前編
リハビリ的に。前後編、ないし前中後編くらいの。文字数的にはほぼ短編です。
推敲無しにブッ込むStyle。
「なあ……決闘システムってよ、イイもんだよな。っひひ」
カン高く打ち鳴らされる剣と盾が、作り物の太陽光を反射して煌く中の台詞だ。
ひきつった笑い声は、それはもう、愉快で愉快で仕方がないのだと。人間のカタチをした敵、嬲り殺して構わない肉塊が決闘場という食卓にあがっていること……それが、たまらなく嬉しいのだと。そんな感情を隠さないもので。
決して、神を崇め殉ずる者が溢していい類の笑いではない。
祈ることに身を捧ぐ信者を、何者からも護るために……それ故に刃すら持ちて、その刃で以って守護する【使徒】の表情としては、完全に。それはもう完全に不可と断ざれる、下水道の匂いがする笑みであった。
輝く銀髪も、どこか神秘的な銀の瞳も、今は少年の狂気を彩る華にしかならない。――驚くべきことに、こんな笑みを浮かべているのは10代半ばにしか見えない少年だった。
「ミスでも何でも、受けた貴様等が悪いのだからな……ルキヤの乾きを癒す餌になって頂こう。姫の御前でこんな顔をされたら格好がつかん。はぁ」
片や、【使徒】の隣で剣盾の代わりとでも言うように打ち鳴らす両拳を腰に引き、被りを振ってため息を落とす男。
はらり、額にかかる金糸のような前髪を払い、相手に目を向ける長身の青年は、一挙動が絵になる美形だからこそ、敵を餌と断じ、あまつさえ口にしてしまう傲慢が映える。
「美しいー! そして麗しいー! ケインさん今日も美麗よ! ノリにノってるロールプレイ!」
「はぁ……品の無い黄色い声とは、誠に耳障り」
「イヤァー!? ガチでやってるアレガチでやってるよもういっそ抱いて! きっしょ!」
「フ……今きしょいって言った奴は後でルキヤの鋼鉄の処女だ」
自分達を遠巻きに囲む観衆の声援に、どうにかこうにか鼻で笑う美しい動作内で対応出来たイケメンは、口調が少しだけラフったが、それでも表情を崩さないあたり筋金入りのロールプレイヤーである。【修練者】などという硬派イメージ先行の職で、煌びやかな金刺繍の入った白い外套に身を包む金髪なだけはある。同色のガントレットも歯磨き粉のCMの歯が如くきらり艶やかちょっとウザい。
「ひっひ。ケイン、なあケイン、なあ。もーいいぃぃぃだろうが! さっさとヤらせろ、お?」
「――っと、フ、美しすぎてすまん。待たせるのも餌の恐怖を煽るだけで申し訳ないからな。貴様等も準備は良いか?」
相対する敵を見つつ苛立ちを叫ぶルキヤに倣い、ケインもまた此度の決闘相手である二人組に改めて視線を投げ、確認を問いかける。この決闘は二対二の双刃戦、相棒システムを存分に扱うべき戦いなのだ、バディスキルのセットにバディアクションの確認及び発生予測等、事前準備は念に念を入れるのが常である。故の問いかけ、であったのだが。
「あたしらはもう押してんだよボケェ。ミンチってやんからさっさとヤらせェよクソ共。おおん?」
女性らしい高く濁らずな声で、全く女性らしくないどころかイカレ使徒の台詞をスラム街で修行させたような言葉を吐き出すのは全身鋼鉄、黒鉄の城。頭の先から爪の先まで一部の隙も無くカッチカチに露出ゼロ、メタルブラックの全身鎧、のようなもの、を纏ったフルアーマー系女子である。所々に入ったブラッドレッドのラインが鎧を凶悪に引き立てる、本人曰くのチャームポイント。
但し女子である証は通常第三者からは見えないステータス画面のFemail表示しかない。本人はもう気にしすぎて逆に開き直った身長177cm、女子にしては大きいそれと同じサイズの錨――船が停泊する際に降ろすアレだ――を片手で握り地面にブッ刺し、んだコラはよせえやと悪態をつく【機人】が女かどうかなど、気にする者は……
