三章
バーン!という音と「はい!授業始めるぞ」という大きな声が教室に響いた。
ハッと顔をあげると、担任である数学教師の真山先生、通称ゴリがこちらをみている。
慌てて教科書を出したが、先ほど夢でみた光景が頭から離れず、授業に身が入らなかった。
あの洞窟と、青い光、夢から覚めても、なぜか懐かしいような切ない気持ちが消えずに残っている。
あれは何だったのだろうと上の空のまま、あっという間に一日が終わった。
帰り支度をしていると、すでに帰宅準備ばっちりのみゆちゃんが「大島くんと何かあったら絶対報告だからね!」
と念を押して去っていった。
その迫力に思わず無言で頷くと満足気な顔をして頷いていたが、何かなんてあるわけないのに。
昇降口で靴を履いていると、サッカー部のユニフォームを着た大島くんが玄関外にいる。
日々の練習のせいかほどよく焼けた肌と、引き締まった筋肉質の足が白いユニフォームから伸び、
制服姿とはまた違うかkっこよさがあった。
その大島くんがこちらをみている。
あれ?気のせい、じゃないよね。
朝声をかけてくれたのも、人違いじゃなくて本当に私に挨拶してくれたのかな。
相手が学年の人気者ということに気後れをしたが、気づかないふりをするというのも気が引け、勇気をだして会釈をしてみた。
けれど、大島君はその途端にグラウンドの方に走って行ってしまった。
自意識過剰だったのか、やっぱり私のこと見てたわけじゃなかったのかな。
幸い周りに人はいなかったので、赤くなった顔を誰にも見られずに済んだ。
大島くんに不思議な夢。
夕飯の間もお風呂の間も、今日起こったことが頭にぐるぐると浮かんでいた。
ただ同級生に声をかけられただけのこと、不思議な夢をみただけのことだが、平々凡々な毎日を過ごす私にとっては、十分すぎる位に特別なできごとだったから。
ベッドに入ってからも、大島くんのことと洞窟の夢を反芻する。
大島くんが話しかけてくれたのはすごく嬉しかったけど、きっともう二度とないことだろう。
放課後だって、私のこと気づいてなかったみたいだし。いや、もしかしたら無視されたのかも。。。
せめて今日の夢の続きをみられますように。
希望通りの夢を見られたことなんて一度もないけど、そうつぶやいてから瞳を閉じた。