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ノートの片隅、好きの言葉  作者: みづき
一章 秋の風
2/6

二話

 その日最後の授業。

 2-3と書かれた教室の中で教卓の前に立ち、熱弁を振るう教師。

 梨紗はぼんやりと板書の書かれたノートを見つめる。

 シャープペンをくるくると回しながら、そっと息を吐き出した。

 西嶋先輩――。西嶋先輩は、二年生の初めごろに出会った先輩だった。

 優しそうなもの言いに、さらさらとなびくこげ茶色の髪。優しそうに細められた目。

 たぶん、一目ぼれだったのだろう。

 それから先輩がいると聞いた保健委員に入り、今に至る。

 本当は委員会に入るつもりなどなかったのだ。だが、先輩に近づくにはそれしかないと思った。

 おかげで先輩とは仲良くなれた。

 梨紗は吸い寄せられるようにして、ノートの端に顔を移動した。さらりと流れる黒髪が視界に入る。

 そして迷わず――何も考えずに、シャーペンを走らせた。

 ノートの端に書かれた、小さな文字。

 それは今にも消えてしまいそうで、どこか儚げな印象だ。

「今日はここまで。解散ー」

 校舎全体に響き渡ったチャイムの音と、教師の声にびくりと顔を上げる。

 黒板に書かれている文字が増えていることに気付き、慌てて書き写す。

「あ、あのさ……高藤さん」

 遠慮気な声が、梨紗の鼓膜を揺らした。

 声をかけてきたのは右隣に座る少年、西嶋光。

 さらりと揺れる黒髪に、誰かに似ているような目。

 梨紗はきょとんとして光を見る。

「ノート、書けたら写させてくれる?寝ちゃっててさ」

 苦笑いし、梨紗の目の前にあるノートを指差す。

「え、あ、うん」

 戸惑ったような声が、梨紗の口からもれた。

 戸惑うのは当たり前だろう。

 隣の席になって、いや、同じクラスになってから話したのはほんの数回。片手で足りるほどの数だった。

 あまり話したことのない相手にどうしていいか戸惑っていると、光が眉をひそめた。

「あ、ごめん。もしかして家帰ってから勉強するつもりだった?」

「え?あ、ううん。それは大丈夫」

 そう言いながら、書き上げたノートを光の前に差し出す。

「ありがとう、返すの明日になるけどいい?」

 光の問いに梨紗は頷いた。

 クラスの皆が帰る用意をし、教室を出て行く。

 光はノートを鞄に突っ込み、人で溢れかえる廊下へと消えていった。

 ノートの端に書かれた、小さな二文字。

 ――“好き”という、言葉。

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