中編
[Bounty Chain]は、大日本産として満を持して発売された、ヴァーチャル・マッシヴリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム、略してVRMMORPGの一種である。
所謂仮想現実世界に意識ごとダイヴして、己の仮想体を操り、コメリカンヒーローやNINJAになって悪人を成敗したり、ハイパー美形とラブロマンスしたりするヴァーチャルゲームのうち、ゴブリンだのオークだのを退治したり貴族の美少女を助けたりしながら成長して、何人ものプレイヤーで時には協力・時には敵対しつつも竜だの魔神だのを倒す、ジャパナイズされた洋風ファンタジー世界で大冒険する例のあれである。
VR系のゲームでMMORPGというのは、アップデートを繰り返すことを前提として徐々に作りこんでいくスタイルをとったとしても、生活リズムや思考うんたらの調整必須なNPCが大人数必要、戦闘ルーチンが云々のMOBはもっと必要、イベントもガンガン突っ込んでいかないと飽きられるし、マップ拡大はそれに見合った色々の追加が同時に(もしくは短期間で次々に)必要、とまぁアップデートの度に膨大な量の作業が発生し、且つ人気を保つにはそれを継続していかないといけないので、VR技術が広まった今でも本数は余り多くない。
費用対効果を考えても「金をいっぱい落としてくれる男性を対象とした、アイテム課金させて美女美少女キャラとあはーん☆するゲーム」を作ることに比べると、これはもう太陽とうんこくらい違った。あはーんするゲームなんて、美女アバターを作ってその脳内アルゴリズムに「男に都合の良いアニメキャラの言動」を突っ込み、ジャブジャブ課金したくなる煽りとして「伊集院美紀専用 夜の充実パック」とだけ書いたアイテムを超低確率の大当たりとしてガチャに入れておけば、後は勝手に驚くほどジャブジャブ課金されるのだ。男性の、特に仮想現実を愛するような男性の性欲は他の全てに勝る原動力だった。特に大日本では。
そういうわけで超大手のゲームブランドしか手を出さないジャンルとなったVRMMORPGで、漸くニッポン製品が産まれ、そしてその内容は事前の告知が誇大ではないと知らしめるもの――マップでけえ!敵すげえ!成長楽しい!俺TUEEEE!――だったのだから、その人気は凄まじい。
発売一ヶ月で他のえろくない国産VRゲームの売り上げをゴボウ抜きし、たった半年でえろくないVRゲームとしての参加人数で二位と百馬身くらい差をつけた。サービス開始から一年経った今でも人気の衰えは影すら見えないのである。一時期の洋ゲー万歳ムードをパンチ一発で塗り替えたことから、キングオブジャパゲーを名乗ることが許されていた。
さて。そんな[Bounty Chain]、略称[BC]だが、対モンスターの一般的な冒険とは別に、対人戦、所謂PvPと呼ばれるそれが搭載されていた。プレイヤーとプレイヤーが戦うPvP――システム上では[決闘]と名付けられている――だが、一対一で戦う通常の[決闘]の他に、複数人のパーティ同士でリーダーを潰し合う[龍頭戦]や、プレイヤー間の組織であるギルド同士で拠点を奪い合う[侵略戦]等があった。
そして今回、キルヤ&ケイン VS タケト&テイラーで行われているのが、相棒を組んだ二組がその優劣を競う[双刃戦]である。
『キルヤ、初めて戦うジョブが相手だ。慎重に、堅実に、いつも通りだ。[連鎖する絆]狙いで私が連続打撃を稼ぐ。その間は適度に――』
『速攻型だケイン、待ってられっかよ……タケトをさっさと潰して【機人】の剥ぎ取りクエストだ! [捧げる十字架]用の威力増加は[蛮勇の戦歌]を使う。レアジョブの性能がそこまで高いわけじゃねーって考察あがってんの見ただろ?』
『フ……全く、ヤンチャな男だ。ならば貴様がタケトを潰すまでの間に貯めたカウントを後半で使おう。戦歌のタイミングは間違うなよ?』
『ったりめーだろ、何回やってっと思ってんだ。っひひひ』
