嫌悪感
実菜は最近よく怒るようになった。昔から喧嘩はしていたが、気がつけば仲直りして笑いあっていた関係が徐々に崩れていく。
実菜がいつ俺の前に現れるか俺には察しがついていた。実菜は気遣いに長けている。俺が忙しい時や動けない時には決して近づかない。少し暇ができたり、何か面白い事はないかと考え始めるとすっと現れる。恋は人間をここまで正確に動かすのかと驚くくらいにだ。
ある時俺は、これは立派なストーカーだと笑ったことがあった。その冗談を良く受け取らなかったのか、実菜はよく怒るようになった。
「自意識過剰」
「馬鹿」
「反省してないくせに」
確かに幼なじみが俺のような完璧野郎で非の打ちどころもなく、恋心に一切答える素振りもないのだ。悔しくて仕方がない気持ちも分からないでもない。ただ苛立ちは続き、俺は実菜との時間がゆううつになりつつあった。
「俺、何か始めようかな、その、サークルとかさ」
授業の後に学食テラスで定食を食べているとさっと実菜が座ったので、話してみた。
「珍しいね。優が人付き合いの場所に行きたいなんて。普段なら他人と関わりたくないむしろお前とも、なんて言うのに」
他人と必要以上に関わりたくない気持ちはある。けれども怒ってばかりの実菜といるのも疲れるし、何といっても俺は大学生に憧れがあった。
彼女。女の子と付き合いたい。実菜とそういう関係になるつもりがない以上、俺には必然的に最低もう一人の女の子と出会いが必要なのである。
「なあ、サークルないかな、例えば」
例えばそんなに大変じゃなくて、実菜よりおとなしくて、清楚で、彼氏のいない女の子がたくさんいるようなサークルとかさ。とはもちろん言えないが。
「私のサークルはどうかな?新入生大歓迎なんだよ」
「えっ実菜ってサークル入ってたのか。いつ入ったんだよ」
昔は実菜のことで知らないことなんてなかったのに。この頃実菜は俺の余裕によく影を差す。
「入学式の帰りにチラシ配られて歓迎会に行ったの。そしたら女の子と意気投合しちゃって」
「女の子って、いっぱいいるのか」
「いっぱいいるけど、女の子目当てだったら教えない」
「いやそういうのじゃなく、純粋に知りたいのであって下心は」
「じゃあこれ、見てみて」
用意周到の実菜は勧誘チラシを俺の前にポンと置いた。




