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この「本格ミステリ」が読みやすい!  作者: 庵字
ミステリ賞総ナメ!『容疑者Xの献身』東野圭吾 著
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『容疑者Xの献身』プレビュー

 ミステリに興味のない方も、タイトルくらいは耳にされたことがあるのではないでしょうか。今回はこちら。


容疑者(ようぎしゃ)(エックス)献身(けんしん)』 東野圭吾(ひがしのけいご) 著


 東野の看板タイトル『探偵ガリレオ』シリーズの長編。劇場映画化され、小説自体も直木賞のほかに本格ミステリ大賞をはじめ、数々のミステリ大賞の一位に輝き作者の代表作となりました。

 映画でご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、原作は映画とはまた違った魅力があります。


~あらすじ~

 アパートに一人暮らしをしている高校の数学教師石神哲哉(いしがみてつや)は、隣室に住む花岡靖子(はなおかやすこ)が、離婚してからもしつこくつきまとう元夫を殺害してしまったことを知る。靖子に密かに想いを寄せる石神は、自首しようとした靖子を引き留め、その卓越した頭脳を駆使して犯罪の隠蔽を目論む。靖子とそのひとり娘美里(みさと)を守るために……


『探偵ガリレオ』シリーズの探偵役、湯川学(ゆかわまなぶ)は、実写ドラマでは福山雅治(ふくやままさはる)が演じて当たり役となりました。しかし、シリーズ第一作『探偵ガリレオ』の時点では、湯川は俳優の佐野史郎(さのしろう)をイメージして書かれていたということをご存じでしょうか。

 シリーズ第一作『探偵ガリレオ』の湯川初登場シーンの描写を抜き出してみましょう。


「長身で色白、黒縁眼鏡をかけた秀才タイプの顔つき」

「前髪を眉の少し上で切りそろえた髪型」

「優男に見える」


 はい、佐野史郎ですね。(この縁で、佐野史郎は文庫版『探偵ガリレオ』の解説を書いています)

 ですが、ドラマ化に際して福山が演じ大人気を博したことにより、読者はもう湯川を完全に福山のイメージで読んでしまうでしょう。本作では、湯川が「白いパンツに黒のカットソーというスタイルに、小さめのサングラスをかけ、ガードレールに腰掛けてソフトクリームを食べている」という、配役が佐野史郎ではあり得ないであろう場面が出てきますし(残念ながらこのシーンは映像化されませんでした)、そもそもからして、本作の主人公(この物語は湯川が主人公ではありません)石神が湯川に対して、「湯川はいつまでも若々しいな。俺なんかとは大違いだ。髪もどっさりあるし」と同年代の友人に対して外見的なコンプレックスを吐露するという重要な場面があります。

 これは作者の東野が福山をイメージして書いたためなのか? と思ってしまいますが、ドラマ『ガリレオ』が放送されたのが2007年。それに対して本作は、2003年から2005年まで「オール讀物」に連載されたのが初出です。東野はシリーズがドラマ化される前に湯川を「イケメン探偵」として設定し直したということなのでしょうか? 恐るべし東野圭吾。


 東野の小説は、その都度必要である情景、心理描写を淡々と積み重ねていく、「最低限の情報で最大限の効果を上げる」とでもいうような非常に状況を把握しやすい文体で書かれています。そのスタイルは、我が新潟が生んだ偉大なる「ダブルサカグチ」のひとり、坂口安吾(さかぐちあんご)が著書『日本文化私鑑(にほんぶんかしかん)』で現した、「美は美を意識したところからは生まれてこない。どうしても必要なものだけで構成された文章だけが美しい」という「小説の真骨頂」を体言しているかのようです。(蛇足を承知で書くと、新潟が生んだ「ダブルサカグチ」のもうひとりは、言わずと知れた声優の阪口大助(さかぐちだいすけ)です)


 さて、本作は最初に書いたように、「第134回直木三十五賞」をはじめ、「第6回本格ミステリ大賞」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」「本格ミステリベスト10」全てで第一位に輝き、2005年度の各ミステリ大賞を総ナメにしました。映画ですでに観たという方にも、原作小説でもう一度本作を味わっていただき、「ミステリはやっぱ映像より小説だな」と思っていただけたら幸甚です。


 それでは、お読みになられたら、また、「ネタバレありレビュー」でお会いしましょう。

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