口は動いているものの、発する声は己の相棒にしか聞こえないシステム――秘匿会話機能を使って遣り取りをするケインとルキヤの会話内容は、事前のルキヤの態度通りのものだ。彼等にあるのは戦闘への高揚とその結果の楽しみを待つ期待感が殆どで、必要以上に堅くなるようなことは無かった。幾度も繰り返した対人戦での場慣れがそうさせた。
対して、彼我の距離10メートル、機人・闘士ペアは――
「いいかぁタイラ! 俺が剥き屋をワンパンッ、おまえが百円をミンチ! そしてカッコイイ俺とおまえにボケ共から万雷の拍手! Okey!?」
「やっべ美しい未来それ美しい! じゃあそれで」
「だろ。おまえバカで良かったわ。行けゴリラ」
「せめてメスをつけろクソ野郎!」
ウィスパーすら使わず叫び合いながら二人でコントをしていた。
「っせーな乳貧乏」
「殺すぞ!」
天丼もした。
「ひっひひひっひ、始まった途端に仲間割れかぁ!?」
「……ヒュー。んだよ、結構速いじゃねえかオメェ!」
罵り合いの横から突っ込まれた声、と迫り来る使徒の姿に、闘士の嬉しそうな声が返される。疾走するルキヤを見てタケトが口笛を鳴らした理由は、使途なのに素早い、この一点だ。
現状のBCに於いて、使徒の成長ルートの主流は大別すると五種。その中で敏捷に主軸を置くのは二種類で、残り三種それぞれと比べて人数比が低い。且つ、対人戦に出てくる使徒の殆どは生命を高めた壁役兼カウンター型ないし単発型だ。自分から攻め込む展開になる可能性が高いと踏んでいたタケトは出鼻を挫かれた形になるが、逆にそのことが喜びに繋がったようだ。
「テメェが遅えんだよ、ノロマァ!」
右脚で地を蹴り、嘲りながら飛びかかるルキヤの斬撃は、身のこなし同様やはり速い。上空から切り裂く右手が首元への一撃を放つも、だがタケトはこれを予見していたかスウェーでかわした。
しかし、AGI型の特徴である攻撃速度の高さは、イコールで手数だ。ルキヤが左脚から着地した、と思った時には、既に彼の左手に構えられた盾は準備され、すぐさま踏み出す右脚と同時に振り上げ突き出された。
「ほぉらアゴ貰った!」
その多くが吹き飛ばし発生を持つ盾スキル群において、吹き飛ばせない代わりに他のスキルよりもかなり高い確率で怯みを誘発する至近距離用盾技、[守護の音色]。スキル名からは全く想像し難い、ずしりと響く打撃属性の物理攻撃。
中心に発光を伴った、アッパー気味の盾フックがタケトを捉える。スウェーの体勢から両腕を地面と垂直に垂らしていた彼に避ける術は無く、衝撃で顎がのけぞり、そして響くは聖銀の小盾が鳴らす鐘音。
「づ、ッ! 耳障りったらねえなぁ……!」
「ひぃひひひッ、ひ! コレはイイ音っつーんだよ!」
鐘の音が如き打撃音が耳朶を打つ。ゴォォンンンンン……、と、ヒット後も暫く効果音が続いているこのスキルは、再び同じスキルが使えるまでの時間――即ちクールタイムが終わる頃まで音が消えないため、CT終了直後にまた使用、を繰り返すとゴォンゴォン非常に煩い。故に通称がゴンさんである。さんをつけないとデコスケ野郎と罵られるまでが大日本の様式美であった。
「ンで飛べッひゃは!」
続いて、猛烈な勢いでルキヤの身体が前進、前面に構えた盾で殴りつけるよなショートダッシュ。[守護の音色]から連携させられるスキル、[突撃]だ。
本来、敵の攻撃を防御しながら突進出来る点が、盾持ちジョブがチャージを使用した場合のメリットなのだが、ルキヤはノックバックとコンボ数のために繋げた。ケインの打撃数に加算し、後々のバディスキル発動を考慮しつつの行動。
吹き飛ぶタケトを確認し、横目でケインを見れば、そちらも思惑通りの光景。
「ふんッ、がッ、ああくそ当たんねー!?」
「フッ。このケイン=ストライアに大振りの攻撃など愚の骨頂。己が浅薄を嘆いて、眩き光に滅せよ黒鉄――奥義、白華炎蓮掌ッ!」
「んんんん゛ん゛! きっめえ、うっぜェェエエエエエエ!」
