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第四章:星の運命

綺麗なものは残していたいものである。それが例え死体だとしても。死体でも葬式のときは化粧を施す。

人間は最後まで幸せの劇をしなければならない。全ての死体がそうではない。惨劇で終わる死体だってあるのだから。

だってほら。そこの死体がそうだから。

子宮がとれて、股から胸にかけて抉れてる死体を暁は風呂に入れた。力を少し入れて肌を綺麗に磨いた。血止めをしていたので抉った以外の部分は血がでなかった。

しかし、暁が抉った部分は確実に血が大量にでてきた。時が止まった心臓。もう臓物は全て機能停止である。

暁は体を隅々まで綺麗にしていると、心臓・小腸が湯船に上がってきた。心臓は少しばかり重いので途中まで上がってきたがそのまま底に落ちていった。

小腸はふやけて湯船の中でふよふよ泳いでいるようだった。白いお湯から赤いお湯に変化したがその代わり、体は綺麗になったのだ。その死体をバスタオルでこれまた隅々まで拭いた。そして、暁は死体を担ぎハンガーの針金を出して死体の首に突き刺した。そしてそれを持ち上げて天井の何かのワッカに引っ掛けた。

足が少しだけ浮く状態となった。それを見て暁はクスクスと笑った。笑いながら時計を見ると朝になりかけの時間だった。

暁はお腹はすいていないが何か喉が渇いていた。少し返り血がついた服を脱ぎ、綾音の持ってたジャージを盗って街へ出た。

出勤する車が規定速度を超えて道路を行ったりきたりしていた。まだ歩く人はいない。いるとしても暇人で犬の散歩していう人ぐらいしかいなかった。

暁は改めて携帯を見た。真紅の場所から一切携帯をあけていなかったのだ。するとメールが四件。電話が2件。

メールはくだらないことだったが、電話は、さつきと知らない人の番号。さつきに電話をしようとした時。



―――――『茜が向こうで俺を見てた』―――――



開いた目を瞬きせずにその茜という人物を凝視していた。その茜という人物は物陰に逃げた。暁の視線に気付いたのかわからないが、とりあえず逃げたのだ。


「っ!茜!!!」


暁はさつきに電話をしようと携帯を勢いよく投げ捨てた。そして全力で茜に向かって走っていった。


「…はっ。はっはっ…っ!!どこいった?」


肩で息を殺しながら目だけは相変わらず瞬きをしていなかった。静寂を保つこの街で逃げることは難しい。

なぜならこんなにも静かで、こんなにも必死な人間がいれば簡単にみつけるっていうことは過言ではないかもしれない。

案の定。暁は茜らしき人物の足音を見つけ走りだした。だんだんと追い詰める距離。暁は茜らしき人物が視界に入ると、


「まてよ!俺だぜ!?」


と。しかし、茜らしき人物は振り返らずにこちらも必死に逃げている。どんどん街から遠ざかっていく気がした。

さすがにずっと走りっぱなしはキツイ。暁も茜らしき人物も走る速度が遅くなり、息も上がってきた。


「チッ…くそっ!やっぱキツイわこれ…だが…!」


暁は最後らしき力でスピードを上げた。一気に加速して距離を狭めるのであろう。そういう作戦のもとで力を出した。

それが思った以上に、良い感じに速度が上がり、茜らしき人物が角を曲がるとき程度には捕まえるはずの予定だった。


「つ…捕まえ…」


角を曲がった時に伸ばした手は虚しく空を握った。体重を前にかけていたのでそのまま前に倒れこむオチだ。


「い、ってー!…チックショウ…あんなにアイツ足速かったかなぁ…」


腰を思いっきり地面に叩きつけられ尻餅をついた暁。起き上がろうとするが、足が思った通りにはしてくれなかった。

