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暗黒と純白

作者: もい

心の病を抱えた人は最近増加しているという。


その半数がうつ病だと診断されるらしい。


だが心の病と脳の病と両方にもあてはまる病もあるという。


境界性パーソナリティ障害もそのひとつだ。


この物語はその障害の中でも高機能と名のつくパーソナリティ障害の2人が

主人公である。

男なんてみんな一緒だと思ってた。


心を奪われそうになるなんてないと。


だから相手に決まった人がいようとも


恋愛ごっこをするだけだから自由でしょ?


深入りはしないから。


そんな理由で体を重ねた人はたくさんいる。


だけど


恋愛ごっこすらしてはいけない相手が私には存在したのだ。






恋愛本によく相手と同じ動きをするとお互いの距離が縮まるというテクニックが書かれている。


ミラーリング。


ミラー。。


自分にそっくりな人


知りたくなかった自分を知ることになるとは知らずに。


出会った瞬間に「ごっこ」が始まるわけではない。


初めて食事をした日、私達はベットをともにした。


そんな経験は今までもあった。


1度した後。彼からの連絡は途絶えた。


私もあえて連絡はしなかった。


私も相性が悪いなと思った相手をいきなり音信普通にすることがあるからだ。

返信せずに2週間。3週間。


そんな時私なら相手から「どうして連絡くれないの?」「また会おうよ」なんて


連絡が来たらうっとおしくて仕方なくなるから。


そして本当の理由を述べようものならばその人との関係はそこで切れてしまう。


都合のいいときに都合よく会える相手をストックしておきたい私


連絡しなかったを連絡できなかったに変換して都合よく誰かに連絡する癖がある。


だから彼もそういう類の人間なんだろうと放っておいた。


そしてそれから2週間後。


突然彼からの連絡。


「明日暇だったら遊ぼうよ」


予定もなかった私は了承した。


そしてその翌日。夜になっても彼から連絡がこなかったので一度だけ


「今日どうする?だめなら他に予定いれたいんだけど」と連絡した。


結局その日彼から連絡がくることはなかった。




正常な人間ならたぶんそこで何度も連絡を入れるか、約束しておいてなに?と怒りの連絡をするか。


その人間からの連絡をここでシャットアウトする。


どれかだと思う。


だけど私は彼のことがなんとなくわかるのだ。


同じ類だから。確信した。


同じこと私もやってしまうから。


約束をしていたとしてもその後にその時の第一候補からの連絡が来たらそちらを優先する。


そして先約のほうはなかったことにしてしまう。


だけどもし万が一。その第一候補からキャンセルがでた場合にストックしておきたいのだ。


暇な時間を一人で過ごしたくない。けれど一番の相手が来れるかどうかわからない場合。


二番手を断ってしまうのは惜しいし土壇場で他の誰かが見つけるのは至難の技だ。


だからギリギリまで断らない。


もしギリギリになって断ったとしても相手にグダグダ言われるの嫌だし。


埋め合わせするよなんて思ってもないことをいったら連絡がしつこくなるかもしれない。


だからスルーする。


後日、その相手と遊ぼうかなと思ったときにはなんでもなかったかのように連絡をし

相手にはあの時は本当に具合が悪くて・・などと適当に言い訳をする。


そしてそれを許してくれる時点でもうその相手は私の罠にはまっている。


嘘のようだが私にはこういう方が何人かいる。


自分の都合がいい時、飽きる時間まで一緒にいてまたねといってさよならをする。


きっと私は彼のストックなのだ。


そう気づいた時。


私は悔しいとかそういう感情の前に「おもしろい」と思ってしまっていた。


こういう男も私の罠にはまることがあるのだろうか。


わくわくしていた。


同じ類の男に出会ったのは初めてだった。


絶対にこの男。またしばらくしたら連絡がくる。


なにもなかったかのように。


その時どうしてやろうかしら。


そして一週間後に連絡があった。


週末の夜8時。


「今なにしてる?」


きっと誰かとの約束がキャンセルになったのだろう。


私は電車の中にいた。


女友達と昼から遊んだ帰りだった。


早めの帰宅につまらなさを感じていたのでちょうどよかった。


「友達と遊んで今帰ってるとこー」


先日のことを決して責めたりしない。


「そうか。じゃ今からこっちおいでよ」


今日はきっと会うつもりでいる。このまま連絡をスルーしたりしない。


この時は強くこの勘が働いた。


次の駅で降り。逆方向の電車に乗り換え指定された駅にむかった。


きっと待ち合わせ場所にはなにひとつ申し訳なさそうな顔もしないでくる。

先日のことを蒸し返して謝ったりもしない。


そうだなー。きっと第一声は久しぶり!なんてとこかしら。


遅くまで開いている書店の前に男は現れた。


スーツ姿でニヤニヤしながら「久しぶり!」と言った。


