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距離感

ごく平凡な人生を送ってきた俺を紹介する。


俺の名前はゆう。男でも女でも通用しそうな平凡な名前。あからさまに太郎だの、逆に変な漢字でピカチュウやらイデオンだの、それよりはるかに平凡な名前。


四月に地元の平凡な大学に入学して二ヶ月経った。もともと親密な仲を持たずに単独で行動する俺には、大学のキャンパス生活は快適だった。一日に授業を三つほど受けると後は自由時間。見覚えがある顔が話しかけてくると、大抵アルバイトやサークル活動を始めたと報告してくる。穏やかだった春の日差しも随分と強くなってきた六月。整った顔にチラチラと女の子の視線を感じるのも心地よかった。


誰もが俺との距離を一定に保つなかで、唯一俺のことを気にして止まないのが、森ヶ咲実菜もりがさきみなだった。

小さい頃からの幼なじみ。気が強いが世話焼きなところがあり、気がついたらいつもそばにいる。

一番古い記憶の実菜は、小さな開いた傘をこちらに渡しながら微笑んでいた。


「傘持ってるんだ。ぬれないように一緒に帰ろうよ」


その傘の左に実菜が入り、右に小さな俺が収まった。実菜の小さな手が傘を支えて、ぷるぷると震えていた。


「雨の日は傘を持ってこないといけないんだよ」


小さい実菜は別れ際にそう言った。けれどもそれ以来雨が降り始めると必ず実菜が追いかけてきて言った。


「傘持ってるんだ。ぬれないように一緒に帰ろうよ」


傘を持つ実菜の手がやがて震えなくなり、大きくなり、気づけばいつも傍に実菜がいるようになった。

誰が見ても可愛い顔をした小ぶりな実菜が傍にいるのは心地良かった。おそらく実菜は俺を慕っていて、俺のことを誰よりもよく知っている。同じ学校の同じクラスで淡々と時間を過ごし、気づけば同じキャンパスに立っている実菜。恋愛感情が実菜を積極的に動かしていると理解したし、それを思うと悪い気はしなかった。


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