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第一章:死罪の代償

私は人を殺しました。とても愛しい人を―――――――

何もないこの部屋には、一本の縄。そして腐ったナニカ。

ひび割れたあの注射器にはあるモノの液体。

貴方を見て、私はそっと微笑む。

好きなんだからしたい。それでも偽りの飾りなんだと。憎いほど愛おしい。たったそれだけなの嘘に、貴方は拒絶をしました。

貴方と一緒にいたくて。貴方と一つになりたくて。

貴方と堕ちたくて。貴方と共に吊りたくて。

だから私は、赤き血液を貴方と思い私の体内に入れこみました。それだけで感じでしまう。

私の内が貴方で染められました。

これで私は貴方と一緒に日々を暮らせると思いました。




私は人を殺しました。とても愛しい人を―――――――





       

この罪なき者は何故死んでしまったのだろう。顔が見えないほどの逆光を浴びる男が一人そこに佇んでいた。

遅すぎる朝に、ポツンと道路の真ん中で立っていた。

車と車。黒や白などの色の車が五〜六台はあった。その間に立つのはその男。

ゆっくりと風が頬を撫で、無駄に葉の擦れる音まで聞こえた。そして、太陽の光と赤のランプの光。

男の目には赤い景色しか見えないだろう。男の視線の先には更に赤い人形がゴロリと。死んだ人間のようにリアルでその漂う匂いもリアル。そう。男は考えていた。

赤と赤。真紅程ではなく、黒色といえば適当な色合い。混ざれば混ざるほど、その色は確実に黒と化してる。

そして、鼻がもげるほどの異臭。誰もが鼻を押さえる程に臭かった。その中に男は平然な顔をしていた。

いや、平然というより気を失ってるように見える。虚ろなる目でその横たわる人形、と思うだけの死体を眺めていた。


「…死んでしまったのか?」


ポツリといった言葉は男だけにしかわからなかった。周りの人は男に気付かず、無駄な捜査を続けている。

知るはずのない事ばかり。横たわる死体はきわどく砕けていた。

うつ伏せになっていた死体を仰向けに無理矢理起こしてみる。口は大きく開け、笑ってるような口の形であった。歯の間からは黒い液が歯を汚し、顎まで黒く汚れていた。首から胸にかけて赤い線が落書きのように引かれており、米粒ほどの大きさの丸い何かが大量に張り巡らせてあった。ブツブツと敷かれる口が気持ち悪い。また、臓物…いや厳密に言えば腸の辺りの処が綺麗に抉られていた。

血も出ることなくその部分のみ抉りとられていた。内臓・胃・小腸など、贓物は全て残っている。

だがある部分だけはそっくりそのまま採られていた。あとは何も変わってはいなかった。

死因は血液が足りなく、また何かの物資、または何かの液体を注入したと思われる。

そんなこと、知る事もないこの男。まだ昼時の時間。苦し紛れの逃げ道を探す。

“誰がアイツを殺した?”