「ひっひひひっひ、ひ。いい啖呵だ、装備破壊してザマァ!の刑だ」
刃に舌を這わせる狂人くらい……
「すげえ、遂にあの機人に手を出すのか、無茶だ」
「……でも俺、ちょっと見てみたいんだよな……なんか、あれで黒とかじゃなくてフリルピンクだったりすると、なんか、ほら……な!? な!?」
「わかる!」「わかる!」「わかる!」
わかるらしくて結構いた。
「『剥き屋』がんばれー! かっぱげー!」
「やめろ! その二つ名は我等クリスクロスの人員に相応しくない!」
観客がルキヤの通名を呼ぶも1秒でケインからダメ出しが入る。割と必死だ。銀十字がギルドマークであり、【使徒】や【司教】や【修練者】等、聖職に類するプレイヤー且つ、己のアバターをキャラクターと捉え、それを演じることが出来る者のみ加入を許すクリスクロスに、この通名はアリかナシかで問えばナシだろう。
が、所詮MMOの通り名なんて、面白おかしく第三者がつけるのだ。ルキヤはよく決闘で装備破壊するので、ルキヤと音が似てるから『剥き屋』。こんなものである。VRになってもこればっかりは大日本産、漫画に出てくる痛カッコイイ二つ名などを誰かが挙げようものなら、大日本人の「うわ恥ずかしい」的感覚で「白炎のwww拳士wwwwっうぇwwきめえwww」「え? マジでかっこいいと思ってんの?(真顔」「いや、VRだしゲームだけど……痛いわー」「白炎wwwwダメだ笑うwww白炎」などの心温まるレスポンスが板に返ってくるのである。ケインはその夜、枕を濡らした。
余談だが、彼につけられた一般的な通名は、翌日に入った「白炎ってより百円だろそのネーミングセンス」という素晴らしい>>251のレスのおかげで『百円』となった。ケインはその夜、枕を濡らした。
ルキヤは「神に傾倒する余り、神への供物として最も崇高なもののひとつに、異教徒の血肉が該当すると脳内神からのお告げを(妄想で)受け、異教徒との対人戦を繰り返す戦闘狂」という設定のロールプレイヤーである。血を噴出させるために、防具は破壊しなければいけないのだ。
だがそんな設定など他人は1ミリも知らないのでルキヤは助平マン扱いであるし、実際女性アバターのインナーが見たいだけの男だったから何も間違っていなかった。
「ひひ。観衆サンに期待されてっし、やっちまうよ、やっちまうよ」
「オメェの相手はオレだよ、あー……ヌギヤ」
何度も剣で盾を鳴らし、前傾になりつつ虚空に手を伸ばしたルキヤにかけられた低い声。
「ルキヤ、だカスが。そうか、最初はカス……タケト、てめえからだったな」
「さんをつけろよ半勃起」
「は、……んだと!?」
わざとなのか素なのかの名前間違いから、罵倒に罵倒、睨み目に半目で返す茶髪の青年が、真昼の決闘で【機人】の相棒を務める【闘士】である。決闘の開始を決めるボタン――ルキヤが手を伸ばした虚空に、彼とケインにだけ見える"Attack!"の文字が刻まれた赤いそれ――の上に表示された名前はタケト。THE・ダイニッポンジン!的ないかにもな名前は、バリッバリの本名プレイであった。SNSなにするものぞ。
尚、【機人】の名はタイラー。Tyleする人、と考えると瓦職人だの屋根職人だのになる。せめて機織職人だの鞄職人だのなら救いがあったが、なんかもう女性的だとか可愛らしさだとか本当にどうでもいいと思っている感じがなんとなく名前にまで浮き出てしまっていて、こいつのパンツがピンクだといいなーと「わかる!」した奴等の幻想をこの時点で打ち砕いていた。
「軽くない敗北ペナ抱えて必死こいて決闘までするのに、それでパンツ見たいだけとか、オメェにゃフル勃起する資格は無いね。いいか半チク、フルでチンする勃起人っつーのはよぉ、半勃起みてえなシャバ憎とは――」
「おいタケこのクソ野郎死ね! おまえは口開くな!」
