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伸びゆく螺旋  作者:
10/13

 10 話

この作品には〔残酷描写〕〔15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現〕が含まれています。

 15歳未満の方はすぐに移動してください。



 執筆日程や近況は活動報告にあります。



 

 

 おはようございます、リツキです。



 昨日の、夕食のスープは美味しかったです。

 流石に王宮の料理人さんたちだね、こちらの希望をきちんと理解してくれてて、薄味だけど出汁の良くきいた汁に、舌でも潰せるほど煮込まれた根野菜が沢山入ってた。

 量は半人前くらい。

 匙でゆっくりとゆっくりと。 

 吐き気もなく完食できました。うまうま。





 そして、今朝も汁物です。

 夕食とはまた違った味付けで、柔らかい豆類が少し入っていた。

 あっさりしてるけど、とろみがあってとても食べやすい。

 

 お昼か夕食には、ちょっとだけパン付けてもらおうかな。

 浸したら食べられるかも。




 薬湯飲んだ後、手や足を少しだけ動かす。

 うん、昨日よりは少しマシに動く。良好良好。



 フウは昨夜、あっちから返信付きで戻ってきていたけど。

 その返信で現在再度伝書鳩中。

 出がけに物凄く心配そうな顔されたけど、大丈夫だって、スイも居るし。

 俺の周り、心配性が多くて困ります。




 


 括約筋……もう少し頑張ってくれよ。

 願い空しく排泄による浄化処理を受けつつ、俺はそんなことを考えてた。

 感覚は大分戻ってきたから、括約筋達さえ耐えてくれれば、きちんと他で排泄できるのに。

 あ、そうだった。それもあったんだよね。場所場所。



「ギルディオ」



 俺の声に、扉の横で静かに立っていたギルディオがこちらへと来る。

 


「何でしょうか、リツキ様」


「うん、ちょっと散歩したい」


「少しお待ちください。……ナイル殿、宜しいか?」


「先程診た御様子では大丈夫かと。ただし長時間は許可できません」


「了解した。様子を見てこちらの判断で切り上げる。……それで宜しいですか、リツキ様」


「うん」



 クーノが薄くて長いクッションみたいな物を用意し、まずその上に横にされてそのままクッションごとギルディオに抱き上げられる。

 簡易とはいえ防具服や籠手は硬い。

 それらに直接身体が当たる事で、痛みや疲労を軽減させる為だと説明を受けた。



「うわー……こんなだったのかー」



 ギルディオに抱えられ、まず見えたものは寝室全体。

 上半身起こす程度じゃ全部は判らないからね。

 広いわー、さすが賓客用。

 寝室と居室が混在してる造りだからか、ほんとに広く感じる。

 


 寝室を一通り眺め、ベランダを覗き、隣の部屋にお手洗いがある事を確認した。

 浴室はまた別の部屋で、やっぱり少し大きめ。

 反対側の部屋は使用人の待機部屋。

 廊下に出た時、扉の外にも護衛の立哨が居たのには少しびっくりした。

 ご苦労様、って声かけたら固まってた。……なんで?



 応接室も別にあり、食堂も別にあったけど、食事は主人の希望でどの部屋で摂ってもいいんだって。

 使用人の居住区や厨房とかの案内は後日にしてもらう事にした。

 身近な部分から覚えていかないと混乱しそう。



「お加減は、大丈夫ですか?」



 護衛として同行しているレオーノが問いかけてくる。



「うん。大丈夫……あ、外、庭園になってるんだ綺麗ー」



 屋根のある通路の壁の一部が大きな窓としてくりぬかれている。

 庭園を見ていると、木々や花々の間にひょこひょこと可愛い姿が見え隠れしていた。

 相手もこちらに気付いたのか、あ、って表情でこちらへと飛んでくる。



「リツキ様だー」


「リツキサマー」


「こんにちはー」



 周囲が賑やかになる。

 俺は笑みを浮かべて口を開く。



「こんにちは。君たちがこの庭園の護り?」


「そうなのー」


「頑張ってるのー」


「きれいきれい、なってる?」


「うん。とっても綺麗だよ、頑張ってるね」


「ほめられたー」


「うれしー」


「もっとがんばるー」



 きゃらきゃらと俺の周囲を飛び回っているのは木々や花の精霊たちである。

 まだ若いのだろう、喋りがつたなくて可愛い。

  


「リツキ様?」



 怪訝な顔でレオーノが声をかけてくる。

 あはは。

 


「ごめん。精霊たちが挨拶に来てて……」



 苦笑してそう言うと、レオーノは目を丸くしていた。

 そりゃ驚くよね、精霊語で会話してたんだから。

 習っている者ならともかく、普通の人間にはぴるぴる言ってるようにしか聞こえないだろう。


 精霊は人間の言葉は理解できるが、中級精霊辺りにならないと人間の言葉が上手く喋れないので、意思の疎通が難しい。

 さっきは、つい相手に合わせてしまって精霊語になってたので、今度はちゃんと人間の言葉で言う。

 


