7 話
この作品には〔残酷描写〕〔15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現〕が含まれています。
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執筆日程や近況は活動報告にあります。
意識の奥底に居る俺は、よく知っている波動や波長が、すぐ傍にあるのを感じていた。
こいつ等は優しく、強い。
こいつ等が傍に居るんなら、俺は安心して眠っていられる。
ああ、そうだ。
身体の方はどうなったんだろう?
少しだけ意識を外に向け、肉体が保持されている事に安堵し、解毒がまだ終わってない事に落胆した。
痛いのも苦しいのもキライだ。
もう暫く、意識を閉ざそう……そう思った時。
俺の魂を、意識を揺さぶる声が、意識の奥まで届く。
「お父さまーッ! どこぉーーーーーー!?」
「父上! どちらにおいでですっ!?」
……何事ですか……って。
ああああああああ!
突然意識かっとんだから、あの子らに誰にも伝言頼んでねぇ!
マズイわー……俺の、あれほどの出血にあの子らが気がつかない筈ないってのに!
「お父さまぁあああ!!」
「お応え下さい! 父上!」
どこだよここ。町とかだったら大騒ぎになるって。
とにかく、あの子らを安心させて帰さないとっ……
俺は意識を浮上させてゆく。
無茶キツイ!
でも!
身体重いけどっ、起き上がらないと……
ゴトッ!
痛ったー……(涙目)
うう……寝台だったのかよ……
あああ解毒完了まだかよ、ホントに息苦しいわ……
< 主、大丈夫か? >
< あまり無茶をするでない >
傍に居る精霊長たちの声が心話として脳裏に届く。
目蓋を開けるが、その姿がうっすらとしか見えない。身体も重い。
なに? ブラックアウトとか……そんなに出血多かったの?
< 今動くは危険すぎる……我らに許可を >
< 顕現の許可を >
何か周囲に人間が沢山居る気配するけど……仕方ないね。
「…………許、す…………顕、現」
口も舌も上手く動かせなかったが、何とか形式上の言葉が呟けた。
人間が居る時は口頭でないと顕現できないっていう決まり、変えようかな……
< も、あとは古代語でいくよ……ツライ >
< 了承した >
顕現したであろう精霊長たちに心話で伝える。
短い音に言葉を詰めてある古代語は、心話よりも負担が少ない。
ゆっくりと、吐く息に古代語を乗せた。
「あの子らは、外……?」
「うむ」
「……火……窓があったら、そこへ」
力強く支えられ半ば浮いた状態で、窓まで連れて行ってもらう。
殆ど見えないが、あの子らの気配がする方向を向く。
「声を、あの子らに繋いで……」
「うむ」
「白龍……黒龍…… 俺は、無事だから。こんな所で泣かないで、家に、帰りなさい ……」
「お父さまいたー! うわーん! よかったー!」
「父上御無事で! 凄い出血の御様子でしたが、大丈夫なのですか!?」
シロとクロが盛大に声を上げる。
声が繋がったことで、俺の居場所がはっきりとわかったんだろう。
「うん。無事だけど、まだ当分、動けそうにない」
「わたし、運ぶー!」
「……ヤメテ、今それされたら、ホントに死ぬ」
シロの飛び方は速くて豪快の一言に尽きる。
一度乗ったけど、殆ど絶叫マシーンと変わんない。
「では、わたくしが」
クロの飛び方も速いが、こっちは割と安定した飛び方ができる。
ま、シロに比べればマシって思うけど。
「それも却下。ここ、人間が沢山居るよね? 物を壊したりしないで、人も怪我させないでそういう事出来ないでしょうが……シロもクロもまだ、そこまで器用じゃない」
「あうう」
「ですが……」
駄目なものは駄目なの。
ため息が出るよ、もう……
「それに。……俺、留守番してなさい、って言ったよね?」
「あー……」
「う……」
「心配してくれたのは嬉しいけど、約束はきちんと守って。そうでないと一緒に暮らせなくなるよ?」
俺が光の森で暮らしている理由のひとつがこの双子の神龍、シロとクロ。
俺は、縁あってこの子らの実の親から頼まれて、現在この子らの養い親をしている。
養う約束は、この子らがオトナになるまでなんで、あと数年は必要。
養い親となった時、シロとクロは人間で言う三歳くらいだったけど。
その時に[俺を親と思うなら、きちんと俺の言う事をきくように]って事を約束させた。
互いを信じてないと、約束って出来ないからね。
「それはいやぁ……ごめんなさぁい」
「申し訳、ありません」
シロとクロ双方からの謝罪に安堵する。
反省も大事。
うんうん。この子らの心も、ちゃんと育ってるね。
「そう……わかったなら家に戻って。後で、必ず連絡するから」
「うん」
「はい」
「道草しちゃだめだよ?」
「「はーい」」
いいお返事だ、うん。
シロとクロの羽ばたきの音が次第に遠ざかる。
もう、いい、かな……?
