第二章:断罪の虚言
時は必然として残酷な歌を歌う。悲しい曲調の歌を。
素敵な踊りや素敵な拍手。全てが上手くいくように、時は流れを止めずに走り続けた。
崩れ落ちる理想。また再編される幻想。もう…限りない世界が事を揺るがした。
時が人間に何かを教えるように、眩しい光を放った。その光に直射的に当たっているような男と女がそこにいた。
暁と綾音であった。昨日の一件から想定しない程に仲良くなっている。想定とは綾音のことであろうか。
暁は綾音が彼女とわかっているからそんな風には思っていないだろう。しかし、偶然として二人の考えは一緒であった。
時間は経つのが早い。そう思った時刻である。手と手を繋ぐ二人は笑顔のまま歩き続ける。
願望が叶ったこと。人が戻ったこと。何故この願いが通じたのか。それは時だけが知る事実。
「あの…あれ乗りません?」
「ん?あれ?」
ふと見上げればそこには空中を廻る無数の箱。勿論、暁は、
「あぁ。いいぜ。乗ろう」
「わぁい。やった!」
廻る廻る箱の蓋が開いた。周りはベタベタとくっつく男と女達。むしろここではベタベタとしていないと駄目なような雰囲気を出している。
ずらりと並ぶ列は異常なほどに人間が居る。その中にこの二人がいた。スムーズに列から箱へと行く。そして、暁と綾音の番がやっときた。
片足をのせ一気に両足を中に入れた。暁は綾音の手をとり中に引き入れた。
地から空中にいったような感覚をもって乗り、そして扉が閉められ密室となりついに動き出した。
「「・・・・・・」」
双方、黙りこみ静寂が密室の箱に静寂が流れる。夕方の太陽、紅い色をした光が廻る箱を照らす。前後とも男と女がいる全ての箱。
だんだんと頂上に上るころには二人の甘い接吻が始まった。それを間近でみる二人。
綾音は開いた口が閉まらない、それを見る暁は少し微笑み綾音の隣に座った。
「…な。俺らも…その…しないか?」
「は、はいぃぃぃぃぃ!?」
あと3個箱が行けばこの二人の箱が頂上になるところで。夕日のせいだろうか、綾音の顔が真っ赤になっている。いや…夕日以上に赤くなっていた。
そしてあと2個。徐々に迫る暁。カチコチになった綾音はただ動かず戸惑いながらも目を閉じた。
あと1個。暁の手が綾音の肩を掴みゆっくり…ゆっくりと手前に引いた。そしてやっと頂上。
夕日に染まるこの観覧車。頂上に辿り着けばそこは二人の世界。
長い、長いこの時間と。風のように去っていく短い時間。
重なる鼓動と、重なる。これを永遠と感じ。これを運命と感じる。
儚き偶然と想像を信じた女。運命の現実と幻想を信じた男。
二つの想いは夕日と重なる場所で二人の想いを重ねた。
果てしないこの時間の中で。きっと二人で―――――
もう夜だ。暗くなった路地には、人の声しか聞こえない不気味な世界。街灯もないこの場所でたった一人、暁だけが静かに歩いていった。
綾音を送り一人、たった一人で路地にでて家路を急ぐ。真夜中、といっても過言ではない。
そもそも綾音と店を出たのがかなり遅かったのだ。愛する二人。その行為にはかなりの時間が必要とする。
そのため、綾音との美しく輝くあの時間を思い出すように、ゆっくりと家路に向かって帰る。微笑しながら歩く姿は、はたから見たらただの変人。
その変人に一本の電話が鳴った。
『あ。亜希奈?ボクだよ。さつきなんだけどさ』
「さつき?あぁ…なんだよ?こんな時間に。」
さつき。どうやら暁の女友人らしい。暁は電話をとると足を止めた。
『あのさ。アンタさ。最近、彼女が出来たっていってたよね?』
「あぁ。茜だよ。前とは変わってないぜ?」
茜。暁の彼女である。葉月 茜。綾音という茜と付き合ってから幾分、茜という名前を忘れていた。そして、話は続く。
「で、何だよ?」
さつきは申し訳なさそうに答えた。
『茜ね…死んでるんだよ…?あの事件で…ね。』
「は?何いってんのお前?」
『だから!茜はもうこの世には居ないんだっていってるのよ!!』
「だからっていうのは俺のいう台詞だ。茜はこうして俺と付き合ってる。」
『はぁぁ…アンタ茜のこと覚えてるでしょ?今の…えっと綾音さんだっけ?あの子は茜じゃない。よく見てみなさいよ。ボクの目が正しければ…茜の目は左目だけが黒い目で、左は白のはず…ボクたちからみると右が黒、左が白だね。』
「で…それが何か関係が?」
『…綾音って子。目が逆じゃない?』
「…は?」
『もう一回いうけど…茜は死んだ。いい?』
さつきは大きく息を吸い込んで言った。
『――――あの子は偽りの茜なのよ――――』
暁は持った携帯をゆっくりと閉じた。『ちょ…もしもし!?』とさつきが叫んでいたが、それに気付かすに携帯をたたんだ。暁はじっと自分の足を見た。だってそこは、
――――紅い血が染み込んだ場所なんだから――――
暁は気付いたかもしれなかった。綾音が本物の茜ではないかと。空を見上げたら無数の星…という夢想幻ではない黒い空。
死体の彼女を想えば想うほど、自虐的な感情を持つ。ひっそりとしたこの夜に、一人の涙が零れた。
裂いたり、抉ったり、切り取ったり、捥る取ったりして。
だけど、それでも愛おしい貴方。憎いほどかわいい貴方。
星屑な貴方を私は受取った。だけど。
所詮はただの星屑。砕けた屑はくだらないモノにしかならない。
屑はバラバラに砕け。瓜二つのものまでが生まれてしまう。
貴方は一人だけ。だからもう一つはイラナイモノ。だからイラナイ。
乾いた音は寂しく虚空に消えていく。虚しく死んでいく星屑がある。
断罪の虚言。それは刈り取られる覚醒の過ち。裏切られる凶器。
狙うは罪ある心臓の音。嗚呼、待ってくれ。
嗚呼、首を持っていかないでくれ。それが私の性器となってもらいたい。
例え偽りだとしても私は感じていたい。背徳の季節。残酷なる音。
乾いた音だけが空を掠める。信じた声が地獄を舐め回した。
“アノ子ナンテ死ンジャエバイイノダカラ”
軽くなにかの音がしテンポよく懺悔の歌までも流れてきた。
“アノ子ナンテ死ンジャエバイイノダカラ”