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月に1本 不良と優等生  作者: 夕霞之
放課後編
2/2

寄り道:買い食い

2月になっちゃったけど1月分。だるいとは思うけれど、これもまたここでの活動を生き長らせるため。

「茂木君っ、今日の放課後一緒にクレープ食べに行こうよ!」

「はぁ?」

 という不良娘野坂からの唐突すぎるお誘いが今朝あってから放課後。野坂を無視しながら帰りの支度をしていざ教室へ出ると「茂木君待ってよぉー」なんて声が後ろから聞こえてきた。

「昨日ね、私の家の近くに新しいクレープ屋さんが出来てたの!」

 俺の隣へ駆け寄り歩き出した野坂が言う。これから行く予定のクレープ屋が楽しみらしく、その目はギラギラと輝いていた。

 まあ俺は行かないが。高校生が帰りに寄り道なんざ言語道断に決まってんだろ。

「へー、じゃあ明日それの感想教えてくれよ」

「何言ってるの茂木君。茂木君も一緒に食べに行くんだよ?」

「はぁ?」

 いやなんで俺まで、と言いかけたところで野坂が俺の手首を掴んで廊下を疾走。俺もつんのめりながらも何とか彼女について行く。途中、風紀委員が「廊下を走るな廊下!!」と怒鳴っていたが、それは俺にではなく野坂に言ってやってほしい。俺はむしろ被害者だ、見れば分かるだろ。

 それから一気に階段を駆け下り、昇降口を通過し(振り解いて逃げるどころか靴を履き替える暇すら奴はくれなかったよチクショウ)、上履きのままで街を駆け抜けた。もう周囲の目が痛いね、今の俺なら涙で海を作れるよ。

「ここだよここ!」

 野坂が立ち止まって言う。俺はというと勢いが余ってすっ転んでしまった。

 あれ、手ぇ掴まれてたんじゃとか思うだろうが、野坂が止まった時に手ぇ離しやがったんだ。起き上がって野坂を見てみれば、その離した手はクレープ屋へ指を指していた。

「ああそうかい、じゃあ俺はもう帰るな。明日それの感想教えてくれよ」

 そうとだけ言って俺は踵を返して学校を目指す。ずっと上履きのままだからな、このまま帰るわけにはいくまい。

「まあまあちょっと待ってよ茂木君」

 野坂がまた手首を掴む。そして自らの口を俺の耳元へ寄せて、

「私さ、独りで買い食いなんてしたくないんだ」

「……だから?」

「もし、買い食いに付き合ってくれたら、……大声出さなくて済むかも」

 こいつ……!

「ああもう分かった。分かったよ一緒にクレープ食えば良いんだろ」

「ありがとー! 茂木君ってば話わっかるー!」

 うるせぇこの悪女め。脅してきた癖に……なんて情けないよな俺。さらに言えば今日金持って来てないってのも情けないんだよな。

「だが俺は金なんざ持って来てないぞ? 買い食いに付き合うにしてもどうするんだ」

「それなら私奢るよ?」

「いやそれだとお前に悪いだろうが」

「私に悪いことがあるとすれば、今ここに変な人がいるってことくらいかな?」

「……ご馳走になります」



「おまたせ茂木君っ! はい、茂木君のクレープ」

「すまないな何から何まで」

 それからというものの、クレープの具は何にするか話し合い、結果二つとも野坂の好きなものでってことになった。俺はチョコプリンで、野坂はイチゴクリーム。お代は勿論野坂が持つことになるが、後日に金を渡せば良いってことになった。聞けば最近はキツキツとのことだが。

「それじゃいただきまーす!」

 野坂が一思いにクレープに乗ったデカい苺をかぶりつく。

「んー! あっまーい!」

 ここに来て良かったー! と満足げな様子を見てから俺も一口、チョコプリンのクレープをかじる。……うん、これは旨い。

「茂木君のも食べさせてー!」

「あーはいはい、お前の金で買ったんだから好きに食って良いぞ」

 持っているクレープを彼女に手渡す。すると、何故か嫌な顔をされた。

「違う、そうじゃないよ茂木君」

「違うって何が?」

「思春期真っ最中の女の子が男の子のクレープを食べたいって言ったら“あーん”って食べさせるのが普通でしょ!」

「それは仲睦まじいカップルにとっての普通だろうが」

「良いから! あーん!」

 と言って関節が外れそうになるくらい顎を開く野坂。奢られている身としては、まあ、やらざるを得ないのだが、正直言って死ぬほどやりたくない。死ぬほど恥ずかしいからな、黒歴史確定だ。かと言ってやらなかったら何をされるか……。本当に情けない。

「……あーん」

 仕方なく。本当に仕方なく、野坂の口にクレープを入れた。もにゅもにゅと生地を噛み千切って口を離した彼女の顔にはこれはまただらしない表情を浮かべていた。

「んー! これも美味しいー!!」

 ……訂正。眉を八の字にしたその表情はなんとも言いがたい中毒性を持った幸せな笑顔だった。

「ほら、茂木君もあーん!」

 少し奴の顔に見惚れていたと思いきや、視界のど真ん中に苺が乗ったクレープが入り込んだ。今度は俺が“あーん”される番らしい。勿論死ぬほど恥ずかしいからしたくないのが本音だ。

「あ、あーん……」

 クレープに噛み付き咀嚼。生クリームの甘ったるさと苺の甘酸っぱさが程よく混ざって旨い。

「どう? どう?」

「どうって、普通に旨いよ」

「なんたって私が見つけたお店だからね」

 それで威張っていいのかは微妙だがな。



「……茂木君」

 帰り道。クレープを食べ終わった俺たちは、上履きから靴に履き替えるため学校へと並んで歩いている。その時、不意に野崎から名前を呼ばれた俺はあまりのしおらしさに戸惑いを覚えてしまった。

「……なんだよ、急に」

「今日は、ありがとね。とても楽しかったよ」

「別に。あそこで帰ることなんざ出来るわけないし」

「えへへ、そだね」

 沈黙。

 話が絶えてしまったと焦り、急いで他の話題を探す。勉強、違う。部活、違う。バイト、違う。

「茂木君」

「んあ?」

「ふふ、何その変な声」

 野坂に笑われてしまった。恥ずか悔しい。

「うるさい。用件は何だ」

「なーんでーもない」

「はぁ? 何だよそっちから話しかけてきた癖に」

「呼んでみただけだからね」

 何だよそりゃ。

「あ、そうだ」

「何だよ今度は。また呼んだだけとかじゃないだろうな?」

「そうじゃないよ。ただ……」

 そう言って野坂は黙り込む。五秒経っても十秒経ってもだんまりだ。

「おい? どうした野坂、おーい」

 野坂の目の前で手を振る。振った手が突然彼女の手に掴まれた。

「ただ、次からはちゃんとお財布持ってきてよね」

「はぁ? そりゃどういうこったよ」

「決まってるでしょ?」

 何言ってるのと言いたげな顔をして、野坂が一言。

 ――また一緒にどっかに出かけようねって事。

 まあ、また脅すようなことがなければ、とだけ返した。

と、いうことでちょっと長くなった実質2話目、お疲れ様です。感想・意見等ございましたら感想へどうぞ。

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