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第三章:藍染

暗闇の心臓は今動いているのだろうか。明るくない日差しが空を狂わせた。

月光は虚しく、虚言の偶然のそれを幻想をみてしまった。偽りの人間を愛してしまった。

それを悔む暁がそこにいた。綾音という茜。茜という綾音。

一体、どちらが真実なんだろうかと。しかし、考えてもわからない現実。

流れる時間と涙。自然と流れてしまう物ばかり。運命とは何を感じさせるのか。

偽りの時間?偽善の愛?

どちらも正しい思うのは暁だけであろうか。さきほどまで愛を確かめ合った綾音は茜ではない?こんな話、どこにもないだろう。


「あれは…茜じゃない?偽りの…茜?」


握る拳の中には真実を教えられた携帯があった。そして、ここは真紅の場所。

しかし、さつきの言ったことが全部真実、というわけでもない。暁は茜が死んだ現場を振り返る。…あの日。

確かに茜という存在は死んでいた。あの時、暁の目には茜だと気付いていた。

だが、世間の目は茜という存在、またはそれに似た女と確信していた。確かに、茜の両親は何も無かったように過ごしていた。

暁は“嗚呼。この人達は娘がいなくなって気が動転してるんだ。だからこんなにも普通にしていられるんだ。”と思っていた。

だが、それこそが嘘だったかもしれない。暁はハッとした。


「俺が間違っていたのか…?」


綾音という存在。それはさつきが言う通りの“偽りの茜”なのだろうか。だとすれば、暁は茜ではなく、違う女と愛し合ってしまったということになる。

絶対の不安。絶望の残酷な時間を過ごしてしまったということになってしまうのである。

暁は茜が好きだ。あまりに好きすぎて周りからは『バカップル』というほど愛し合っていた。

だが、暁は違う女と過ごしてしまった。これは暁にとっては最悪なこと。茜にとってみればそれは憎むこと。


「俺は…俺は…お・・れは…」


徐々に声のトーンが下がってくる暁。視界がグラリと曲がり真紅の場所で倒れこんだ。暁はあるもの全てを地上にぶちまけた。

その違和感の感じとこの真紅の場所の異臭によって吐き気を誘った。言葉では表せないほどの色と匂い。音までもがグロティスクに思えた。

ダラリと流れるソレを見ながら暁の目は虚ろになってきた。口から漏れる息が口笛のような音をだしていた。


「お。俺は…茜じゃ・・なく…て。ははっ。別のお、んなを愛し、た、のか」


いかにもといっても過言ではないほどに小刻みに口が震えていた。そして、未だ口の回りにはベタベタと吐き出したものが残っている。

唾液と混合し粘着のある液体を出してゴポッと勢いよく吐き出た。赤と色ではない色が混ざり、褐色…非常に赤に近づいた。

そして暁は、真実を求めて綾音のところへと歩き出した。







間違いだらけのあの落書きにある約束をかわした。

運命という途方も無い言霊を信じた男。永遠という残酷な時間を操る女。

しかし、双方の存在があるからこそこの世が成り立っている。

真実とはなにか。または偽りとはなにか。

惑う地平線の彼方へ沈んだ二人。怠惰する言い訳。懺悔の悔み。

歌う天使。喚く悪魔。血が欲しくてたまらない堕天使。

世界が狂いまた男も狂わせた。死んだ目をした男を。






暁が歩いておよそ三十分。街灯が眩しすぎる綾音の家の前までたどり着いた。綾音の家は親もましてや兄弟も居ない。まさに一人暮らしということだ。

辺りは怖いほど静かで物音さえも鳴り響かない静寂。暁はそこへ歩きだし、運命を信じた。

しかし、夜は暗い。闇からの暗黙の了解。本当に鳥やら人の声がしない。今は、階段を一段一段踏み締める音だけ。

カンカン…鉄と靴が当たる音が響き、強調されるようになっていた。カンカン…やっとのことで音も収まった。

ゆっくり。ゆっくり。暁は抜き足で綾音の部屋番号を探した。懐中電灯がないので携帯の液晶のモニターを光らせた。

瞳孔が小さくなり暗闇が見えなくなった。目指すは二○三。

二階の真ん中寄りの左の位置を示す。カッカッ…暁の靴の踵がまた鉄の床を叩く。


「ここだ。」


暁の一人の声は虚しく暗い夜の中へ消えていった。間違いすぎた言葉も何かもかもを許すように、弾ける会話、動く鼓動、が強調して聞こえた。

暗闇にはたった一人なのに。意味なく夢幻に喋り続ける。その夢幻は見えないし動かない。それは暁だけが見える夢幻なのであった。


「綾音…真実を教えてくれ。」


ブツブツと呪文のように口ずさむ。以前もらった合鍵で勢いよく扉をあけた。中からは懐かしい匂いと古い匂いがした。

暁は土足のまま台所にいく。古い匂いなど、いろいろと混ざっていた匂いであったが、廊下の真ん中あたりで匂いの風向きが変わった。

懐かしさの匂いはするのだが、古い…いや、これは生臭い匂い。料理で失敗したのだろうか。

しかし、こんな時間に練習する、とても不可解なことである。何か…もっと違う理由があるのである。

暁はゆっくりと台所を覗く。まさにそこは――――

日程表など貼られた壁には血がついていた。バケツに汲んだ紅い絵の具をぶちまけるように、赤の広がりようは酷かった。

さらに、足元には四本の指。おそらく左右の薬指と親指だろう。二本は綺麗に切られ、二本は骨についてる肉が上手くつかなかったもの。

これがあの異臭の原因であろうか。否。こんな少量のものでは鼻を曲げるような匂いは出せない。ではこの匂いの発生源は何処…?


