうか。
そういったテーマ性云々は横に置いても、このエッセイで取り上げる以上、本作が大変読みやすく(一部、意図的にそうでない作品もありますが……)、面白い作品であることに間違いはありません。「ミステリ」とは言えない作品も含まれますが、今回は番外編ということでご容赦ください。
お読みになられたら、また、「ネタバレありレビュー」でお会いしましょう。