限界。
立つのもキツイ。
「主!」
足の力が抜けた俺を火が咄嗟に支えてくれたのは嬉しいんだけど。
男の俺が女性に姫抱っこで運ばれるのって、どうよ?
再び寝台に横にされた俺は苦情の嵐を受けた。
「大丈夫ですか!?」
「大事ないか、主さま」
「無茶はお止め下さい」
うん。ごめん。
息するのも苦しい……無茶なの判ってるけど、伝えとかないと……
こいつ等も、大概無茶するから……
「火、土、悪いけど、家に戻って、あの子らに付いていてやって?……放っとくと、また何しでかすかわかんないから……水、風は、このまま俺の傍に。人間語で、他の人間との対話も許可。……でも人間に、ヘンな事、吹き込んだりとか……高圧的に、命じちゃ、ダメ、だからね…………ゴメ……も、ムリ、ねる、あと、た、む」
言うだけ言って意識を手放した。
意識が表層へとのぼる。
まだ脳裏がぼんやりとした状態で目を開けた。
うん。今度は周りがはっきりと見える。
さっき見えにくかったのは熱があったからかな? なんか暑かったし。
今は逆に、ちょっと寒い。
傷の治癒も解毒も終わってる筈なのに、怠さが取れてない。
息苦しいし、身体が凄く重い。
俺は左側に見えた水色の後ろ髪に声をかける。
「スイ……」
思った以上に声が掠れる。
スイは小さい声にもかかわらず振り向いてくれた。
「あるじ様! 意識が戻られましたか!」
「ん……ちょ、と声、掠れ、けど」
「すぐに癒しますわ」
スイの手が喉から胸に軽く流される。
間もなく喉の通りが良くなった。
「楽に、なった。ありがと……でも、息、苦しさ、取れて、ない」
肺がきちんと機能してないのか、上手く呼吸できない。
スイは申し訳なさそうな顔で言う。
「それに関しては、少し時間が必要となります。血が、流れ過ぎましたの。血量が元に戻るまでは小さな治癒術しか仕えません」
血の流れは生命の流れ。
カミサマならともかく、人間や精霊は無から有は創り出せない。
病にせよ怪我にせよ治癒を促進させるには、まず栄養が必要。
栄養のカタマリである血液そのものが足らなければ、まともな治癒術は使えない。
かといってこの世界のこの時代には、まだ輸血術とかないしね。
治癒術だけで言うなら、水の精霊は自然から力を抜き出し、それを対価として術を行使する事が出来る。
けれども俺の今の状態みたいに弱り過ぎている場合は、その術では強すぎて肉体という器そのものがもたない。
さっきの喉の調子を癒してもらった力にしても、恐らく本来の術に使う力の千分の一にも満たないんじゃなかろうか。
物凄く微調整が要るって、以前聞いたし。
そういや俺の血、どのくらい減ったんだろ?
