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最高傑作の前に立ちはだかる壁『月光ゲーム』

 有栖川有栖(ありすがわありす)の最高傑作は何か? と問われたら、『双頭(そうとう)悪魔(あくま)』か『女王国(じょうおうこく)(しろ)』を上げる方が多いのではないかと思います。(私はプレビューでも書いた通り、『絶叫城殺人事件ぜっきょうじょうさつじんじけん』ですが)

 この二作は、火村英生(ひむらひでお)と並び、有栖川作品のもうひとりのシリーズ探偵、江神二郎(えがみじろう)が活躍する別シリーズ(「学生アリスシリーズ」とも呼ばれています。対して火村のものは「作家アリスシリーズ」です)の作品で、そのシリーズ三作目と四作目に当たります。どちらも甲乙付けがたい本当に名作で、本格ミステリとして、これを越える作品を書くのは容易でないか、ほとんど不可能なのではないかというレベルです。どちらも文庫本で上下巻に渡る大作なのですが、展開の巧みさに加えて、有栖川のやわらかい文体に目が誘導されるように、ついつい読み進めてしまいます。

「そんなに傑作なら、ここで紹介すればいいんじゃないの?」と言われそうです。そう、紹介したい。何としても読んで欲しい。ですが、この二作の前には、大きな壁が立ちはだかっているのです。その壁こそ、『月光(げっこう)ゲーム』江神シリーズの第一弾にして、有栖川のデビュー作です。

 この『月光ゲーム』何が壁なのかといって、登場人物の多さです。全部で十七人もいます。「長編小説なら、それくらい」と思われるかもしれませんが、本作は、「脱出不可能なエリアに閉じ込められる」という、いわゆる「クローズド・サークルもの」なのです。十七人がほぼ一気に出てきます。『仮面ライダー龍騎(りゅうき)』のライダー数よりも多いです。しかも全員大学生。探偵の江神と語り手のアリスを除くとしても、まだ十五人もいます。もう、誰が誰やら……。中身は当然、しっかりとした本格であることに間違いはないのですが、事件自体もなかなか起きず、気軽に手を出したら、「第一章途中でブラバ」されてしまう危険性が非常に高い。

「じゃあ、『月光ゲーム』をとばして読めばいいじゃん」と言われそうです。そう、それでもいい。いや、よくない。なぜって、読み切りミステリの火村シリーズと違い、江神シリーズは主人公たちの青春ストーリーという縦軸があるからです。江神を始め、主人公アリス(火村シリーズと同じく作者と同名の登場人物がワトソン役を務めていますが、火村の相棒とは別人です。作品自体も恐らく別世界です。同じ「オプティマス・プライム」という名前を持っていても、作品により別人。みたいなものです)たちが辿る時間軸通りに読んでいってほしい。アリスと江神の出会い、そこからストーリーを楽しんで欲しい。それでこそ、第二作の『孤島(ことう)パズル』も含め、『双頭の悪魔』『女王国の城』は優れた「本格ミステリ」としてだけでなく、優れた「青春本格ミステリ」として味わえる。

 本エッセイのテーマとは逸脱するので正式にご紹介は出来ませんが、『月光ゲーム』読んでみて下さい。『月光ゲーム』不満点は、ここだけです。事件が起きて以降の展開は一気に加速します。江神が見事な推理を披露します。

 第二作の『孤島パズル』は問題ありません。それでも登場人物が十五人(江神とアリスを除くと十三人)出てきますが、年代や役割がばらけているため読みやすくなっています。そして、いよいよ『双頭の悪魔』です。みんなでこの感動を共有しましょう。

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