一話
かなりベタな感じだと思います。それでも良いと思う方はどうぞ。
無断転載などしないよう、お願いします。
秋の終わり、心地よかった風の温度が肌寒く感じる頃。
室内だというのに肌寒いこの教室で、長時間いるのはきつい。
ブレザーの下に着込んでいたカーディガンの裾を伸ばし、手をすっぽりとその中に収めた。
規定の温度に達していない為、暖房のつかない教室で行われているのは委員会だ。
話し合いが行われている中、身を縮め、細かく震えている少女――高藤梨紗。
「どうしたの?」
そんな梨紗を見かねてか、隣に座る少年は優しく声をかける。
「寒いんです!」
尋常ではない寒さに苛立ちを覚え、ついきつい口調で言い返した。
しかしそんなことは気にも留めず、少年は軽く笑う。
「まぁ、今年一番寒いって言ってたからね」
「笑い事じゃないです!……こんな時に暖房もつけないなんて、暖房の意味ないじゃん」
さらに身を縮め、梨紗は不満の声をもらす。
身を縮めた時に綺麗に伸ばされた黒髪が揺れ、冷たくなった頬に触れた。冷たい頬に触れた髪が、少し温かく感じる。
「先輩は……寒くないんですか?」
「ん?俺?大丈夫だよ」
これといって防寒着も着ていない少年――否、先輩の制服を見て梨紗はため息をつく。
「元気ですねぇ」
それが呆れなのか、関心なのか、どっちとも取れる声色でつぶやく。
「っていうか、先輩、ひとつ聞いていいですか」
配れられたプリントを眺めていた先輩が、視線を移す。
「私保健委員ですけど、今回の委員会って何のためにやってるんですか?」
先輩はきょとんと梨紗を見る。
そして手に持っていたプリントを目の前でひらひらさせ、言葉を紡ぐ。
「書いてあるでしょ?寒いから怪我する人多くなるだろうってことで、今後の対策」
急に寒くなってきたのだ。筋肉が固まり、怪我をする人が多くなるだろう。
それを対処するのも、保健委員の役割だった。
「そんなの保健の先生がすればいいじゃないですかー」
机にもたれ、項垂れる姿を見て先輩は微苦笑する。
「じゃあなんで保健委員入ったの」
その言葉に、うっと言葉が詰まった。
「では、これで委員会会議は終わりです!」
話している間に終わったのだろう。その言葉に皆立ち上がり、やれやれという表情で帰る支度をする。
「じゃ、梨紗ちゃん。お疲れ」
先輩は軽く微笑み、席を立った。
「……お疲れ、さまです」
先輩が教室を出て行くのを見計らって、聞こえないほど小さな声でつぶやいた。
きっと、知らないのだろう。
いや、知るはずもない。
自分が、わざわざ保健委員になった訳を。
――西嶋新。それが、先輩の名。そして、好きな人の、名。