「……どんだけ、流、れたの?」
「全血量の一割半ほど。その上で傷の賦活と解毒の術式を展開させましたでしょう? それに使用された血量を含めると、致死量寸前でしたのよ?」
「……ぎり、ぎり?」
「はい。そして、今回はおまけがあります」
「な、に?」
「毒は解毒されましたけど、その毒素の影響で心筋は半減のまま。あと血が足らない分、他の筋肉組織が術式で蘇生細胞等に転換された結果、あちこち減ってます」
にっこりとスイが微笑む。……コワイ。
「栄養をしっかり摂って体力を戻されるまで、あるじ様に魔方陣の使用制限が掛けられました」
「どの、程度?」
「MAX一歩手前位ですかしら? 詳しくは風の方にお聞きになって」
「…………フウは?」
「ここにおります」
名を呼んだ瞬間、薄緑の髪の持ち主が右手側に現出した。
「御目覚め、随喜にございます、主様」
にこやかな笑みに見えるけど、目が怖い、目が!
「笑顔、怖いよ、フウ」
「主様が無茶ばかりなさるからです。あの時も、御呼び下されば」
「あの、時、は……呼べ、なかったん、だって」
あれだけ人間の居る前で、しかも無詠唱で精霊長とか呼べるかっての。
下手すりゃこいつ等押しのけて精霊王自ら出てきそうだし。
呼んだら呼んだで、あとで絶対に困ったことになる。
樹海に無詠唱で精霊長とか精霊王を呼べる人間が居る、なんて変な噂が起こらない様にとか。
俺を傷つけたから、とかいう理由でその場に居た人間全部殺しちゃいそうなんだもん。
そっちの方がよっぽど無茶だと思う。
んな事になったら、樹海で生活する事が困難になるの判り切ってる。
かといって、シロとクロを養ってる最中だから、まだ今は聖魔の寝床から出ていけない。
そうなると後はもう[光の森]に何年もカンヅメになるしかない。
ようやく薬師としての仕事が順調に進んでるのに、身動き取れなくなるのは困る。
そんな事をつらつら思っていたら、フウの目のきつさが緩んだ。
「精霊王様は勿論の事。御上さま、かなり御心配なされてましたよ? 御上さまよりの御伝言です。『暫く大人しくしてなさい』との事です」
「……これじゃ、何も、出来ない、って」
実際、物凄く身体が重い。
血量と、目減りした筋肉組織が元通りになるまでは、どうしようもないだろう。
「現在、主様の使用される術の殆どに御上さまから制限がかけられています。主様が術を使おうとしても魔方陣すら出せない様にされていますので、何か必要な時はわたし共をお使いください」
「わかった。……あの子ら、無事に、帰った? 元気、してる?」
「ええ。お元気ですが、御子様方もかなり心配してました。火と土も同様です」
「フィーと、ツッチー……かなり、面倒、かける。後で、伝書、頼む」
と……大事な事を聞くのを忘れていた。
「で、俺が、森で、意識、なくして、何、日?」
「おおよそ三日程ですか」
三日かー……それだけ寝てるのに疲労感、半端なくあるねぇ……
空腹感が中途半端にあるけど、まだ何か口に入れたいって思えない。
あー……内臓も筋肉繊維かー……弱ってるのねー……
そっか……
フツーならすぐに心話に切り替えようとするのに、俺が声出すの、止めないの……
肺活の様子見ながら、なんだ。
気配り嬉しいけど……も、ちょっと頑張る……
「じゃ、その、間の、栄養、排泄、は?」
「わたくしが行っていますわ。栄養は直接糖質で、排泄は事後浄化で」
成程、だから妙な空腹感になってるのか。
オムツですらないってのは、絶対安静扱いって事だろうし……
手間かけて悪いね。
「そう、ありがと。でもさ、何で、ちょっと前、見た、部屋と、今、違うの? 着てる、服も、俺のと、違うし」
あの子らを家へと帰すために起きた、あの時にうっすらと見えた部屋の様相と、この部屋の様相とは明らかに違う。
何より広い。あと、家具とか、かなり豪華だ。
思い当たる節にどんよりしながら一応、訊いてみる。
「それに関しては、そろそろ当事者が来ると思います」
フウがそう言うって事は、もうここに誰かが来る気配を感じてるって事。
じゃあ、こっちも内緒話が要るね。
俺は知ってても、他の人間には知られちゃいけない事が色々あるから。
「……心話、の、許可、は?」
「わたし共からの力の供給であれば使えます」
「判った……フウ、スイ……繋げ、といて」
「「はい」」
部屋の扉がノックされる音が聞こえた。
「精霊長どの、入室して宜しいですかな?」
扉の外からの声にフウがこっちを見る。
了承の意を込めて、俺は軽く首肯した。
「どうぞ」
