第二部:俺の場合/傷だらけの拾い物
【案内係】
『鋼鉄製雑務型道人/安内さん』
「この物語はフィクションです。
実際の地名、団体名、人名、職業など、その他諸々は現実のものと『一切』関係ありません。
この物語には専門用語が少しばかり多いですがご安心下さい。
要は『戦闘メインではなく大きくなった武装○姫の物語』と思っていただけたら幸い…だそうです。
小学六年生でありながら、
子供らしからぬ雰囲気を持つ少年、羽堂くん。
今回は彼の日常からの分岐点。
はて、どうなることでしょう。
それでは【Iって夢かい!?】。
お楽しみ下さいませ…」
始業式を終え、いつもの帰宅道を歩く。
低学年の頃は毎日、母親が一緒に歩いていたのを思い出す。
少しばかり過保護で、それでも少し厳しくて。
春菊だけはどうにも苦手だと言っていた、大好きな母。
「…………」
意図せず溜息が出る。
一年前のように、あの人たちの墓の前で別れを告げた日の、翌日のように。
――昔を思い出してしまう。
――母と騒ぎながら帰った帰り道を。
――今でも思い出してしまう。
――父の帰りが早いと、途中で迎えに来てくれる父のことを。
思わず奥歯を噛み締める。
帰り道を歩く足も、自然と早足になる。
――帰ったら、少し寝てしまおう。
――冷蔵庫の中はそれなりに残っていたはずだ。
――晩御飯は、その場で決めよう。
早く寝てしまいたい。
あの頃の夢でも良い。
今は早く、この感じを無くしたいから。
その時だった。
ぽつり。ぽつり。
雨が降り出した。
ああ、今日の天気予報は一日晴れだったのにな。
ああ、折り畳みでも用意しておくべきだったな。
――直に、体に当たる雨。
――余計に、今朝の夢が。
――去年の出来事が脳裏に過ぎる。
――誰もいない墓。
――姿のない遺体。
――聞こえない、声。
――ああ、最悪だ。
――とても最悪だ。
――…クソったれ。
早足が、元の歩く速度に戻る。
何故か、そうなった。
明日は風邪を引くだろうな。
連休一日目は風邪か。
我ながら災難だな。
不意に。
路地にあるゴミ捨て場に目が行く。
――いつもなら。
――いつもなら、だたゴミ袋が乱雑に置かれてる場所。
でも、でも。
――今日はだけは、少しだけ気になった。
――何故だかは自分でも解らない。
――でも、気になった。
――いつもは、ゴミ以外何もない。
――そこには、ゴミ以外何もない。
――そのはず。はずなのに。
無意識か、興味本位の心か。
俺の足が路地裏へと進む。
車の通りの少ないここだと、
ゴミ袋のビニールに雨が当たった音が目立つ。
想像通りなら、ゴミとか薄汚れた猫とか。
それぐらいしかいない。それしかない。
でも。でも。
それだけでは、なかった。
「………ひ、と…?」
倒れている人物の頭には道人特有の機械らしきパーツがある。
服装はボディーラインの目立つ青黒い角袖型の侍女服。
しかし服の所々が裂けていたり、傷が目立っている。
白かったであろうエプロン部分も破れていたり汚れていたり。
ここ数年。世間では道人の不法投棄が社会問題になっていたりする。
しかし、目の前の道人らしき人物は、明らかな不法投棄とは違うような…
――例えば、そう。
――誰かから逃げてきたとか、
――何かを退いてここで力尽きたとか。
―――――。
馬鹿か。俺は馬鹿なのか。
そんな漫画染みたことがあるか。あってたまるか。
目の前の、この状況のような光景は世界の何処にだって存在する。
――それなのに。いや、それだからこそなのか。
一人は嫌だと思ってしまったのは―――――。
一人になりたくなかったと、思ってしまったのは。
捨てられていたブルーシートで倒れている道人の上半身を包んで、
ランドセルを背中から前へ回す。
…幸い、道人の服装は侍女服型。道人をおんぶの形で背負う。
両足に力を入れろ。胸を張れ、顔を上げろ。
小学生の体が何だ。道人の重さが何だ。
俺の見立てじゃ、この道人はただのガス欠。まだ助けられるだろ。
――見つけなきゃ良かった。
――見捨てりゃ良かった。
――でも、でも!
「お前も幸か不幸か…こんなガキに拾われるなんてな」
見つけてしまった。見てしまった。
見えないところで、見知ったヤツが死ぬなんて、
「お前の不幸諸共、拾ってやる…!」
――許せるわけ、ない。
――路傍の石を見た程度の時間が何だ。
――初対面で一度も話していないから何だ。
「目の前で倒れてりゃ迷惑だし、後味が糞マズすぎんだろゥが」
知らず知らず口角が上がる。
何故?――知ったことか。
どうして?――知るか。
何をしたいの?――俺も知らん。
じゃあ何?――黙れ。
――行動理由なんて一々考えられるか。
――俺が何をしようが、俺の勝手だ。
――自分本位上等。俺そのものが行動理由だ。
――背負ってるコイツ助けても、誰も迷惑しない。
――むしろ、だろう。
もっと足に力を入れる。
踏み込みにも力を入れろ。
確実に前へと進め。
――直に、体に当たる雨。
――余計に、今朝の夢が。
――去年の出来事が脳裏に過ぎる。
――誰もいない墓。
――姿のない遺体。
――聞こえない、声。
――でも、最高だ。
――とても最高だ。
――…クソったれめ。
ようやく第二話です。
さてどうしよう…(苦悩)