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火蜥蜴《サラマンダー》

 殴った。

 とにかく殴った。目に入ったやつは問答無用で殴った。

 殴られた兵士からは微塵も質量が感じられなかった。その程度の感触しかなかった。

 殴られた兵士は気持ちが良いほどの伸びを見せて周囲に吹き飛んでいく。

 俺の視界には「肉体強化」と魔導文字で表示されている。

 俺はこんな夢も悪くはないか、と思い始めていた。

 そんな矢先だった。

 周囲の兵士を倒され、残り僅かとなった兵士の中の指揮官のような兵士は言った。

「貴様、魔導書グリモアを使っているのか。少しは、やるようだな」

 そう言って兵士は剣を抜く。

 そしてその剣先を俺に向ける。

 周囲の空気が一瞬にして乾き、熱気に包まれる。その次の瞬間には兵士の剣が炎に包まれる。

 呼吸するだけで、喉が焼きつきそうな、熱気が辺りを包む。

 兵士は言った。

「悪いな。俺は火蜥蜴サラマンダーと契約している身でね。存分に焼け死んでくれよ」

 めらめらと炎を宿した剣は少し振うだけでその熱気が漂ってくる。

 どう考えても、序盤の噛ませ犬っぽいポジションのくせに粋な技を使う。

 だが俺には先程覚えた技がある。

 俺は炎剣使いの兵士に手をかざし、領域を選択する。

「複製」を使用。

 しかし俺の視界には魔導文字で「選択不能」と表示されてしまう。

 俺がかざした手を不思議そうに眺めていると、囚われの美少女は言った。

「まだ、あなたの領域スロットが足りないのです。避けてください」

 いや、何言ってんのか全然わからん。ようはレベルが低い的なことか?

 炎剣使いの兵士は言う。

火蜥蜴サラマンダー領域スロットを三つ消耗する。召喚されたばかりの貴様はせいぜい領域スロット一つがいいところだろう。諦めて焼け死ね」

 炎剣使いの兵士はそう言って剣を振った。

 俺は必至で剣の軌道を見極め、回避行動をとる、がそれは無情にも、まったく意味をなさず、俺は炎剣での斬撃を受けてしまう。

 切断面から一瞬で火の手は広がり、全身を炎が包み込む。呼吸をすれば喉が焼ける。

 全身に焼けるような痛みが走った。夢のはずだった。しかしその痛みは確かな感覚を伴っていた。

 炎に包まれた俺の姿を見て、炎剣使いの兵士は嬉しそうに言った。

「どうだ、もうミディアムくらいには焼けたか。俺の好みはウェルダンなんでね。もう少し焼かないとな」

 そう言って、兵士は俺に手をかざした。

 俺にまとわりつく、この嫌味な炎はより一層火の手を上げた。

 これだけの炎に包まれても俺はまだ意識を保っていた。

 俺の視界には魔導文字で「自動回復」と表示されていた。

 そうか。この力のせいで俺は死んでも死に切れないわけか。

 俺は炎を払おうとするのをやめた。そして静かに笑みを浮かべると、ゆっくりと炎剣使いの兵士の元へと向かう。そしてその胸倉を掴んでやった。

 瞬く間に炎は炎剣使いの兵士の体に燃え移って行く。兵士は悲鳴にも似たような声で言った。

「やめろ!近づくなっ無礼だぞ、手を離せ、離してくれぇ」

 俺はしょいがない、と手を離してやる。そして握った拳で炎剣使いの兵士の顔面に向けて炎に包まれた右正拳突ストレートをお見舞いしてやった。

 骨が砕ける爽快な音とともに、炎剣使いの兵士の体は宙を舞い、地面でバウンドしながら吹き飛んでいった。

 炎剣使いの兵士はそのまま意識を失い、俺の体を包んでいた炎も消えた。

 残りの兵士たちも尻尾をまいて逃げていった。

 美少女コスプレイヤーは解放され、膝まづき言った。

「危ないところを助けていただき、感謝いたします。異世界の戦士様」

 俺は一呼吸をいて、周囲をよく観察して、周りの様子がどうもこれは夢ではなく、現実におきている出来事であることを認識し、言うのだった。

「……マジか」


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