フウの言葉に扉が開かれ、数人が室内へと入ってきた気配がする。
扉は足元の方向にあるらしいし、俺は寝た状態のままなので正確に何人なのかは判らない。
寝台に近づいて来て、ようやくはっきりとその様相が判った。
女性が一人、あとの四人は男性のようだ。
略式みたいだけど、全員がきちんとした礼装を着けている。
自然に眉がしかめられた。
これ、応対するのかぁ……面倒な事にならなきゃいいけど。
顔だけ動かし、寝台から二メートル位離れて立つ人達を見る。
前列に壮年と青年、後列に残りの三人。
前列の一人には見覚えがある。あの時助けた青年だ。
壮年の方が口を開く。
「風の精霊長殿、こちらの御方と会話をしても宜しいか」
フウが俺を見たので首肯した。
「良いでしょう」
壮年が俺を見つめ、言う。
「意識が戻られたと聞き、安堵し申した。お加減は如何ですかな?」
さて、まずは普通に……
「申し、訳、ないの、ですが……起きた、ばかりで、現状が、把握、できて、いません…………まず、お聞き、したい……ここは、何処で、貴方、方は……どなた、ですか?」
「……ここはエルレ大陸が東、ラクス王国の王都ソルデイン。その王城内の離宮になり申す」
王都か。森から随分遠いな……
しかもここ城の離宮なのかよ、御貴族様じゃなかったってか。
「余はこのラクス王国の国王アイン・シルヴィアート・ガイ・ラクスと申す。隣にいるのは皇太子のエルケ・フィリリァド・セル・ラクス。……後ろに控えるは我が城の神官長と巫女長と御殿医長である」
皇太子以下が軽く会釈してくる。
さて、困った。どう応じよう?
気になるのは何で国王が王冠被ってないのか、って事。
普通職務中は頭にあるものでしょ? あれ。
フウ、何かしたのかな?
< フウ。国王が王冠付けてないのって、何でだと思う? >
< 恐らく、主様に対する誠意ではないかと。先程までは付けてましたから >
< ……そう >
先程まで、って。
もしかして、さっき俺の呼びかけに転移してくる前、フウは国王の近くに居たって事かよ。
うーん。何の話してたか気になるなー……
< 彼らに何を求めたの? >
< 主様をどう扱うのかと問いはしましたが、こちらからは殆ど何も求めておりません。現在の主様の状態は皇太子の恩人だという事で国賓扱いとなっています >
< 相手からの申し出かぁ……でも、国賓て。……もしかして、彼等、俺の御印を見てる? >
< はい。精霊王様の黒光を確認されているかと。あと、神龍を含めて古代語での会話も見られています。まぁ、言葉までは聞き取れていないでしょうが >
そういう事。
なら、違う方向からいかないとマズイね。
暫く世話になってもいいけど、俺の力とか利用とかされるの嫌だし。
まともな対応が出来ない相手だったら、すぐにこの場から去らないと。
「スイ、起こ、して」
うまく身体に力が入らないので、スイに上半身を起こしてもらい、寝台に両手をついた形で俺は国王たちにゆっくりと頭を下げた。
自分の行った行動に、息をのむ様な感情が伝わってくる。
「まだ、身体が、よく、動かなぃ、故……跪座も、できま、せぬが……知らずとは、いえ、皇太子、殿下、へ、相対し……無礼な、言動を、致しました、事……重ねて、謝罪、申し、上げ、ます」
さすがに一気に言うと息、苦しいな。
「これ、以上、御迷惑を、かけぬ、様……すぐに、御前から、退去、致します、心づもりに、ござぃ、ますれば……失礼を、お目こぼし……下さぃ、ます、様……」
きっつー……息が上がってきた……
息継ぎすら上手く出来ない……
「どうか、頭を上げてくだされ」
国王がそう言い、俺の目の前に来る。
言葉を止め、呼吸に専念していた俺はその気配に少し顔を上げる。
視線が合った国王は心配そうに言う。
「さ、まずは背を楽な位置に」
何とか予定通りの流れになってきた。
スイの説明も聞いたし、死にかけてた自覚もある。
現在も息するだけでキツイ。
見ればわかる程弱っている状態の人間が一方的に喋っている。
それを止めないで最後まで聞いているような人間が、まともな思考をしているとは思えない。
会話を途中で止めないような人間だったら、フウに頼んで無理やりにでも光の森に転移してもらうつもりだった。
< スイ、背もたれ頂戴 >
このまま横になったら寝てしまいそうだ。
スイの用意した背もたれに重い身体を預け、呼吸を落ち着けてゆく。
国王はまだ、すぐ近くに立っていた。
「まずは、我が息子の生命を救ってくれた事を感謝する」
国王は俺に頭を下げ礼を成す。
御印の所為で俺を高く買ってるのかな?