「風呂…?」


カタンと、音が反響した。部屋の中で反響するような場所。そう、風呂場である。暁は落ちていた四本の指を踵で踏み潰して風呂場へと向かった。

だんだんと匂いが一層濃くなっているような気がする。確かにこれは、血の匂い。錆びた鉄の味をした匂い。


「綾音…ここだろ…?」


もう暁の目は死んでいる。そんな目は風呂場のドアノブを見つめていた。

そして、とうとうそれを掴んでしまった。ゆっくり。ゆっくり、と。その感触を一秒一秒確かめながらノブを回した。

キィ…とノブが廻りきった音がした。そしてノブを手前に引いた。


「綾音…!」


言葉を失うほどの拒絶。残酷なる始末。暁は見てしまった。その綾音の姿を。

目の前には鏡があった。鏡とは本来自分の姿をそっくりそのまま映す道具である。しかし、この鏡は赤の落書きが多くて姿が見えない。電灯を確認する。

バチッと音がした。しかし、先ほどとなんら変わってない景色。電灯の故障かと思い、電灯のつけてある壁を見上げた。

すると、黒い物体が吊られていた。よく、その黒い物体を見てみると…。


 口を最高まで開けた綾音の首が壁に刺さっていた。


その口からは電灯の電球が出ていた。全ての歯がなくなっていて、さらには舌までもなくなっていた。目は両目も普通に開いていた。

充血した両目であるが、左右ともまち針みたいな細い針が目の半分まで入り込んでいた。それも二つ合わせて十本の針が刺さっていた。

だが、一番驚いたのは頭である。あの綺麗になびかせた美しい髪は、無残にもバラバラに切られ髪が出てくる場所、つまりは頭の皮膚がめくれていた。

脳の血管が見えるほどに繊細に。その頭の真ん中には綾音のつけてた時計が刺さっていて、まだ時刻を伝えようとしていた。

そして暁は静かに電気を消したのだった。

しかし、頭だけが見つかったわけだが本体はどこにあるのだろうか。暁は風呂場をでて咄嗟に洗面所の下にある収納ボックスみたいなところをあけた。

―――――的中。

ゴロリと出てきた体操座りをした首なしで裸の死体が出てきた。普通は驚いて悲鳴などろ喚くが、暁は平然とその死体に手を伸ばした。

あれだけの残虐を見ればなれるのであろうか。

体はいたって普通であった。先ほどの指を除けば普通であった。だが、これまた奇妙なところが怖いことになっていた。

また子宮だけが切り取られていた。

それも、ちゃんと血止めもしてある。あの事件の茜の死体も子宮だけが綺麗に切り取られていた。何故、子宮だけをとっていくのであろう。

未だ謎のままである。だが、わかったことは一つだけ。自殺ではなく他殺であること。

しかし、犯人がサッパリだ。これの行為は女でも男でもできてしまうこと。何が目的であったのだろうか…暁は綾音の死体を撫でた。


「もう…死んだモノはイラナイな。」


