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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

P.S I Love You

作者: のう、カイム。鈍き魂よ。最後に聞いておきたいことがある。……その者とともにいたい。その者を守りたい。その者の体温を感じたい。その者の為ならば命の、魂の底まで燃やし尽くしても構わぬ。

11月の下旬、ケイはいつも通りSNSでのやりとりに意識を傾けながらもパソコンの電源を入れた。

仄かに橙色をした人工的で暖かな光が天から降り注ぎ、目の前に映し出された画面の発光は距離のせいか少しばかり強烈に感じられて一瞬、彼女の瞼を閉ざさせる。コンマ数秒の間に電子の光と水晶体によるキャッチボールが数回行われると、目の前のモノに対する認識もハッキリとして行く。


そして彼女は無意識的に“Seepe”と呼ばれる通話を主としたコミュニケーションツールを開いて受話器のマークまで矢印を動かすと、右手の人差し指に軽く神経を集中させてマウスの左側を押し込み、魚座の星々が光り輝く美しい夜空を通じてアダムとイヴを繋げる福音を奏で始める




「オッスオッス」


その一言で私は自然と頬が緩み、口は弓なりに曲がりそうになるが必死に抑えて声色を変えないように返答する


「やあ、カワちゃんは元気にしてた?」


たったそんな一言を捻り出すだけでもこんなに労力を要するのか…


「どうしたの?もしかしてケイちゃんまだ緊張してるの?」


……この子には何でも見透かされちゃってるんだな


「もう付き合って一ヵ月も経つのにそんなガチガチだとこっちまで凝り固まっちゃうよ!ガチガチガンテツ!」


そうやってジョークを交えながらいつも彼女は私が最初に持っている妙な緊張感を取り払い、表情筋を優しくほぐしてくれる


「あ!ねぇねぇケイちゃん!この前部活でプチ三駆の大会が―――」


続けてカワは話し続ける


「カワちゃん、もうそれ恒例行事なんだね」

「え?何が?」

「その自分語りだよ……毎日じゃん」


私はそう言って彼女の癖を指摘するが実際のところ全く悪い気はしない。彼女の近況を聞くのはとても楽しいし、何より嬉しそうな声はイヤホンを伝えて私の脳内でその様子をいとも簡単に描き出す。そして少し前に彼女の口から発せられた通り、私はカワと付き合っている


「……ってことがあったんだよね!」


近況を全て語り終えた彼女は飲み物を啜る。いつも通りココアを飲んでいるのだろうがなんとなくその真偽を問いてみる


「カワちゃん、今何飲んでるの?」

「あー!そういえばまた“カワ”って呼んでる!!二人きりの時は“ガバ”って呼んでって言ったでしょ!もう!ひどいよ!」


そうして彼女は声を張り上げる。しかしそれが本当に立腹しているわけではないのだとすぐに察することが出来た。と言うのはカワの声色が一切変わっていないからである、いつもと何一つ変わらないその声はとても可愛らしくて世界一の音色だとも思えてくる、一切の誇張はなく少なくとも今の私にはこの声を耳という部位と聴覚という感覚を通じて余すところなく全身に染み渡らせていく


「ごめんよ“ガバ”ちゃん、気を付ける」


私はあえて強調をして言い直す。先ほどの彼女を見ていると何だかいじらしくて少し悪戯をしてみたくなったのだ


「もう!またそうやって適当に流すー!もうゆるさないから!」

「適当じゃないよ、だから許してよ?ね?」


半笑いで私は答えた。私はこの状況をかなり楽しんでいるのも然ることながら、お互いに顔が見えていない今の状況でも、カワは腰に手を当てて彼女は精いっぱいの“怒った”を演出している様がありありと浮かび上がってくるのだ。その光景と彼女なりの表現があまりにも愛おしく、自然と口角が上がってしまうのだ。


「ホントにホント……?ケイちゃん、嘘か本当かたまに分からなくなる……」


そう言って彼女はまたココアを啜った。そして一言を付け加えた


「チョットだけ……こわい……」


明らかに声のトーンが変わって、声量も弱々しくなった。私はここで自分のやっていた悪戯が恋人を傷つけてしまったのだと気づいた


「い、いや!本当に―――」


言いかけるが言葉を止める。ただからかう為に少し前に自分でやった行動のせいで今どんな言い訳をしても、踵を返してもそれは全くの逆効果だ。過去の私に心底呆れる


「ケイちゃん……?」


言葉が詰まっているのを察した彼女が心から心配そうに聞いてくる。そこでやっと私が今カワに発すべき言葉を悟り、少し緊張しながらも発声をした


「ガバちゃん」


彼女と付き合うことになった時に決まった大事な大事な決まり。世間一般から見れば同性のカップルなんて特異なもので、風当たりも強くなる。それでも向き合ってくれた彼女が一番笑顔になる言葉


「ガバちゃん」


私の唯一無二のパートナー、そんな人から許された甘くて尊い私だけの呼び名を―――


「ガバちゃん」


私のことを何でも見透かしちゃう恋人に、心を込めて


「“ガバ”ちゃん、大好きだよ」

「ありがとう。あたしもだいすきだよ」


紡がれた言葉は夜空を通じて電波の海へと溶けていった




『想い』だけを大切に届けて―――







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