二時間も走ればそれは疲労が溜まるのが基本であろう。暁は茜を探すために辺りを見回した。するとそこに小さな教会があった。

十字架があるのでキリスト教であろうか。白と青の建物。祈りぐらいしかできないような広さしかないようだ。

暁は少々休憩をとり、立ち上がりズボンのポケットに手を入れた。


「あ…れ?俺、携帯どうしたっけ…?」


ポケットの中に手を入れてガサガサとかき回した。しかし、探し物はない。確かに探し物はないが暁は、無いと思いすぐに手を中から出した。

暁の目的は探し物。それは茜。それだけ。暁は目の前のあの教会に視線を向けた。一番怪しいといえばあそこだと確信をしていたようだった。

そして、ゆっくりと足を持ち上げた。




 昨日と今日の狭間。黒い景色・白い光景。

 あの子とアノ子の違い。ありふれた光景・見飽きた景色。

 もう戻れない貴方の腕の中に。「そう思ってください。」

 消えないように抱きしめて。「そう想ってください。」

 貴方という存在は私にとってかけがえのない一つの星。

 いつか貴方の奇跡が夢になる。永遠に生きていく私の想い。

 きっと。その言葉をまっている。きっと。待っているはずだから。

 きっと…きっとだよ。





教会は意外と大きかった。遠くでもみるtそおまでなかったが。近くでみると二階建ての大きな屋敷のようであった。扉も三メーターはあるのではないか。


「でか…」


第一声である。しかし、仰天した暁であるがすぐさま扉を開けた。何も躊躇することなく扉を押し開けた。木造でギギッと古びた音がした。年月がかなり経ってることがわかる。




―――――広い空間には無数の椅子。そして一人の女――――――




まさに教会って感じであった。静寂を保つ中で一人前に女が立ていた。それはまさしく暁が捜し求めた最高の女性。

『葉月 茜』の姿であった。

朝日の光が逆光で茜の姿が黒く見えるが、顔の表情ぐらいならわかる程度であった。


「こんにちは。おバカさん♪」

「…へっ。やっと見つけたぜ…」


一方は笑顔。一方は安堵の顔。


「ホント…お前見つけるのに苦労したんだぞ?」

「あら?それはごめんなさいね。貴方は私が不必要かと思ってたからね。」

「誰が不必要だって?俺はお前が必要だ。」

「あれ。嬉しいころいってくれるのね。感動しちゃうわよ。」

「あぁ。泣け。俺の胸で泣いてくれ。」

「ふふっ。素直な人ね。」

「それが一途な証拠だぜ?」


茜は一歩…二歩…と暁に近づいてきた。暁は両手を広げて受け身の態勢。茜は両手を背中のほうで握っていた。

五歩…六歩…二人の吐息がかかるほどに迫る距離。茜は笑顔。勿論、悟るも笑顔だった。

七歩。茜は暁の胸に到着した。


「嗚呼…本当に会いたかったよ…茜…」

「私もよ。暁。」


暁は茜を抱く力を強めた。そして、茜を感じるようにどんどん迫ってきた。茜はそれに受け身だのだが未だに両手は後ろ。


「ねぇ。暁?」

「ん?なんだ?」


この幸せな時間が続く。


「私のこと好き?」

「あぁ。当たり前だ。」

「他の女の子とか関係作らないよね?」

「あぁ。お前だけだ。」

「私に一途なんだよね?」

「あぁ。お前が一番だ。最高の彼女だ。」

「へぇ…そうなんだ。私はそうじゃないな。」


戦慄。茜の声が変わった。


「嘘でしょ?暁?」

「何いってるんだ…茜。俺は・・」

「綾音ってだれ?」

「あれは…」

「あれは?あの女は一体、暁のなんなの?」

「綾音はお前だと思ってたんだ…」

「は?何それ?言い訳のつもりなの?」

「…違う。お前が死んだと思ってたら綾音がやってきて、お前にかなり似ていたんだよ。だから俺を騙そうとか思ってるんじゃないかとか思ったんだけど…あれは俺の勘違いだった…」

