第3話
カゲハとフウカの二人は、昼食を食べに街に建設されたばかりの知り合いの店にやって来ていた。
知り合いというのは、ハルマという二人よりも年上の男性である。
ハルマは昔から料理人になることを目指していて、復興すると同時に自分の店を出すことになったのだ。
もちろんかなり料理がうまい。カゲハの知るなかでは最もうまい料理人だろう。少なくとも≪ロンドン≫では一番のだと断言できる。
カゲハとフウカの二人は、席に着いて料理が出てくるのを待っていた。
「はい、おまちどう。フィッシュ&チップスセット4つね。」
「おっほ~っ! うまそー!」
フウカは早く食べたいとばかりに身を乗り出す。
そこにハルマがフィッシュ&チップスセットを1つカゲハに、残る3つをフウカの前に置いた。
「おいフウカ、そんなに食うとマジで太るぞ。」
「いいもんっ! どうせこれから動くんだもん。それに、私の辞書に太るの文字はないんです~!」
プンすか怒るフウカからは確かに、太った姿を想像できない。
栄養は腹にも脳にもいかないのだから、胸だな。すべてが胸に吸い取られていると見た。
「これからどっかいくのかい、カゲハちゃん?」
と、ハルマが聞いてきた。
「うん。まだ修復されてないところを探索しに行くよ。」
ハルマはカゲハが15年前のことを調べていることを知っている。
どこを調べるかなとカゲハが悩んでいると、ハルマが情報をくれた。
「今度、西部の方の修繕が始まるんだってさ。修繕が始まると調査しにくいんじゃないか?」
「本当か! ありがとう。今日はそこにいくよ。」
カゲハがそう決めると、フウカが口いっぱいに食べ物を詰めながら抗議してきた。
「ふぇ? ふぃやだよほぉんふぁの。ふぉこまでふぃくのふぉふぉいもん。(え? 嫌だよそんなの。そこまで行くの遠いもん。)」
「おいおい、食べるか喋るかはっきりしろよ、はしたない。それに、嫌じゃないんだよ。今しかチャンスがないんだぞ。歩いて1時間くらいじゃないか。全然遠くない。」
歩いて1時間などそこそこ遠いんだが、いまのカゲハにその感覚は無くなっていた。
≪ロンドン≫は時計塔を中心に復興を続けているが、特に破壊の酷かった西部側は復興が後回しにされていた。逆にもう西部側に手が出せるようになるほど復興が順調に進んでいるということだ。
その後10分間に渡る論議の末、フウカの意見をねじ伏せて西部地方に行くことに決まった。
2人は昼食を食べ終えると、探索用の道具を取りに1度家に寄ってから、1時間近くかけて徒歩で西部へ向かった。
西部はいまだに大崩壊の凄まじさが鮮明に感じられるほどの様子だった。
家屋はペシャンコに潰れたり、一部が吹き飛んでいたりしていた。さらに、道には何かにえぐられた様な跡がのこっている。
カゲハとフウカの2人は改めて、大崩壊の凄惨さを感じて、息をのんだ。
「すげーな、こんなに酷かったんだな……」
荒れ果てた街を見て、忘れていた訳ではないのに、大崩壊の酷さが大きな衝撃となってカゲハにぶつけられたようだった。
フウカの顔もいつもよりも少し暗い表情に見える。
いつまでも眺めてはいられないので、「さて、」ときりだす。
「調査を始めるか。いつも通りな。」
「……うん……」
調査は初めに街の崩れ方を調べ、その後手がかりになりそうなものを探す。何か不自然なものや、他の場所との相違点についてなどを中心に調べていく。
「壊れ方がひどいな。家屋が上から押し潰されているみたいだ。」
「道は何かにえぐられているみたいだよ。結構深く大きく崩されているね。」
「崩壊のされ方が前に調べた地区とは違うな。ふむ……」
これまでの調査を書き留めたノートをめくり、カゲハが言った。
探索を始めてから6回目の鐘の音が遠くで聞こえた頃、2人は1度休憩に入った。
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