「はいはい、君たちもお仕事に戻ってね」


「「はーい」」


「はーい……あれ? リツキさまー、あれ、あれ」


「ん?」



 一体の精霊が指さす先はギルディオの頭。

 その方へ視線を向けると、そこにもう一体精霊が居た。

 物凄い剣幕でギルディオの髪を引っ張っている。



 通りすがりの精霊なんかがよくやる悪戯の一つかとも思ったけど、なんか凄く真剣で一生懸命に見えた。

 何より目の前の俺に気付いていないっぽい。

 精霊王の御印を受けているという関係上、彼ら精霊が俺に気付かないというのはまずありえない。



「どうしたの? ギルディオに用事?」



 強く意思を乗せ言うと、その精霊が俺にようやく気付いたのか、近づいてきた。



「りつきさま! りつきさま! たいへんなの!」


「なにが?」


「あのね、あのね! どーんって! いたいの! はじけちゃうの! やなのーーー!」


「ああ……もう。落ち着いて、ここきて、直接伝えて?」



 俺は自分の額を指で示した。

 精霊が近寄って俺の額に自分の額をぴたりと付ける。

 


 感情と一緒に映像が飛び込んできた。

 ……確かに、これはヤバイ。

 精霊が記憶を寄越し終え、俺から離れる。



「大丈夫。心配ないから」



 俺の言葉にほっとした表情をする精霊。

 でも、早くしないと危ない。

 俺はレオーノのマントを掴んだ。



「レオーノ。ギルディオと変わって」


「え?」


「交代して俺を持って。早く」


「は、はい!」



 ギルディオが眉を寄せながらも、俺をレオーノへと抱きかかえさせる。



「スイ!」


「御前に、あるじ様」



 多分、姿を消して付いて来ているだろうスイを呼ぶと、すぐ傍に顕現した。

 


「この子を道案内にして、ギルディオと転移して」


「何事ですか?」


「行けば判る。行って、助けろ」



 スイに命じた直後、ギルディオが叫ぶ。



「ちょ……お待ちください! 何事なのですか? 職務中ですので、私はここを離れるわけには」


「そういう事、言ってる場合じゃないから」


「いえ、ですが!」

 

「俺が命じたとでも何でも、後でなんとでもいえるから」


「駄目です!」



 騎士とか生真面目なの多いってホントなんだね。

 もう無理やりスイに引っ張ってってもらおうとか思ってたら、後方から声が掛けられた。



「何の騒ぎだ?」


「殿下!」



 現れたのは護衛を連れた皇太子だった。

 助かった。



「ああ、丁度良かった。皇太子から命じてあげてくれませんか?」


「何を、ですか?」


「緊急事態なんです。ギルディオに、今すぐ、家に帰れ、と」


「…………許可しよう。ギルディオ・サン・ローエヌ、これより帰宅を命じる」


「な……はい」



 皇太子の命令には流石に逆らえず、あっさり返答が返ってきた。

 俺はスイに言う。



「絶対に、欠けさせないで、スイ」


「お任せくださいませ、あるじ様」



 言葉短く、スイは精霊、ギルディアと共にその場から消え失せた。

 深く息をはく俺に、皇太子から声がかかる。



「少しお疲れの御様子に見えますが、大丈夫ですか?」


「そう、ですね。今日はここまでにしよう」



 レオーノを見上げると頷きが返された。



「寝室へ戻ります」



 













 背もたれを付けた状態の寝台へと移され、身体の力を抜く。

 皇太子は寝台の傍で椅子に座っている。 

 ゆっくりでの移動とはいえ、やっぱり少し疲れた。

 おまけに精霊と直接交信とか、ちょっとまだ早かったかな。少し頭重いや。

 でも、言う事は言っとかないと。



「突然の申し出に、許可を戴き、有り難うございます」



 こくりと皇太子へ頭を下げる。

 ギルディオが何を言おうと転移させるつもりだったけど、本人納得の上での移動が好ましいというのは当然のことだ。

 皇太子は真面目な顔で返してきた。



「緊急事態だというリツキ殿の言葉を受けただけです。何があったのかお話し戴かないと、命を下した私も困る事なのですが」



 凄いな。

 俺を信じてくれてるから、咄嗟であの判断したんだ。

 でも、まずは最初から……かな。

 


「……言葉を交わすのは初めて、ですね。リツキ、と言います」


「エルケ・フィリリァド・セル・ラクスだ」



 皇太子は名を告げ、ゆっくりと頭を下げた。



「まずは、私の命を救ってくれた事に感謝する」


「成り行きだと、お父上にも言いましたが?」


「それでも、だ」



 真剣な表情で俺を見る。



「リツキ殿が居なければ、命を失うか重篤な状態だったかのどちらかだ。救われた命を大切に使う事に躊躇はないが、見も知らぬ相手に対して行われたその行動に敬服申し上げる」