・・・こいつ。


私はあまりにもドンピシャな待ち合わせに一瞬笑いそうになった。


そのままカラオケに入った。


男はあまりお酒が強くない。


3杯目も中盤になってきた頃、私にもたれかかってきた。


そしてそのままキスまでもちこもうとする。


いつもなら私もお酒も入っているし身をまかせるのだが。


「そういうのいいよ」


あえて男を突き放す。


世間ではイケメンといわれる顔立ちだろう。

年齢よりも若く見て身長もそこそこある男。


一度関係をもった相手が思うような態度をとってこなかったらどうくるか。


私の中でシュミレーションはできていた。


甘えた声で「どうして?」とささやく。


決して「なんでだよ。この前最後までやらせたくせに」なんていうことは言わない。

それが一番だろうと二番以降の相手であろうと。


「だって付き合う気ないんでしょ?」


わざと出す重たい台詞。


「じゃ付き合おう」


「嘘つき。てかやだよ」笑


彼もこの時少し気づき始めていたんだろうか。


自分と同じ類の人間であることを。


人付き合いは面倒なくせに自分は常にその人の一番でなければ気がすまない。


自分には一番が他にいても・・・だ。


この男はきっと私にとって自分が一番でないことわかっているはず。


この後は無駄にエネルギーを使ってくるに違いない。


なんとしてでも自分の存在を一番にさせたい。


そう思うのが私だからだ。


相手にからかわれてるような態度をとられると俄然やる気がわいてくる。


誰にでもいい顔をしていたい。見捨てられたくない。


私の根底にはたくさんの自虐的な負のオーラがある。


最後にはどうせみんな去っていく。


だったら去られる前に去ってやろう。


最大のつよがり。


カラオケを出て帰ろうとする私を男は引き止める。


「俺んち泊まるでしょ?」


「帰るよ」


「なんでー?明日休みでしょ?」


「休みだけど帰るよ」


そういう私の言葉をよそに男はタクシーをとめていた。


「俺んち行こ?」


初めから帰るつもりなどなかった。


そして男が私をすんなり帰すわけないこともわかっていた。


しぶしぶな表情を作りタクシーに乗り込む。


男は金払いがよかった。


実際ここから男の家までは徒歩圏内でもあるに関わらずこうしてタクシーを使う。


その夜もまたベットをともにした。


翌朝、私は男より先に起きて男が寝ているうちに帰ろうとしていた。


駅から3分。


方向音痴の私でも駅までの道ぐらいは覚えていたから。


静かに身支度をしていると男が起きた。


「なぁ。毎週末、俺んちの洗濯物たたみに来てよ」


ソファーに散乱したとりこみっぱなしの洗濯物をさして男が笑顔を甘えた表情を見せる。


「嫌よ。遠いしめんどくさい」


「いいじゃん」


「やだよ。この近所にセフレでも作ったら?」


「いや。そんなのいらない」


「近所だったら呼び出ししやすいでしょ?」


「なぁ。毎週来てよ」


相手の話など聞かない。


いつでも自分の都合のいいようにもっていく。


だから会話の途中で会話を放棄して主張だけをする。


これもよく私がやるパターンだ。


「気が向いたらね」


それだけ言って私は部屋を出る。


もちろん「昨日ありがとう。ごちそうさま」なんていうフォローメールもしない。


電車を待つホームでワクワクがとまらなかった。


・・あの男。どうでてくるだろう。


男の行動は読みどおりだった。


その日から私たちの連絡頻度が増した。


そして週の半ば。


「金曜日仕事何時まで?」


男からの連絡がきた。


誘いだ。


想定はしていたけどあえて私は


「20時くらいかな。なんで?」と返す。


「じゃ終わったら俺んちの最寄り駅で待ち合わせして飯行こう」


普通の人は相手の予定を聞くのが当たり前である。


けれど私達は違った。


このやりとりでいい。


お互いの言いたいことがこの一度のやりとりで通じてるような気がした。


「一緒にいると心地いい」


「他の女に興味なんてない」


嘘ばかりを重ねる男。


けどきっと今、私はこの男の一番なのだ。


あの週末から2ヶ月が過ぎていた。


私は金曜から日曜。3連休のときは月曜までもその男の家で毎週末過ごすようになっていた。


平日も男から「今からおいでー」と誘いがくるようになっていた。


他の女を家に入れてる気配はない。


それどころか部屋には私の荷物も増えていく。


外ではきっと他の女と関係をもってるだろう。


けれども今男のテリトリーに入ってるのは私だけなのだ。


2度目に泊まった時にトイレの棚に散乱していた一日お泊り用セット何種類かもいつのまにか

捨てられていた。


そしてある日3連休の真ん中の夕方に男は言った。


「今日も泊まっていくでしょ?」


そのあとに・・


「はまってしまった・・。この俺が」


これも彼の戦略なのであろう。



そんな日々が続いたある夜。


私は引越しをしようと思っていると男に告げた。


「どうしたの?」


