根本的で重大な問題(複数個あり)
二話目です。重大な勘違いに気付きます。
「あーあ、いっちゃったかぁ」
声が響く。いや、それは声と呼ぶにはあまりにも実体がない、いわばテレパシーのようだった。『声』を出した本人の姿は見えず、知覚できるのは『ただ何もない』という事実だけ。そんな場所で声の主は楽しげに、そして申し訳なさそうに言葉を続ける。
「いやはや、前から見たときにこの子かわいそうだなー、とは思ってたけど、ここまで不憫な人生送られてちゃあ助けないわけにはいかないでしょ」
声の主は、ここにはいない誰かに向けて、一人説明するように、言い訳をするように声を発する。
「まぁ、確かに?ちょっと下心ありで送り出しちゃったことは認めるよ?送り出しちゃったのは『最初の世界』なんだし、あそこが安定してくれれば御の字、とかも考えてるしね」
そこまで言うと、声の主、少女に『管理者』と名乗った存在は何かに問い詰められたような焦った声を出す。
「いや、何も説明も質問にも答えずに送り出しちゃったことは本当に申し訳ないとは思ってるんだけどさ、もう彼女いっちゃったし、なんか彼女のほうから行かせてくれって頼まれたんだよ?」
『管理人』は疲れたような溜息をだし、つぶやく。
「でもまぁ、外見年齢6歳ってのは言い訳できないけどね」
そうして、世界の管理人は自分の仕事に戻っていき、後には何もない空間だけが残された。
目が覚めたら、緑豊かな森に倒れていた。
え、なんぞこれ、ジャングルにでも拉致された?って、どっかで言ったような台詞だな。そんなことを考えて地面に寝転がりながら、私は数時間(私の中では)の前の出来事を思い出す。
「エルフに転生って言われてもなぁ、特にやることも言われてないし、お決まりの魔王を倒してくれとかも言われなかったしなぁ...」
突然、あの真っ白な空間に連れて(?)こられて、かってに『こっち』での設定を決められて、恥ずかしい死因を暴露された挙句に森に放り出すというこの仕打ちである。もう怒ってもいいんじゃないかなぁ、と思って横を見ると、
「ん?」
不思議な光景が広がっていた。転生する前の私は26歳、いわゆる新社会人からちょっと大人になった、という感じで会社でガンガン働いていた。だから目に入る自分の腕は大人サイズじゃないといけないはずなのだが、今目の前に無造作に投げ出されている腕はどう見たって小学生低学年くらいの見た目だった。
「な、なんで?もしかして、若返った?」
そうして、勢いよく起き上がり自分の体を確認すると、なんと体だけでなく、自分の服装まで変わっていた。
「なんかこう、ファンタジーでよくありそうなワンピースだなぁ...」
白い布をそのままワンピースの形にしたような普通のワンピースにサンダルという、いかにも『村娘』といった感じの衣装だった(私目線)。
そうして、自分の状態を確認し終えた私は、周囲を探索してみることにした。すると、
「うわぁ、なんかあった」
森のけもの道のような場所をちょっと進んだ先に、謎の箱が置いてあった。しかもご丁寧に箱の上に「目が覚めたらあけてください。管理者より」という書置きらしきものまで置かれていた。
「なんでこんなマ○クラのボーナスチェストみたいなことするのかなぁ」
不思議に思いながら、言われたとおりに箱を開けると、中には手紙が入っていた。その手紙を読んでみると、
『拝啓、アカリさんへ
唐突に、何も説明せずに異世界に放り出してしまってごめんなさい。すごく反省しています。そこで、あなたにこの世界の説明を口頭ではなく手紙で説明することにしました。
まず、あなたが送られたこの世界の名前は『ノーネーム』。文字通り「名前がない」世界です。そのため、その世界の住人がいろいろと好き勝手に呼んでいます。
次に、あなたの体のことなんですが、すみません。『外見年齢設定』の時に十の位を入力するのを忘れてしまっていて、あなたの現在の肉体年齢は6歳になっています。しかし、前の人生での筋力や持久力などを『ステータス』に反映しておいたので、今のあなたぐらいの子供よりかは幾分か強い体になっています。しかし、「今のあなたと同年代の子供」より強いだけですので、油断は禁物です。
最後に、この世界でのあなたの生き方ですが、結論から言うと、「特にない」です。しいて言えば、できるだけ長生きをしてください。まぁ、元から長命種のエルフに転生してるので寿命はたっぷりありますが。
あと、「晴耕雨読」に生きられるように特殊な技能をつけておいたので、頑張って異世界ライフを楽しんでください!
管理者より』
と書かれてあった。
「ようするに、今回の人生は会社とかで働かずに自由に生きてもいいってこと?」
そういう感じに解釈した私は、ひとまず手紙をワンピースのポケットにしまい、チェスト(決定)を覗き込んでみると、
「あ、何かある」
地図を発見した。そこには「現在地」と書かれた赤いマークと、「リフォル村」と書かれたマークがあった。
「ふむふむ。ということは、とりあえずここを目指せば人里に出られるということかな?」
そう見当をつけた私はチェストを背負い(背負う帯があった)、地図を片手に歩き出した。
「めざせ、リフォル村っ!」
そうして歩き出した私は、とある重大な勘違いを犯していたことに、まだ気づかなかった。
しばらく歩いて、森の開けた道に出た、と思ったその時、
「Da'lcb'hemfc?」
と声がして、振り返ると、私と同じような格好をした少女と出会った。しかし、その時の私の頭の中で考えていたことは「人と出会った」ことよりも、もっと重大で根本的なものだった。
(...な、なんてしゃべったの今!?)
そう、私はこのとき勘違いに気付いた。
『異世界人は日本語をしゃべらない』という事実に....
ちなみに、手紙の中に書かれていた「アカリ」とは主人公の名前です。言葉の壁に突き当たったアカリはこれからどうするのでしょうか。