07全自動洗濯機のメロディ
全自動洗濯機の稼働状況を確認したり。魔法の冷蔵庫の中身を確認したり。生活の利便性が格段に向上する。
数ヶ月後、手のひらサイズの板状の魔導具万能情報端末を完成させた。ボディはユミスが見つけた希少な合金でできており、非常に軽く丈夫。画面にはミーチェが考案した直感的なアイコンが並び、ソフィアが選んだ優しいフォントで文字が表示される。
完成披露の日、各国の要人や著名な冒険者、学術機関の代表者たちが集まっていた。目の前で繰り広げられる万能情報端末のデモンストレーションに息を呑んだ。
自分の端末から遠征中の父とお母様に映像通話を繋ぐ。画面には、巨大な魔物を討伐する二人の姿が鮮明に映し出され、会場からは驚きの声が上がった。
「これを見れば、遠征中の家族の安否をリアルタイムで確認できるわ!」
お母様の声が会場に響き渡る。さらにキャロルは端末から公爵家の全自動洗濯機を遠隔で起動させたり、魔法の冷蔵庫の中身を確認したりする様子を見せた。
瞬時に世界中の電子書籍や地図、ニュースを閲覧する機能を披露すると会場の熱狂は最高潮に達した。
「これは……まさに魔法の板だ!世界のあらゆる情報が、手の中に収はないか!」
皆は革新的な機能に熱狂した。遠隔地にいる冒険者たちがリアルタイムでダンジョンの映像を共有し、戦略を練る様子や離れた家族が互いの顔を見ながら安否を確かめ合う姿。世界の知識を瞬時に手に入れることができる可能性。
万能情報端末はコミュニケーション、情報共有、生活様式そのものを根本から変えるまさに文明の転換点となる魔導具。
開発した自動で動く芝刈り機を見つめていた。手には万能情報端末がある。
「ねぇ、ミーチェ、ソフィア!万能情報端末で今度みんなで遠足に行かない?行きたい場所の情報を調べて、みんなで計画立てようよ!」
キャロルが誘うとミーチェとソフィアは目を輝かせた。
「行きたいですわ!端末で美味しいお店も探せますもの!」
ミーチェが嬉しそうに言う。
「キャロル姉さま、端末、もっとたくさんの人が同時に使えるようになりませんかしら?そうすれば世界中の人がもっと自由に繋がることができますわ」
ユミスがいつものように深い視点で問いかける。
「なるほどねぇ……万能情報端末が世界中の人々の生活に溶け込むようになったら、きっともっと面白いことが起こるはず」
キャロルはニヤリと笑った。彼女の周りにはいつも家族の笑顔と新しいアイデアにワクワクする空気がある。
「じゃあ次は世界規模の万能情報端末ネットワークの構築」
皆は満面の笑顔で歓声を上げた。
*
「この黄色い魔石すごく綺麗」
キャロルは工房で、手のひらサイズの透き通った黄色い魔石を太陽にかざしていた。光を受けてキラキラと輝く魔石は太陽の光を閉じ込めたみたい。
「まぁ本当に綺麗ですわ。どこで見つけられたんですの?」
ミーチェが目を輝かせながら尋ねる。鮮やかな黄色に魅了されているようだった。
「この間、お父様とお母様が新しいダンジョンで見つけてきてくれた。陽光石っていうんだって。なんかすごく暖かい魔力を持ってる」
キャロルは陽光石をそっとユミスに手渡すと、魔石から放たれる柔らかな魔力に心地よさそうに目を閉じる。
「本当に温かいですわ……ずっと触っていたいような」
万能情報端末の開発を終え、次のプロジェクトを模索していたキャロル。陽光石は、新たなひらめきを与えた。
温かい魔力を持つ石を使って癒す魔導具を作れないだろうか?
「陽光石の魔力、心を穏やかにしてくれる気がする。これを使えば、精神的な疲れを癒す魔導具が作れるかも」
現代のストレス社会を経験してきたキャロルにとって心の健康は非常に重要なテーマ。
異世界では精神的な疲労に対する理解はまだ浅く有効な回復手段も限られている。
「陽光石の魔力を活用して、心のオアシスを作るか」
温かい魔力を、光と音の形として提供することで心の疲れを癒す魔導具の構想を練り始めた。疲れを癒す魔導具の開発はこれまでの魔導具とは全く異なるアプローチが必要。
単なる機能性だけでなく使用者の感情に寄り添う繊細な調整が求められる。
「視覚と聴覚、両方に働きかけることで、より効果的な癒やしになるはず」
陽光石から放たれる魔力を柔らかな黄色の光として投影する機構と、心地よい音色を生成する魔力回路を、組み合わせることにした。
「夕焼けの空のような心を落ち着かせる光の色合い。小鳥のさえずりや穏やかな水のせせらぎのような音。これらを魔力で再現する」
工房には様々な音源となる魔石。光を調整するための、魔力プリズムが並べられた。
一つ一つの要素を丁寧に調整し、理想の癒やしの空間を作り出そうと試行錯誤を繰り返す。時には光の色が強すぎて刺激的になったり、音が不快なノイズになったりすることもあったけれど。
「姉さま、このメロディどうです?ユミス姉さまと一緒に考えたんですの」
ミーチェがソフィアと一緒に作った小さなオルゴールのような魔導具を持ってくる。そこから流れる音色はとても優しく心地よい。選ぶセンスがいいなと、笑う。
「ミーチェ、ソフィア、すごくいい音。このまま、取り入れさせてもらうね」
二人の頭を優しく撫でた。ミーチェとソフィアはキャロルが目指す心地よさを感覚的に理解し、具体的な形で表現してくれたのだ。優しい子たち。
ユミスは公爵家が所有する医学書や、古文書の中から精神的な疲労回復に関する記述を探し出してくれた。
そこには特定の色や音が、人の心に与える影響についての記述があり開発の大きなヒントとなる。
「記述によりますと、やはり黄色は希望や喜びを表す色として、古くから安らぎを与えてきたようですわ」
ユミスの言葉に陽光石の可能性を再認識。
数ヶ月後、キャロルは手のひらサイズの陽光石を埋め込んだ柔らかな曲線を描く楕円形の魔導具、心のオアシスを完成させた。
魔導具を起動させると陽光石から温かい黄色の光が放たれ周囲を優しく包み込む。
同時に心地よい小鳥のさえずりや水のせせらぎ、あるいはミーチェとソフィアが作ったメロディが流れ出す。
光と音は使用者の心に直接働きかけ、精神的な疲れを癒し穏やかな安らぎを与えてくれる。
完成披露の日、公爵家の広間はこれまでの熱気とは異なる温かく穏やかな雰囲気に包まれていた。