そんな言葉しか頭には映らない。しかし、それも必然と悲しみの水で消えてしまう。

悔しくて憎くて、でもそれ以上に悲しみの感情のほうが沸き立っていた。





久遠の先にはなにがあるのだろうか。果たしてそれは男の知る世界であったのだろうか。

始まりは必然として。偽りは嘘となり。嘘は偽りに。 

男の始まりは幻想から始まる。それが具現することなく果てるであろう。

偽りと嘘の世界がそこにあれば、偽りの嘘という言葉がわかるだろう。

何故、アイツが死んだのか…それは誰も知らない虚言の想像であったのだろう。







―――――――『性別は女性。死因は未だ不明。ただ子宮だけが盗難された模様』








要するに夏の前の梅雨の時期だ。暑くもなく、寒くもない。半端な気温と時間であった。

横たわる公園の白いベンチで一人、男が腰をおとしていた。時間も夕暮れなる時間。

木の影で黒く染められた男の顔は、呆れたといったほうが適切なぐらいに顔が死んでいた。

そもそも暗くてよく見えないがその場の雰囲気でわかるほどに死んでいた。理由として、あの事件のことだろう。

あの後、事情聴取されて死体を運んだ。ただその光景をぼーっとみているしかできなかった男。嗚呼…それが自分の彼女だったからのだろうか。

 美しい程に光る銀の髪と、いつもつけてる花のピン。愛しい程に愛らしい笑顔。その色も声も顔もなにもかもみえなくなってしまったのだ。

悔しい…いやそれよりも男は、憎悪という殺した者への憎しみが多いのである。

男はその彼女の死体を見て何を抱いたのであろうか。

悲しみ…憎しみ…二つの感情がこうして巡り、果てしなく遠くにその答えがみつかるのであろう。そう、それは一つの決意ともいえようか。


「アイツはもう…やっぱり帰ってこないのか…」


男がボソボソと自分だけに聞こえるほどの声で喋った。暗い影の下で時間を忘れた人形のように、ひっそりとしていた。

もうじき、闇が今日という日を染めにくる。飲み込まれる太陽は未だにその光を出し続けている。

そのまま何もせずに時間だけが過ぎていく。

男の名前は「亜希奈 暁」(あきな さとる)。

さっきまでは幸せだった人間である。それがコップを逆さまにし、水を全て出したように何もかもが消えたような顔をしてる。

もう、公園の電灯が輝きだしたことも知らずに。

通り過ぎるのは、イチャつく二人と走り去っていく者。いたって普通の光景であった。

だがしかし、一点においてその光景とは何かが違うものがあった。

――――見覚えのある髪、見覚えのあるピン、見覚えのある顔。それは何かの幻想か?

いや、暁の幻想が具現したのかもしれない。そんな非科学的なこうがありうるのであろうか。

それよりも前の人間をみることに集中したいのである。暁は目の前の“見覚えのある人”をずっと見ていた。

その“見覚えのある人”も暁をずっと見ていた。二人の距離はおよそ10m弱。ゆっくりと時間は過ぎていき、吹き抜ける風は急ぎ足で過ぎ去っていった。


「あ、あの…!」


 “見覚えのある人”はどうやら女らしい。―――――本当に彼女にソックリだった。


「…何?」

「さ、先ほどから貴方を…その見ていました…」

「…は?」


いきなりストーカー行為を実行していたということを言われた暁。というより、あの事故からずっと見ていた、ということであろうか。

ジリジリと迫ってくる女。それい逃げず…いやその行為に気付いていない暁。次第に顔が赤く染まっていく女。


「あ。、あの!」

「だから…なんだよ?」


少し強めに言ってみた。暁は咄嗟に立ち上がりその“見覚えのある人”すなわち、“見覚えのある女”を見下す形で下を向いた。


「わ、私とつ、つつつ、付き合ってください!」

「…なにいってんのお前?」


ズイッと出された右手と左手。顔を真っ赤にするほどに緊張しているのか、下みて俯いたままで暁に向けて両手を出している。

呆れた顔をしていたが、それは次第に異変がみられた。その顔も、その声も、その髪も何もかも。全て“アイツ”と一緒であった。

暁が一番愛する人である。

『さては俺を騙すつもりなんだな』と勝手に推測している。

そもそも、暁は“アイツ”が死んだとは微塵もわかっていない。むしろどっかで生きていると考えいるのであろう。

暁は『きっとそうだ。俺を騙すんだな。そう俺を甘くみるなよ』と考えた。


「いいよ。付き合おうぜ。」

「本当…本当なんですか!?」

「あぁ。本気と書いてマジだぜ?」


暁はニッコリとしていった。どうせこれはアイツの芝居なんだと思いながら。


「あ、ありがとうございます!」


女は泣きそうであったあの顔から一変して、今は満面の笑みであった。限りなく近く傍にいればいい女。

暁は何を思ってその決心をしたのだろうか。その理由として、彼女の“お芝居”だと思っているのだろう。それに乗ってやろう、ビックリさせてやろう、と思っているのだろう。


「…名前。聞かなくてもわかるがな…。」

「名前ですか?」


暁の声は名前だけ聞いてたようだ。暁の前に佇む女は口をあけた。


「私は『綾音』(あやね)っていいます。よろしくです!」


綾音。暁はふと戸惑った。しかし、それに気付かずに一度だけ頷いた。綾音は先ほどの緊張した顔と声から満面の笑みに変わり、さらにずっと笑顔のままで喋っていた。

笑顔が可愛く、その大きな瞳が愛しい。短い髪で大きな瞳、でもどこか抜けている顔。

それは、暁にとってもっとも愛おしい者とまったくもってソックリである。


そう…ソックリである。しかし、今の段階では本物かただの似ている人か。

ハッキリしないことである。真実か…嘘か…暁には何がわかるのであろうか。









時計の針は廻る廻る。果てしなく無駄に廻る。

真紅の花びらが見えた体。美しすぎたその体。

彼の夢には何が映るのであろうか。愛しい彼女?麗しい女?

愛欲の炎が夢の彼女に纏う。彼女は死んだ代償とし残酷な裁きを貰う。

嗚呼…彼には見えていないのであろう。気付けば傍らに咲くその愛した首。

死罪の代償はあまりにも重く狂わしい。彼女も彼もそれぞれの罪を持つ。

嗚呼…二人は気付いていないだろう。幻想で標されたその死体。

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