「最近家に変な手紙なんかが送られてくるようになって」


職場で知り合った男だった。


仕事仲間とういうか取引相手くらいにしか思ってなかったのだが上司を入れて一度飲みに行った。


その日からだ。


直感でやばい人とは思わなかった。けれどあくまでも仕事の顔で接したつもりでいた。


当時一緒に住んでいた人と離れて1人でどこか知らない土地にいこうと。


そう考えていた。


「俺んちおいでよ」


思いがけない男の言葉。


これは予想外だった。


私は依存はする。けれど束縛するのもされるのも苦手で。


普段何気なくやりすごしてることが調子の悪いときだと束縛に感じてしまうこともあるからだ。


それでも私は寂しさやむなしさの方が勝るので1人暮らしというのはむいてないことだとはわかっていた。


はたして男は大丈夫なんだろうか。


束縛、干渉は嫌いなタイプだ。


そして男はなによりも自分のことを知られるのが嫌い。


過去の話を聞くとあからさまに不機嫌になったり。


「もうそれ以上つっこまないでくれる?」それが男の口癖だった。


そんな男が誰かと一緒に暮らせるのだろうか。


ここに移り住む分には費用もかからない。一人ではないし。


どこにいくにも便利な町だ。


私はその夜ここに引っ越してくることを決めた。



1週間後。


私の荷物はすべて男の部屋に到着した。


「棚とか靴箱とか買いに行かなきゃな」


男はいつも週末のどちらかは家や近くのコーヒーショップで事務作業をする。


けれどこの週末だけは2日とも引越しの買出しや片付けのために予定を組んでくれていたという。


金払いのいい男はここでもまだいい顔をしていた。


1つしかない部屋。そこにおくちょっとしたものを買うだけで相当の金額になった。


本当にいいのだろうか。


いつもはなんとも思わないはずの私の中に罪悪感が芽生える。


昔から私は集団生活という輪に入ると。


なぜか女ではなく男からイジメを受けてきた。


「顔」だった。


イジメの原因。


家に帰って最初のうちは母親に話していた。


けれど基本私のことになど興味のない母親に話しても勇気づけられるどころか傷つけられた。


母親は父親が大好きでその執着は半端なかった。


ただの仲良し夫婦ではないその異常さが幼なながらにわかっていた。


「パパが一番なの」


「あんたはなんで○○なの?」


夜から朝にかけて仕事をしていた父親。


晩御飯が終わると仕事にでかける。


その後は母親と2人なる。


携帯なんてない時代。


深夜、家の電話が鳴る。母親の怒鳴る声が聞こえる。


そしてタバコをふかしながら泣く。


夜中から朝方にかけて多々あった。


それでも母親は父親を責めずにいた。私に怒鳴るときの鬼のような形相を父親には見せない。


母親の怒りは1人っ子の私にだけ向けられた。


機嫌の悪い母親を怒らせないように顔色を伺うのは得意だった。


存在感を消すことも小さな時に覚えた。



そんな母親。


私の容姿を褒めたことはない。


大人になって。女になっていく私を母親は許せなかったのだ。


思春期。私は肥満傾向にあった。


絶対にはけないミニのスカートを私に買い与え。


はけないと断念すると母親は私の前でそれをはいた。


「あら。私は入るけど」


悪意でしかなかった。


その頃から父親と2人で話していると母親の機嫌が悪くなるか無理やり話にはいってくるようになった。


後できいた話だとその頃母親は近所の人に「娘がパパと腕を組んで帰ってきた」などと


妄想でしかない話をつくりあげて広めていたという。


女になってほしくない。


母親の切なる願いだ。


だから男の子から容姿のことでイジメを受けているという話に母親は否定をしなかった。


もしも普通の家庭に産まれていたら母親だけは味方だったはずだ。


どんなに出来が悪くたって全力で守ってくれたはずだ。


母親は何度かあの鬼のような形相で学校に乗り込んできたことがあった。


それはいつでも私のことを守るためではなく。


自分に対する先生の反応に腹がたっただの。結局は自分だった。


小学校の時。週交代で給食当番がまわってきた。


当番の人がきる白衣は週末家に持ち帰り洗って次の人に回すというシステムだった。


ある時。


私から白衣を受け継いだ男子が私にこう言った。


「お前の後って白衣くさいんだよ」


教室の中だったので他の生徒にも聞こえた。


確かあれは小学校3年生くらいだったかな。


家に帰って泣きながらそのことを母親に話した。


翌日母親は小学校の昇降口にあの形相で立っていてなにやら先生が止めているようにも見えた。


「だから。あんたじゃない。○組の○○を呼べっていってんの?」


白衣のことを言ってきた子だ。


運悪くその子は職員室に用事がありそこを通りかかった。


幼稚園も一緒だったし近所の子だったので母親はその子の顔を知っていた。


見つけるとまるで獲物を見つけたハイエナのような速さでその子に近づく。


「おい。私の洗濯した白衣が臭いっていったみたいじゃねーか。ほんとに臭いのか?