「だから言い訳なんでしょ?」


茜は暁の胸から一歩下がった。暁の顔を凝視した。少し吊りあがった目をした茜。暁は少し弱気な言葉で返事をした。


「違う…。違う!!俺はお前だけだ!」


暁は茜の両肩を掴み、痛いくらいに握り締めた。しかし、そんな痛みは効いていないような茜はプッと笑いだした。


「あははっ。なーにむきになってるのよ?」

「へ…?な、なに?」

「へへぇ〜。ちょぉ〜っと暁を試したんだよっ」


拍子抜けした暁の顔は意表をつかれた顔になっていた。


「だ、だよな。ビックリしたぜ…」

「なーにひかかってるんだよ〜?」

「俺はお前が好きなんだ。」

「プッ…あはははっ!な、なな、何改まっていってんのよ!あっはははっあーおかしぃ〜」

「そ、そうだよ。俺ってばなにいって…」






「嘘ッッッッ!!!!!!!!!!」






突然、茜の顔が鬼神のごとく変わり、ありえないほどの声で叫んだ。


「なっ…」


暁は茜の豹変ぶりに驚き、汗が体中に湧き出た。茜はスッと暁の顎を撫でながら言った。


「だって…私しってるもん。あの綾音ってことやったちゃったってこと。」

「…なっ。」

「ぜーんぶわかってるんだからね〜。あははっ私ってすごぉ〜い。」

「お前…なんで…」

「わかんないかなぁ?私は暁が大好きなんだよ?だから暁のいるところならどこでもいっちゃう女の子なんだよ〜?だけど…」


茜の腕が暁の首を回った。抱きしめられる暁は冷や汗が大量に出てきていた。


「私だけを見てなかったってことでしょ?私はこの世で一人。そう何人もいないわ。」

「・・・・・・」

「だ・か・らぁ。私はちょっと嫉妬してたわけで逃げてたの。」

「・・・・・・なぁ。」

「ん?なに暁?」

「あの事件の女と綾音を殺したのはお前か?」

「何いってんの?」


茜の笑顔から狂ったような笑いの顔となった。


「だってイラナイモノじゃないの?暁と、私させいればいいんだから。それに、あの子達が暁を狙ってたんだもん。そりゃあ彼女として?防衛ってやつなの♪」

「防衛って…それで人を殺すのかお前は!?」

「…何熱くなってるの?私は貴方のためにしたことなのよ?それがいけないことなの?」

「・・・・・・」

「貴方だって。綾音って子。未練があるからあんなやり方したんでしょ?」

「・・・・・・」

「あれはエグかったなぁ。でも?私はすっごく嬉しかったんだけどね♪」

「・・・・・・」

「でも…貴方は私を見てくれていない。」


黙りこむ暁に茜は両手を開いた。





「貴方が好きなんだよ?何で…なんでわかってくれないんだろうね?」





「それならイラナモノだよね?」





茜は左手に先の尖った注射器を暁の首に刺した。針が全部刺さった。何かの液を注入したのだが、暁は動かなかった。

そのまま茜を抱きしめたままだった。


「これはね。私の愛液がたぁ〜っぷり入った液体なの。私を充分に愛してくれる人じゃないと死んじゃうんだよ?」

「あぁ…わかってるよ。」

その薬の効力をしらない暁だが、何か決心をしたのであろうか。茜はずっと笑う。

注射器を刺したままでずっと。ギュッと。離さないように。ギュッと。


「…っあはっ!…あ、茜。最後にいい…か?ごほっ」

「ん〜?いいよ?ていうか、さっさと死んでくれないかな?」

「なんでイラナイモノにしたんだ?」

「あの子達は貴方を取ろうとしたから。暁はね、浮気したかだよ?」

「それ…だけか?」

「うん。その他に理由でも?」

「いや・・・・・」


液の効力が効いてきた暁。自力で立つのも困難になってきた。それを見た茜は。


「ねーねー。苦しく死んでもらいたけどさ。早くしにたくない?ていうかぁ、早く死んで?」

「そうしてもらえるなら…お前に殺されるならか、まわんがな。」

「ホント?嬉しいな。―――――じゃあ死んでもらいますかっ!」


茜はズボンのポケットから銃を取り出した。暁は膝をつき頭を下げた。

茜は暁に銃を向け、なにか呟きながら弾を放った。

 

 何発も。頭・顔・胸・心臓。あらゆる場所を打ち抜いた。

 暁は涙を出しながら亡骸となった。それも少し微笑みながら。

 茜が笑いながら打ち続けた。それも言葉を放ちながら。



―――――「貴方は私を愛してくれなかった」と――――――



 偽りの彼女。嘘の彼女。偽りの嘘。

 亡骸のカケラと笑う女。最後には一滴の運命がそこに。

 何を求めて何を失ったのだろう。静寂のこの街で。何が目的なのだろう。

 真実は星。偽りは星屑。例え星屑だとしてもそれは生きている証。

 星になりたかった星屑達。それを求めたのが過ちという運命を辿ってしまった。




―――偽りが嘘になる時、幻想が具現する――――              


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