「助けられると、そう思ったからです。善美にとられても、困ります」


「……普通では、滅多に巡り合えぬものだからな」


「王族も色々と、厳しい世界なんですね」



 苦笑しつつ答えると、皇太子の顔にも笑みが浮かんだ。



「厳しい、か。そういう言い方もあるんだな」


「どの業界でもそうでしょう? 王族がそれに漏れ出るとは思いませんから」


「……本当に面白いな、リツキ殿は。……で。先程の騒動はどういうものなのか?」



 元の質問へと戻り、俺はにっこりと笑みを浮かべた。

 ギルディオの方はスイが付いてるから、きっと大丈夫。問題ない。



「後で、ギルディオから報告があると思いますよ」


「?」


「俺の口から伝えるより、当事者の方がいいでしょう?…………朗報なら、尚更、ね」


「……朗報なのか。なら、いい」



 ほっとした顔になる皇太子。

 無理もない。

 緊急事態だと言って、ギルディオに無理矢理命じてもらったのだから。



「皇太子は、どうしてこちらへ?」


「リツキ殿の見舞いに来ただけだ。他意はない」



 ……いや、他意がないって事はあり得ないでしょ? 笑顔だけどさ。

 皇太子も色々苦労してるのかもね。

 ん。じゃ、こっちから話振るか。



「皇太子は、兄弟とか居るの?」


「……ええ。居ります」



 まさか知らないのか? っていう目、しないでー。

 あんまり深く国とか社会とかに係わる気なかったから、ほんとに知らないんだって。



「聖魔の寝床育ちだから、そういうの、よく知らなくてね」



 苦笑する俺に、皇太子は少し笑みを浮かべた。



「現国王陛下である父上と母上。あと姉弟妹(きょうだい)が居ます」


「きょうだいが居るんだ」


「ええ。姉が一人、弟が二人と妹が一人居ます」


「四人も居るの? それは賑やかだね」


「先日から皆、リツキ殿に会わせろと煩いですよ。昨夜も王妃……母上までもがお会いしたいと言われる始末で」



 苦笑する皇太子。

 仲のよさそうな家族関係を感じて、俺もつい笑顔になってしまう。



「家族みんなが元気なのは、いい事だね」


「リツキ殿の御家族はどちらに?」


「……いないよ」



 笑顔のまま、言う。



「俺一人っ子だし、六歳の時、両親とも魔獣に食い殺されちゃったから」


「な…………申し訳ない、悪い事を聞いた」


「いや、いいよ。近いうち誰かが俺の素性を聞きただしに来るだろうって思ってたし」



 皇太子が本当に申し訳なさそうな表情をするので、どうしても苦笑に近い笑みになる。

 

 国賓としてこの場に居るからには、そのうち表へ出ないとならなくなるだろう。

 その時になって、俺の素性を全く知らないという訳にはいかないだろうから。


 だから。

 この地上世界に降りる時、創世神から決められたリツキという人間の過去を語る。

 記憶の中に映像込みで刷り込まれた過去。

 本当にこういう人生が自分にあったんじゃないかと錯覚する程のリアルな記憶。

 それを語った。





 どこで生まれたのか、とか、両親の名前とかは覚えていないし、知らないという事。

 最初の記憶は樹海だったから、多分そこで生まれ育ったんだという事。

 両親も薬師のようだった事。

 六歳の時。修行をしておいでと言われ、両親の知り合いに預けられる予定だった事。

 相手との待ち合わせの場所へと向かっていた時に魔獣に出くわした事。

 いきなり突き飛ばされて、顔を上げた時にはもう両親とも頭と胴体が離れていた事。

 死なずに済んだのは、魔獣の気配を察知した待ち合わせの相手が来て魔獣を倒してくれたからだという事。

 待ち合わせの相手というのが、どうやら両親の師匠にあたる薬師であったという事。

 それから一人前になるまで師匠に鍛えられた事。





 ゆっくりと、皇太子にそれらを語った。



「その助けてくれた相手が師匠。後で聞いたけど、両親もその師匠の元で学んでたんだって。で、それからは樹海の師匠の家で薬師の修行三昧。厳しかったよー、もう寝るのが、一番の楽しみだ、ってくらいに。で、十三歳の時に、独り立ちしてヨシ! って師匠の家、追い出されちゃったんだけど。ひと月くらいして尋ねたら、家ごと、無くなってたし。師匠も、結局最後まで、名前とか、教えてくれなかったんだよね。世捨て人、だったのかなぁ? あの人」



 最後は本当に苦笑しながら話を締めくくった。

 語ったのは創世神から決められた表設定の人生。

 キリがいいので十三歳辺りで話を切ったが、俺がこの地上世界に降りた十七、八歳までの人生はきっちりと脳内に刷り込まれている。

 後は不都合の無い様にその後の三年間と組み合わせるだけだ。


 

 実は俺の人生には裏設定まであって、これは他の人間に知られるのはちょっとヤバイから、今は俺の口からは語れない様になってたりもする。

 




 沢山話をしたせいか、少し疲れた。

 頭が重いのが強くなってる。

 まぶたが勝手に落ちてくるのを手で押しとどめ、皇太子に言う。



「済み、ません……少し、休みます……」


「……構いません……ゆっくり御休みになって下さい」



 皇太子の声を聴きながら意識が落ちてゆく。







 何で、何もしていないのに、こんなに息苦しいんだろう……

 


 



 内緒とか秘密がてんこ盛りなので、リツキ気苦労中。

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