08カメリア公爵家は魔法の研究で有名な家系
招待された人は、様々な年齢層や職業の人々で、中には日々の仕事で疲弊しているような者も。
「それでは皆様、新たな魔導具の誕生です。その名も心のオアシス」
キャロルが大々的に告げると、掲げた心のオアシスから柔らかな黄色の光が広間に満ちていく。心地よい音楽が流れ出す。
会場は瞬く間に静寂に包まれて皆は目を閉じて光と音に身を委ねる。
「これは……心が洗われるようですわ……」
貴婦人が涙を流しながら呟いた。
「故郷の優しい光に包まれているかのようだ……」
長年の冒険で疲弊していた冒険者が、穏やかな表情で呟く。
心のオアシスは、瞬く間に世界中に広まった。過酷な任務に就く冒険者や、日々の仕事に追われる商人、心の病に苦しむ人々にとって魔導具はかけがえのない存在となる。
パーティーから数日後。公爵家の庭でキャロルはユミス、ミーチェ、ソフィアと一緒に心地よい日差しの中でティータイムを楽しんでいた。
テーブルの上にはミーチェが焼いた陽光石のように鮮やかな黄色のレモンケーキが並んでいる。
「このレモンケーキも、なんだか心が温かくなる味がしますわね」
ユミスが微笑む。
「えへへ、陽光石の魔力を少し分けてもらったんですの!」
ミーチェが嬉しそうに言うとソフィアも自分の分のレモンケーキを大事そうに抱えながら、こくこくと頷いた。
「みんなが喜んでくれるのが、一番嬉しい」
キャロルは満足げに笑った。周りには、いつも家族の笑顔と新しいアイデアに対してワクワクする空気がある。最高に楽しい異世界での生活が、これからもずっと続いていくといいなと思う。
「次はどんな魔導具を作ろうかなぁ……」
空になったティーカップを手にニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
*
「みんな、新しいご近所さんが引っ越してくるんだって」
朝食の席でお父様が興奮気味に言った内容に、キャロルはフォークで卵をくるくる巻きながら目を丸くする。
「え、ご近所さん?この近くに住む貴族ってもうほとんどいないんじゃなかったっけ?」
首を傾げるとお母様がにこやかに答えた。
「それがね遠い親戚にあたるカメリア公爵家が、領地のすぐ隣に新しく屋敷を構えることになったのよ。お父様がずっとこの辺りも開発したいって言っていたから協力してくれるんですって」
「カメリア公爵家……聞いたことありますわ。確か、魔法の研究で有名な家系では?」
ユミスが紅茶を一口飲みながら言う。ミーチェとソフィアも興味津々といった様子でお父様とお母様の話を聞いている。
「そうなんだ!しかもねそこの長男が、キャロルと同じくらいの年の男の子らしいぞ!名前は……えっとな、カルラミネー君だったかな?」
お父様の言葉にキャロルは思わず「え!?」と声を上げた。異世界に来てから同年代の友達、しかも貴族の子なんて近場にほとんどいなかったから。学園に行ける年になるまで待つしかないと思っていたほどに。
「どんな子なんでしょう?」
ミーチェが目を輝かせた。ソフィアも「お友達できるかな?」と小さな声で呟く。
たまに「前世の友達と話したいなぁ」と思うこともあったから同じくらいの年の男の子が引っ越してくると聞いて、内心ではワクワクしていた。
少しだけ不安もあった。キャロルはたくさんの魔導具を生み出してきた。発想は常識から見ればかなり突飛なものだから、新しい友達に自分が魔導具を作っていることをどう話せばいいのか迷いがある。
数週間後、カメリア公爵家が引っ越してきた。レモンピューレー家からは馬車で半日ほどの距離に新しい屋敷が建った週末。レモンピューレー家からカメリア公爵家へ挨拶に訪れることになった。
キャロルはいつもより少しだけおめかしをして、馬車に乗り込んだ。カメリア公爵家の屋敷はレモンピューレー公爵家とはまた違った趣があって庭には珍しい植物が植えられ、屋敷の中には様々な魔法陣の装飾が施されている。
応接室に通されるとそこにカメリア公爵夫妻と彼らの長男カルラミネーがいた。カルラミネーはキャロルと同じくらいの背丈で、燃えるような赤い髪と知的な雰囲気の青い瞳。
少し緊張した面持ちでキャロルたちを見つめている。
「ようこそレモンピューレー公爵御夫妻、ご息女の皆様。この度はお越しいただき誠にありがとうございます」
カメリア公爵が深々と頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそこの度はお近くにお越しいただき、光栄です」
お父様がにこやかに答えるとカルラミネーとキャロルたちの番になった。
「こちらは長男、カルラミネーです」
紹介にカルラミネーは硬い表情で前に出た。
「カルラミネー・カメリアと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「キャロル・レモンピューレーです。こちらこそ、どうぞよろしく」
キャロルがにこやかに挨拶するとカルラミネーは目を見開いた。明るい声と砕けた口調が予想とは違ったのかもしれない。
ユミス、ミーチェ、ソフィアもそれぞれ挨拶を済ませたその後のティータイムで会話は次第に和やかになっていった。
お父様とお母様が領地の開発や冒険の話で盛り上がっている間、子供たちは別のテーブルで話す。
「あの……レモンピューレー公爵家は様々な魔導具を開発されていると伺っております」
カルラミネーが少し躊躇いがちにキャロルに尋ねた視線が、ちらりとキャロルの手元にある万能情報端末に向く。
「うん。そう、私が作ったんだよ、ほとんどね」
キャロルが言うとカルラミネーの目が大きく見開かれた。
「あなたが全自動洗濯機やグルメボックスをっ!?」
カルラミネーは驚きを隠せない様子で、キャロルを凝視したのはまだ幼い少女であることに驚いているようだった。
「うん。他にも、虹色の写字機とか心のオアシスとかいろいろ作った」
キャロルが自慢げに答えたのはカルラミネーが魔導具に興味を持っていることに気づき安心した。
「それは……信じられない。幼い頃から魔法理論や魔導具について学んでおりますがそれほど画期的な魔導具をあなたのような若い方が生み出されているとは」
カルラミネーは偉大な学者のように真剣な表情でキャロルを見つめた表情から、純粋な驚きと強い興味が感じられた。