そういうと暁は綾音の死体の股のところに自分の手をもっていき近くにあったドライヤーと櫛が一緒になった道具を持った。

それを股と尻に当て、一気に胸辺りまで押した。まるでビニール袋を破くかのようにビリッという音が響き腹の底まで聞こえるように臓物が破裂する音が大音量で聞こえた。

そして胸のとこまていったその櫛を引き抜いた。ドロリとした液体を纏ったそこ櫛は粘着のある物体まで糸をはっていた。

暁はその櫛を傍らに置き、続いて裸の綾音の胸を両手で掴み爪を立て、左右十本の指の爪が入りきったらそれを手前にゆっくりと引いた。

ブチブチッと肉が剥がれる音がし、ドロドロと肋骨あたりから血が大量にでてきた。

最後の糸みたいな胸の肉が取れた。暁はその胸の肉を口に含んだ。そして、肉を頬張ったまま―――――ニッコリと笑った。



もう綾音の原型はそこにはなかった。




ただの肉片が暁の体を染めていく。人間の肉。世間では酸味があると聞くが、それもどうだろうか。暁はその綾音の味を確かめるように飲み込んだ。

グルリ。暁の胃まで届いた音。少し焦げた頭。髪がチリチリと燃えていた。頭の皮膚がふやけた紙のようで、ひぱったら破けそうなほどに。

暁は綾音の胸の肉を半分ほど食べつくすと、その頭を右手で鷲掴みにし、上に持ち上げた。

グリャと異様な音がした。それと同時に綾音の脳みそが丸見えだ。

しかし、それは美しくない状態。管が全てふやけており、暁が爪を立てるだけでビチと割れる。

そこからでてくる液を指につけ、指を舐め尽した。唾液とその液が混ざりながら少し指から垂れた。

赤い…いや黒いといったほうがよい表現だ。妙に粘着性のあるその液は、味のしないモノだった。

綾音の目も鼻も、耳も歯も口もなにもかも。全て黒く消されていた。絵の具でベタ塗りをしたように…

茜…綾音。それはなんの虚言なんだろう?

偽りの茜。それはなんのデタラメなんだろう?

空の箱にはどんな仕掛けがあるのだろう。それはきっと。

茜という存在だけがしっていることだろう。その箱の中身。そして、見える確実の色も。

 

 

 

 

恐ろしい色と悲しい色。それを混ぜれば絶望の色。

涙を流せば青で。怒って殴れば赤で。

人を殺せば黒で。死んだ人は白で。

男が求めたのは背徳の黒。女が求めたのは絶頂の黄。

もう二人が一つになることは永遠にないだろう。

偽りになった女は人知れず朽ち果てた。地はそれを求めた。

嘘となった女は残酷な代償として偽りの死を頂いた。

あの女は“嘘の女”本物になりきれなかったモノ。

だから使い捨ての代用品として扱われないのだ。ただのモノとして。

本物は愛染で、嘘は藍染。価値が違う人間として死んでいくのであった。

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