気持ちよくご高説をブチかまそうとしている最中だったが、己をカス呼ばわりしてくるほどの対戦相手よりも先に相棒から死ねと言われたタケトは舌打ちした。
「っせーな乳貧乏」
「殺すぞ!」
暖かいアドバイスに対する礼の言葉に殺害予告が返ってきたが、タケトはアイテムバッグからマルメン――正式名称:煙草っぽいなにか。マルポロメンソーレ味で、VR認証20歳未満は使用できない――を取り出し、だるそうに口に銜え、指先から生んだ灯火で火をつけながらゆっくりと息を吸い込んで、ああ、メンソうめえ、そんな顔。聞いちゃいねえ。
「なるほど、乳が貧しいつまり乳貧乏!」
「機人は貧乳だ! やった!」
「殺すぞ!」
説明まで加えた観衆の声援にまた殺害予告で返す相棒を一瞥してから、タケトの視線は、憎憎しいといった表情でこちらを睨む半勃起nちがったルキヤに漸く戻……らず、彼を通り越してケインで止まった。
「よぉ。【聖者】の護衛以来だな」
「タケト……三人目の【闘士】として貴様の名前を板で目にした時は驚いたが。あの【機人】とバディを組んでいたことにはもっと驚いた。いつだ?」
「対戦前に馬鹿なことを聞くなよ。バディスキルは万全だと、オレはそう返すしかないぞ」
「それもそうか。失礼したな……フ」
つい昨日の誓約ですハッハ。ということであるのに、しれっと答えるタケトの心中知らずなケインは得意の「フ」で終えた。「フ」さえやれれば会話の中身はそんなに気にならないのがケイン流であった。
そしてこれが、対戦相手同士の、決闘前の最後の会話となる。
ルキヤの洋剣が"Attack"に触れる……途端、決闘者以外も見ることの出来る大きな数字が中空に浮かんだ。5からのカウントが始まり、同時にアタックスキル以外のアクティブスキルが使用可能となる。決闘のエリア、スクウェアゾーンを示すラインも浮かび上がり、ライン内の第三者は外に弾かれた。
「おい、いい加減に、いぃぃぃぃい加減にしろよてめぇらよ! だらだら馴れ合ってんじゃねえぞ、ブッ壊してやる……ケイン、てめぇの知り合いだろうとデスペナさせっからな。レア職だからって粋がりやがってよ。潰す、潰す、捧げてやるるるる、るるるゥ……」
胸前で構えた盾と、下段に構えた右手の剣から白光を発するルキヤは、呂律が回らなくなるほどに、涎と唾を撒き散らすほどに、殺害の意図を一切隠そうとせず。
「構わん。聖銀十字の結束は知人と比べるまでもなく、血を欲す神もまた真実也。我が拳に砕けぬもの無く、我が白炎に焼けぬもの無し。故、法撃聖拳、機人砕きて尚止まらぬと思え――ケイン=ストライア、推して参るッ!」
ルキヤに対して、決着が遅ければ貴様の相手も食うぞと意気込んでいる自分を精一杯の格好良い言葉で表現し、ノリにノってるケインの悦は背筋を気持ちよくさせ観衆の一部を喜ばせ一部をガチでドンビキさせ。
「どっからやろっかなー。まず顔……まあ待てあたし、顔は最後だろ。とっておいて、喉、肋骨? いや、さっきタケから教わったあそこ、ええと海底撩陰だっけかにこうズドンと……」
黒いエフェクトが弾け、両足の下の地面を少しだけ陥没させつつ、元気よく振り回す錨を如何にして物騒な場所に当てるかを考えているタイラーは、兜の中できらっきら☆の笑顔を見せ。
「――ッペ」
吐き捨てたマルメンがダスト扱いで消えた時、煙を吐き出しながらタケトが笑う。
「ッかはぁぁああああああ……人体に技術をブッ込めるのが嬉しいのは、おまえだけじゃあないんだよ、使徒」
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[Bounty Chain]が稼動してから丁度一年のこの日。
双刃戦の決闘で、ワールド内プレートの一部スレッドが祭りになった。