 言ってみろ?」


小さな頃からあの形相に。そしてあの罵声に私は慣れている。


慣れているのにいまだに怖くて肩をすくめてしまうのに。


男の子の顔はひきつり硬直していた。


「いぇ。臭くないです」


涙をこらえて必死に声をしぼりだしていた。


恐怖のあまり動けないのだな。私は思った。


「だろ?わかりゃいいんだよ。次、おんなじこと言ったらてめーの親捕まえて言うからな」


母親は去っていった。


男の子は泣いた。。


近所だったし幼稚園でもこんな風だったらうちの母親のやばさは広まっていたのだろう。


相手の親からはなにも言われることはなく。


それ以来私の白衣が臭いといわれることもなくなったが。


イジメのことで母親が乗り込んできたのは後にも先にもこの時だけだった。


自分が洗ったものを否定されたからだ。



そんな子供時代を過ごして。


高校になってもその顔つきからか男の子からイジメを受け。


時には集団の男に囲まれてさんざんなことを言われたこともあった。


なので下を向いて歩くしかなかった。


男の人と目が合うことすら怖かった。


高校を卒業した春。


私はとある女との出会いにより人生を変えるためこの世の男すべてに復讐をしよう考えるようになった


その女とはSNSで出会った。


女の子の友達募集。


小学校からイジメが始まり。


そこから離れたくて高校は地元の子が1人いない学区外の高校を受けた。


これで終わるはず・・


なのに男子によるイジメは入学して3日で始まった。


今までいじめられてきたその負のオーラはすぐには消えないのだ。


私は気づかぬうちにそのオーラを全開にし下を見て歩いていたのだろう。


私がその高校の新入生の中で有名なブスになるのにはそうそう時間はかからなかった。


色恋がすべてといってもいいこの年代で誰が男にイジメを受けている女と友達になるだろう。


最初仲良くしてくれていた女子たちでさえ


「ごめんね。あんたといると男子に嫌われちゃうから」


そういって離れていった。


私には友達と呼べる存在はいなかった。


だから人生のリスタートとして高校を卒業したらどんな形であれ友達をつくろうと決めていた。


「今年社会人になります。家も年も近いのでよかったらお話しませんか?」


女に送った最初のコンタクトメール。


真夜中にも関わらず返信はすぐにきた。


「ほんとだー。近いっ。ぜひぜひお友達になりましょう。いきなりだけど明日空いてたらお茶しませんか?」


「お返事ありがとうございます。明日空いてますよー。お茶したいです」


それが女との出会いだった。


待ち合わせ場所には背の高くあかぬけた女の子が立っていた。


明るく元気で自分とは正反対な女と打ち解けるまでに時間はかからなかった。


イジメのこと。母親のこと。


彼女には何でも話せた。


「人生損してるよ。今からでも遅くない。楽しまなきゃ」


女のその一言から私の変身計画は始まった。


今まで選ばなかったような服を着てメイクをして。


行ったことのないような女子の高いお店に行って。


内側から出る自信というものは怖いものだ。


確かに私の外見も変わったのかもしれない。


けれどそんな私にも初めての彼氏ができた。


相手は同じ年のサッカーの好き会社員。


世間一般にイケメンという部類に入る。


そこからだ。


復讐。。


私を苦しめてきた男たちに。


彼氏と名のついた男のことでさえ好きとかそんな感情ではなかった。


「いいなー。あんなイケメン彼氏」


社会人になってから少しづつできはじめた女友達に言われるたびに優越感にひたれる。その道具。


この子たちは今までの私をしらない。


だからいくらでも別人になれた。


もちろん彼の前でも別人になれた。


イジメの過去のことなど話したら見下されると思っていた。


今となってはその頃の私はかわいいものだ。


見下される=捨てられる