タイラーの悔しげな大声と、その黒腕で振り回す錨の暴力的な風殺音が、ケインのなんかアレなオサレ台詞と、スタイリッシュ爆殺拳によって封殺されていた。この説明文で殺って何回書いただろう。とにかくササッと避けてペチペチ叩いてまた避けに移る白炎の拳士が優勢で、ヒットアンドアウェイアンドスウェイアンドヒット~と無限ループ決められてる黒鉄の城はキレる寸前であった。
機人専用防御スキル[重力鎧]を発動している故に、ケインの白華炎蓮掌――己の攻撃に一定時間聖属性と派手に輝くエフェクトを付与する[法力宿武]の効果中に、ケイン独特のスマートな構えから[連撃]を放つ超イケメン技であって、別に白華なんたらというスキルが存在するわけではない――によるタイラーの被ダメージは些細なもの。装備が闇属性を帯びていたりもしないので、[法力宿武]による威力増加も非適用。じゃあ何故ケインが付与を使用したかだと? カッコイイからだよ! ケイン型のロールプレイヤーにはそれが全てであった。
「ンで当たんねーんだ……このッ」
「ふむ。固いが、鈍い。このままではルキヤがこちらへ来る前に終わってしまうな、フ」
散々避けられて攻撃を一時的に止めたタイラーであったが、ケインの「アニメから拝借した、一度は言ってみたかった言葉」な台詞を耳にして、目を丸くしてから口端を吊り上げた。
「――タケがあんなんにヤられたら、目でピーナッツ噛んでやるよ」
「ほう? 言うではないか、鉄の棺桶。【闘士】は近接も強力ではあるが、戦士や剣士系統の近距離上級職に比べると一枚落ちる、と聞いている。AGI型とは言え【使徒】の守りを一対一で抜けるとは思えぬがな。それに……」
「長えよ。……にしても、何か……?」
こいつ何言ってんだ的に首を捻るタイラーに、おや、とこちらも不思議な顔をするケイン。
タケトのジョブ【闘士】は、【僧侶】から【戦僧】のラインに乗った先で特殊条件を満たすと転職可能になる……と、予想されている希少職業であり、その最大の特徴は身体に纏わせステータス等を上昇させる[戦闘気]――通称オーラだ。他職業でも武器への属性付与は行えるし、【修練士】ケインの使用したキラキラもその一種だが、それら全ては属性を持つ上に、"装備にしか"付与は行えない。
炎の剣、氷の槍、光のガントレットは作れる。
風の矢を放つ弓、岩塊を撃ち出す魔術、攻撃を受け流す水の衣は産み出せる。
魔術であれば吹雪も嵐も落雷ですらも呼び起こせる。
だが――カメハメウェイブも、ハドーキャノンもッ、ハオーショウコウ使わざるを得ないもッッ、【闘士】にしか使えないのである! というか【闘士】なら使えるのだ! ヴォンヴォンヴォンと音を立てながら髪を逆立てる程に具現化した金色オーラを纏って空高く飛び跳ね、腰溜めに構えた両手を獣の牙が如く突出し「破ァァアアーッッッ!!」と叫べば気の奔流が地上を薙ぎ払うのであるッッ!
そらもう参加者の男性、特に年喰ったオッサンオタクマン達ほど【闘士】を渇望した。キャラネームに野菜の名前をつけたり、ブルマ装備の女性キャラへ執拗なプロポーズを繰り返したりする奴等は大抵が闘士狙いだった。そして大抵が闘士への転職条件を満たせないまま別のジョブに成長してしまった。嗚呼。
ともあれ。カメハメだのハドーだのが撃てる【闘士】は、基本的に中距離メインのジョブであるというのが一般的な認識であって、ケインの説明にはタイラーが首を傾げる点など無いはずであった。
まぁ、基本的も一般的も、それから外れるものがあるから作られている言葉なのだから。
「ぎゃあああ ッッ――! が ッ」
「ッ!? な……何 だと……」
オーラの眩いエフェクトなど一切起こることなく、装備破壊され倒れ伏したルキヤの姿が、唐突な悲鳴に顔を向けたケインの視界に映っているのも、タケトが外れ者だったからなのだろう。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
申し訳ないことですが、諸事情により未完とさせていただきます。




