旅立ち
荒れ果てた古城で、彼女は言った。
「私の名はルナ・セレニア。あなたを召喚したマスターであり、ともにあなたへの忠誠を誓う者です」
「そうか。俺は結城晶だ。さっそくだが、俺を元の世界へ返してくれ」
「それはできま」
「頼む。わかるだろ今日が何の日か」
「はい。我々が敵に勝利した賞讚すべき日です」
「違う。そうじゃない」
「では一体、何の日なのですか」
「モンハンの発売日だ」
「モン……ハン?」
「そうだ」
ピンときていない様子だった。こんなファンタジックな世界でなんと説明すべきか……。
「モンハンはな。世界(?)だ」
「世界ですか……?」
「そうだ。ずっと待ちわびていた(予約をして)やっと手に入る寸前だった(購入という意味で)」
「それでは、アキラ様は世界を手に入れる寸前の御方だったのですか!?」
「(?)……そうだ」
「私は何ということをしてしまったのでしょうか。なんとお詫び申し上げるべきか、言葉もありません。しかし、神様は私をまだ見捨ててはいなかったのですね。アキラ様がいてくだされば、とても心強いです」
なんだ?よくわからないが、モンハンについて熱く語っている内に何か壮絶な勘違いをされている気がしないでもないが、今はそれどころではない。俺は帰らなければならない。
「どうすれば俺は帰れるんだ」
「残念ながら私は召喚はできても、その先の世界の壁を越えることはできません。ですがこの命救っていただいた恩、必ずや返させていただきます。共に世界を手に入れましょう」
「そうか……」
古ぼけた古城に夕明かりが注いでいた。
古城から見える地平線はマンションから見える景色よりもずっと広く、遠くまで広がっていた。
「ルナ。教えてくれ」
「はい」
「この国の民の数は」
「一人です」
「財産は」
「500ゼニーです」
「そうか。それで500ゼニーはどれくらいの価値だ。城一個分くらいか」
「……夕食一人前相当です」
「……そうか。ルナ。どうやら俺たちは旅に出る必要があるな」
「はい」
二人の荷物はほんの気持ち程度の物だった。それでも先に進む以外に選択肢はなく、道はどこまでも広がっていた。