なんでそんな風に思ったのだろう。


そんなマイナスな過去こそ狙った相手を落とす格好のネタではないか。


私はいつしか相手の見えない復讐に快感を覚えていた。


感情などいらない。


男なんていくらでもいるんだから。


楽しいことだけ味わって飽きたら切ればいいのだ。


それは突然だっていい。


めんどくさかったら束縛をするふりをして相手に自分を振るようにしむければ私は悪者にならない。


むしろ相手に振るというしんどさや苦痛を与えることができる。



自分に男を依存させてある日突然去るというゲームに溺れていく。


この男に出会うまで何人もの男と体の関係をもち不幸な過去を語り同情を引き

俺がいなきゃっていう優しさにつけこみ依存させてきた


その中に私と同じ類なんて1人もいなかった。


だから最高におもしろいゲームを手にいれた感覚だった。


同じような感覚をもった男との駆け引き。


表と裏が交差する。


きっと相手も同じことを思っているのだろう。


どちらがハマるか。


ハマッたら依存したら終わりのゲーム。


毎日がスリルだった。


一緒に暮らし始めて男は2ヵ月後に最初の無断外泊をする。


連絡も取れず帰ってきたのは翌日の昼だった。


謝罪もなければ弁解もない。


つまり・・悪気はないのだ。


普通の女なら夜中からずっと鬼のような電話やラインをしまくるのだろう。


女子会でそんな話をきいたことがあった。


だがプライドの高い私はしなかった。


そして同じくプライドの高い男は謝ることをしなかった。


男がシャワーを浴びている間


男の携帯をみる。


もうこの時から私の負けは確定していたのかもしれない。


誰かの携帯を見るなんてしたことなかった。


「昨日はありがとう。送ってくれてありがとね。ゆっくり寝てね」


浮気だ。


女からのハートつきのラインだった。


あぁ。やっぱり。


1人に絞ることなんて私達はとうていできないのだ。


しばらくの間はできてもいつか必ず飽きる。


新しいものが欲しくって新しい体を求める。


男の携帯は女だらけだった。


SNSからキャバクラまであらゆるジャンルの女がびっしり。


そんな男と同棲している私。


優越感のために生きているような私には恰好の相手ではないか。


男は時に私を突き放し。


その後ひどく私を欲した。


その姿はミラー。


私も時に男に別れをつきつけ


その翌日には彼を絶賛しもうあなたしかいないと言う。


ぶつかった時はお互いをののしりあい。


その何時間後にはお互いの体に入り込んでしまうんじゃないかと思うくらい愛し合う。


それが私たちのパターンだった。


あれから男は3度外泊をした。


いつからだろう。


私は眠れない日が続いた。


いつからだろう。


男の顔色はいつもさえなくなっていた。


それでもぶつかり愛し合う。


    「好き」


私の中に浮かんだ文字。


初めての感覚。


男が楽しそうに携帯をいじる姿を見ると醜い感情が芽生えてくる。


どうすることもできなくて吐きたくなる。


嫉妬・・なんて馬鹿げた感情だと思っていた。


なのに。


男と暮らして1年が過ぎた頃


男の暴言はエスカレートしていき昔のようなスマートさなどなくなっていた。


かくしていたギャンブル依存の顔も私の前で平気で見せるようになった。


完全なる内の顔。


外の顔は一切見せなくなった。


早く離れたらよかった。


そこに残った感情は「執着」だけだったから。



そして男とっても私に残る感情は同じものだったのかもしれない。


執着というのは普通の人間の好きという感情より切ないものだ。


次にもし女と外泊をするようなそぶりをみせたら・・


私はその時に本気の別れをしようとしていた。


人生でもう誰かによって自分を壊されたくなかった。


みじめにもなりたくなかった


下を向いて歩く人生に戻るのはごめんだ。