フツー国王はパンピーに頭下げないって。
言葉づかいが少しぞんざいになってるのは思惑通りで嬉しいけどさ。
でも、もしこれが一人の人としての言葉なのだとしたら。
ラクス王国の国王はいい政治をしてると聞いていた事と合わせると、この国王は本当に傑物なのかもね。
国王は続けて言う。
「皇太子だと知らぬが上の言動に無礼も何もない。却って見知らぬ他人であるのに、その上で救いの手を差し伸べてくれた事そのものを有り難く思う」
「……寝覚めが、悪いと……そう、思った、だけ、です」
これは本当に、俺の本心。
「理由が何であれ、皇太子の恩人には違いない。こちらの方こそ申し訳ないのだ。皇太子と間違われて生命にかかわるような大怪我をさせてしまったのだからな」
「間違われ……ああ……マント、か……それで……」
でも、後ろから襲われたから、誰にやられたか知らないんだよね。
その人、どうなったんだろう?
今度聞いてみないとな。
「恩ある方を、まだ怪我の回復もしていない状態で放逐するなど、それこそ人道にもとる。ましてやその方が精霊王様の御印を戴く方ともなれば、国賓として迎え入れるは喜びでしかない。侘びも礼も、満足にしてはおらぬ。せめて、身体が回復されるまで、どうか国賓としてのもてなしを受けては貰えないだろうか?」
身体が回復するまでのもてなし、ときたか。
悪くない申し出だけど、あと少しだけ。
「礼儀、とか……言われ、ても……判り、ませんよ?」
使えない事はないけど、いちいち敬語使うのめんどくさいし。
言葉使いひとつで目くじら立てるような場所じゃ心も身体も休まらない。
「対等対話は国賓の権利。言葉も普通で構いませぬぞ」
うん。なら、不敬罪とか言われずに済むね。
じゃあ、最後にひとつ。
「……俺の、御印を、知る、者と……古代語……それらに、関する、情報に……枷、を、付けさせて、貰える、の、なら……滞在、しても、いい」
これが、一番大切な事。
大きな力を目の前にしてしまうと、それを利用してやろうと考える輩は何処にでもいるから。
国王は少し考え、口を開いた。
「枷を付ける事、承知いたした。ルクス王国国王として、四大精霊長の加護者の来訪を心より歓迎する」
うん。俺が言いたかった事をきちんと認識してくれている。
これならきっと、大丈夫だ。
< フウ、枷がけ、事後込みの方で、頼むね……あとの諸々は、人間側の都合も、考慮、相談すること >
< はい。お任せくださいませ>
俺は了承の意思を込めて国王へ微笑んだ。
「俺の、名は、リツキ…………暫く、お世話に、なり、ま……」
駄目だ……息がし難い……
これ以上意識保つのも無理そう……
< 会話、終了……も、喋る、きつ……スイ、胸、痛……苦し……>
< 判りました。どうぞ、そのままお眠り下さいませ >
胸にスイの手が当てられる。
言われた通り目を閉じ、俺は痛苦しさから逃げる様に意識を手放した。
主人公、やっとお目覚め。