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この「本格ミステリ」が読みやすい!  作者: 庵字
二時間ドラマだけじゃない『殺しの双曲線』西村京太郎 著
35/84

『殺しの双曲線』ネタバレありレビュー

(ころ)しの双曲線(そうきょくせん)』いかがだったでしょうか。

 冒頭に作者が宣言した「双子入れ替えトリック」これは東京で起きた強盗事件だけではなく、宮城山中での事件にも使われていた。これには見事騙された、という方も多いのではないでしょうか。「双子入れ替えトリックは宣言通り使った。ただし、ひとつだけとは言ってない」と作者のほくそ笑みが目に浮かぶようです。

 双子強盗の巧妙な策略。山中のホテルでの犯人入れ替わり。ミステリ的にも唸らされるトリックが満載だったのではないでしょうか。そして、それらが帰結した犯人の犯行動機。本作の登場はプレビューでも書いた通り一九七一年なのですが、その当時からすでに「大都会の無情」とも言うべき形は出来上がっていたのです。それから四十年以上が経過しましたが、現代でも十分に通用するテーマだということは複雑な気持ちになります。


 本作では冒頭に、犯行を決意するに至った双子の犯人の心理描写がまず書かれているのですが、もちろんこれは東京で強盗を繰り返した小柴(こしば)兄弟ではなく、真犯人のことです。そのあとすぐに東京での双子強盗が始まるため、読者は「この双子の犯行が始まった」と思ってしまうのですが、ストーリーが進むにつれ、ラストを読むまでもなく、実は冒頭の双子は小柴兄弟のことではない、と分かるように書かれているのです。冒頭の記述では「兄弟は離れて暮らしていた」と書かれているのに対し、小柴兄弟は、マンションの一室に同居していることが分かります。具体的な記述はないのですが、この強盗のために昨日今日同居を始めた、という雰囲気ではなく、小柴兄弟はかなりの長い間同じマンションで生活をしていたように描かれています。明らかに冒頭の記述と矛盾しています。実に巧妙な仕掛けでした。


 最後に刑事の前に立ったのは、早川(はやかわ)だったのか西崎(にしざき)だったのか。「自分の犯罪は罪なき人を誰も傷つけていない」と(うそぶ)く犯人に告げられる、アクシデントで失われた小さな命。物語は全ての決着を語らないまま静かに幕を落としました。派手で凄惨な犯行とはあまりに対照的な、物寂しいラストが優れたコントラストとなりました。


 小説の構成として見ても、細かく章立てされテンポがよく、各章で何かしらの動きが起きる。大衆小説として一ページ、いや、一行たりとも読者を飽きさせない。という工夫、執念が見え、さすがの貫禄でした。


 西村京太郎の作品は膨大な数に上り、すでに絶版で入手困難な作品も多数あります(悲しいことに、プレビューで紹介した『名探偵シリーズ』も何作かがそうです)。ですが、最初期に出版された本作は、シリーズ探偵の十津川(とつがわ)警部が登場しないノンシリーズであるにも関わらず、何度か装丁を変えて未だに新刊で入手出来ます。このことが本作の価値を雄弁に物語っているといえるでしょう。


 それでは、次回の本格ミステリ作品で、またお会いしましょう。

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