死因:窒息死(よくかんでから飲み込もう!)
始まりです。英単語の綴り間違えてないか心配......
目を開けると、一面真っ白な銀世界が広がっていた。
...え、なにこれ。アラスカにでも拉致された?そう現実逃避したくなるくらいに今目の前に広がっている光景は現実離れしていて、しばらく見とれてしまっていた。
「って、そうじゃない。ここどこよ」
思わず自分自身に突っ込んでしまい、そこでようやく自分の状態を確認する余裕ができた。
「うん、部屋でサ○ウのごはんと○いきつね食べてた時のままだ」
中学校の頃のジャージ上下にヒート○ック肌着。家でゴロゴロしてた時の格好で少し安心した。
とりあえず自分の状態が確認できたので、身の回りを探索してみることにしたが、目に見える範囲には特に何もない。
「そういえば、雪っぽいのが積もってるのに全然寒くない」
まったく寒くなくて、雪っぽいの(暫定的に雪に決定)にさわっても冷たさを感じない。というよりも、夢のように体中の『感覚』がなくなっているみたいだった。その不思議な感覚に戸惑っていたその時、頭の中に直接響くように声が響いた。
(おーい、聞こえてるかいお嬢さん。)
「ん?」
私は今まで生きてきた中で『お嬢さん』何て呼ばれた記憶は数回、それも客引きのお兄さんやお姉さん方しかなかったので、少し警戒を強める。
(あ、はいはい大丈夫です大丈夫です。反応したってことは聞こえてるってことでオッケーですか?あ、オッケーだったら首を三回縦に振って。)
言われたままに首を縦に振る。
(はーい、オッケーでーす。えっと、軽く状況を説明しますとですねぇ、あなたはいm)
「死んでいて転生待ちだから生きたい世界を選べと?」
(......は、はーい、その通りでーす。ていうか、よくわかりましたね、そしてよく気付いて取り乱しませんね、あなた。)
「もう驚いたんで。何回も驚くのも疲れるし」
実際、この場所に来たばかりの頃はパニックになっていて、自分の状態までうまく気が回らなかったほどだったのだから。けど、申しばらくしてくると感覚が麻痺してきたのか、あんまり驚かなくなっていった。
(あー、それじゃあさっさと転生先決めてもいいかな?君の死因とかはっきりさせないといけないし。)
「あ、はい。よろしくお願いします」
そういって誰もいない空間に向かってお辞儀をしてしまう私。日本人の性とわかっていてもふとした時に不思議に思ってしまう。あれって、やる人とやらない人に分かれてるけど、やる人は本当に無意識の領域でやってしまうんだよねぇ。
そんなことを考えているうちに声の主はどうやら調整を終えたようで、私に向かって(?)声をかけてきた。
(はい、こちらの準備ができましたんでこれから『転生先の世界』や、『転生先での種族』、『転生時の能力』などを決めていきたいと思いまーす。)
「はーい」
なぜかやけに間延びする声を聞きながら、私は声に向かって質問した。
「で、あなたの名前は?」
(はい?)
「あなたの名前。いつまでも心の中で『声』って呼んでても味気ないじゃん」
そういうと、声の主が何かぶつぶつつぶやきながら考え込むような気配がして、
(じゃあ、『管理者』とでも呼んでよ。)
と言ってきた。
「長い」
(えー......じゃあ、アドミンでどう?)
「わかったよアドミン」
そんな感じで時折雑談をはさみながら、アドミンと私は転生した後の自分のことを決めていった。
「のんびりできる種族がいい」
(その前にどんな世界に行きたいかを言ってくれないと。)
「じゃあファンタジーで。ていうか、種族とか出てきてる時点でファンタジー一択だよね」
(まぁそうなんだけど。)
「あ、水洗トイレ作れるぐらいの技術が発展している世界がいい。できればお風呂も」
(注文が多いなぁ、わかったよ、もう指定しといたから。あ、あと君の転生先での種族はエルフだからね。)
「エルフかぁ」
どんどん決まっていく自分の来世に、いまだに現実感がわかない。夢を見ているような気持ちで、私は二つの大事な質問をしていないことに気が付いた。
「ねえ、アソミン。私はどうやって死んだの?なんで私がほかの世界に転生するの?」
(アドミンね。別にあんな大きなカルデラが自分の体に空いてるわけじゃないから。えっと、君の死因だっけ?たしかここらへんに...)
アドミンの声が聞こえると同時に、何か机の上で何かを探しているようなごそごそという音が聞こえてきた。というより、やっぱり電話のようなもので送られてきているのだろうか、『声』。
そうして探し物が見つかったのか、ごそごそという音がやむと、どこか戸惑っているような、迷っているような、簡単にいうと「やべぇ、これどうしよう......」といったような声が聞こえてきた。
(あー、君の死因ね?えっと、落ち着いて聞いてね?)
「はいはい、わかったわかった。それで?私の死因は?」
(うん、君の死因はね、『窒息死』だよ。)
「あれ、結構普通じゃん。何で言いづらそうにしてたの?」
(...窒息死の原因が○蒻畑だったから、かな。)
そして、その言葉を聞いた瞬間、私の頭の中には今は亡きおじいちゃんが川の向こうで手招きしている映像が思い浮かんだ。
「......Really?」
(うん、本当。のどの狭いご老人みたいな死に方だったよ。)
「全国のご老人と私に謝れ。そしてさっさと転生させろ」
(あれ、いいの?世界観とかいろいろ聞かなくて。)
「もういい、恥ずかしい、さっさと転生してのんびり暮らしたい」
恥ずかしかった。よりにもよって蒟蒻○をのどに詰まらせて死ぬなんて!せめて餅にしてあげようよそこはさあ!
(わかった。前世ではいろいろと忙しそうな人生送ってたみたいだからね。今回はゆっくり、それこそ「晴耕雨読」な生活を送れるように能力をつけとくよ。)
「ありがと」
そうして、私は異世界へと旅立つことにした。
____結局、自分がなぜ転生者に選ばれたのかを聞けないまま。どんどん曖昧になっていく意識の中、最後に私が聞いた声は、いってらっしゃいでも、意味深な台詞でもなんでもなく、
(あ、やべ、年齢の欄に十の位入力するの忘れてた。)
という聞き捨てならない台詞だったが、もうろうとする意識の中では、その言葉の意味を考えることはできなかった。