けれどこの男といたら戻ってしまいそうな気がした。


男はきっと私とのゲームに9割方勝ったつもりでいるんだと思う。


私は男といた期間外泊などしなかったし怪しい動きもしなかった。


ばれないように遊ぶ能力には男より長けていた。


「この女は攻略した。あとは捨てるだけ。そのタイミングはいつにしよう」


そんな風に思っていたのかもしれない。


1週間後。


男は夜中携帯をいじり終わった後


「これから飲みにいくことになった。友達と」


男に友達なんていない。


友達で思いつくのは友達の前にセックスという名前がつく友達だ。


時計の針は深夜0時。


女だ。


とうとうこの日がきたんだ。私は思った。


「女でしょ?もういいです。出て行きます」


「違うって」


男はへらへらっとした薄い笑いをうかべた。


「いや。女だと思う。仮に女じゃなかったとしてももうしんどい。だから出て行く」


一瞬間を置いて。


「でていけ!」


彼は怒鳴った。


いつものパターンだ。


しばらくののしりあいをする。


私はいつものパターンだと思わせるために。その日はそのままおとなしくした。


翌日私は彼の家を出た。


荷物をまとめて。


結局ののしりあいに疲れてでかけなかった男は布団を頭の上まですっぽりかぶっていた。


出て行く瞬間。


布団から顔を出した男と一瞬目があった。


男は何も言わなかった。


私も何も言わなかった。


たぶん。



この時点で男はこのゲーム。俺の勝ちだと思っていたのだと思う。


この女から搾取できるものは搾取した。


もう飽きていたからちょうどいい。


そんな風に。


けれど男にとってもこんなにしんどいゲームは初めてだったんだと思う。


最後ほうはもう屍のようだったから。


顔つきもオーラも出会った頃とは別人だった。


搾取し合いの限界ギリギリのゲーム。


先に幕を下ろしたのは私。


もう限界だったから。


好きになりそうだったから。


しんどかったから。


男を傷つけてしまうのが怖かったから。


理由はどれでもない。


本当の理由は



「このままだと負けてしまいそうだったから」


私は両手に荷物をもちエレベーターに乗り込んだ。


マンションの外に出ると荷物をおろし携帯を取り出した。



「もしもし?私。昨日ラインしたとおり今日戻るから」


男からもらった指輪を外しその場に捨てた。


代わりに財布の中から別の指輪を取り出してはめた。


そう。



私は人妻。


1年前のあの日。


「もうあなたとはくらしていけない。少し離れて冷静になりたい」


そう言って家を出た。


旦那は絶対に離婚などしない人。


そしていつ私がどんな理由で戻ってきても迎え入れてくれる人。


計算したとおりだった。


この私が。


負けるはずなんてない。


男なんて生き物にどっぶりつかるわけなんかない。


あれだけ恨んできたんだもの。


そう簡単に負けるわけにいかない。


ただ・・。


あの男と出会って知ったのだ。


愛してはいけない人がいることを。


もう少し一緒に暮らしていたら立場は逆転していたかもしれない


本当に愛してしまったかもしれない。


男の仮面をかぶった自分を。


「勝った」


私は小さな声で言った後


男の住む町を背に歩いた。


窓ガラス越しにみた私の顔は男と出会う前よりはるかに老いていた。



























何不自由なく仕事もでき生活もでき恋愛もできる。


けれど深く関わるにつれ関わった人が蝕まれていく


彼らの病気の特効薬は今のところ開発されていない。


関わった人たちはもちろんだが彼らも苦しんでいる。


彼らは何かに支配されている。


抑えても抑えきれない自分。


彼らがここから解放されるのはいつなのだろう。

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