06魔力レンズ
冒険者たちは利便性に大きな期待を寄せ、遠征中の仲間との連絡、危険な状況下での情報共有。家族との繋がりを保てる安心感は何物にも代えがたい。世界のコミュニケーションを変える公爵家として武勇伝を残す。
「ねえ、キャロル姉さま、魔導電話があれば、もっと遠くの国の人ともお話しできますわよね?」
ミーチェが興味津々といった様子で尋ねる。
「もちろん。魔力線を世界中に張り巡らせれば、理論上はどこにでも繋げられる」
キャロルはニヤリと笑った。
「そうすれば、離れた場所に住む人が気軽に交流できるようになりますわね。新しい文化や知識の交換ももっと盛んになるでしょう」
ユミスが可能性に目を光らせ、ソフィアも小さな手で魔導電話を優しく撫でている。
「次は、世界中に繋がる魔導電話網の構築を目指そうか」
三姉妹は「えぇぇぇぇ!?」と驚きの声を上げた後、満面の笑顔で歓声を上げた。
*
「ん~~、このレモンパイ、最高!」
キャロルはソファに深く沈み込み、至福の表情で手元のレモンパイを堪能していた。
陽光が降り注ぐ広々としたリビングには、ほんのり甘酸っぱい香りが漂っている。
「ミーチェが腕を上げた証拠ですわね」
隣に座ったユミスが優雅に紅茶を啜りながら微笑む。向かいのテーブルでは、ソフィアが絵本を広げ、ミーチェは新しいお菓子のレシピ本を熱心に読んでいた。
「いやほんと、ミーチェのお菓子、お店出せるレベルだよね」
キャロルが親指を立てると、ミーチェは顔を赤らめて照れ臭そうに俯いた。
「えへへ……でも、まだ改良の余地がありますのよ」
ミーチェが頬を染めながら、レシピ本に視線を落とす。
「十分美味しいのに、向上心がすごい!見習わなきゃ」
キャロルが感心したように言うと、ユミスがふふっと笑った。
「キャロル姉さまも、いつも新しい魔導具の開発に余念がないじゃありませんか」
「そうそう!ねえねえ、次は何の魔導具作ってるの?」
ソフィアが絵本から顔を上げて、キラキラした瞳でキャロルを見つめる。
「んー、今はね、自動で美味しいご飯が出てくる魔導具と、どこでも快適に眠れる魔導具の構想を練ってる」
キャロルが言うと、三姉妹の目が一層輝いた。
「わぁ!自動でご飯ですって!?」
ミーチェが身を乗り出す。
「そう。作れるだけじゃなくて、今日の気分に合わせて最高の料理が出てくる、みたいな感じ」
「それは素晴らしいですわ!ダンジョンでの食事は、どうしても味気ないものになりがちですから」
ユミスも目を輝かせた。
「あと、寝るやつはね、どんな場所でもぐっすり眠れるようにする。結界を張って音も遮断できるし、体温に合わせて快適な温度も保てるようにするつもり」
「冒険者の方々も大助かりですわね!特に、危険な場所での休息は、心身の回復に直結しますもの」
ユミスが頷くと、ミーチェもソフィアも「うんうん!」と同意。キャロルは、新しい魔導具の開発には時間を惜しまない。
じっくりと、あらゆる可能性を検討し、最高のものを生み出したい。質がいいものを。
工房には長期間にわたって書き溜めた膨大な設計図と、無数の試作品が並べられていた。映像と音声、魔導映像電話。電話だ。
「音の振動を魔力に変換する技術は確立できた。光の情報を魔力に変換する技術を次のもの」
前世の記憶にあるテレビ電話を思い出しながら、魔力理論と既存の魔導具の知識を組み合わせ新たな設計図を練り始めた。映像を魔力に変換し、長距離伝達する技術はこれまでの魔導具開発の中でも特に難易度が高い。桁違いに。
「光の情報って音よりもはるかに複雑……色の情報も、明るさの情報も全部魔力に変換しなきゃいけない」
膨大な魔力回路のパターンを試行錯誤。光の粒子を魔力で捕捉し、デジタル信号のように変換して送る。受け取った側で再び光の粒子として再現。理論はシンプルだが安定して行うのは至難の業だ。
「うーん、この魔力レンズだとどうしても映像がぼやけちゃう……もっと透明度が高くて、特定の魔力波長を効率よく透過する素材が必要」
工房には様々な形の魔力レンズや色とりどりの発光する魔石が散乱していた。時には魔力変換の失敗で工房中に奇妙な色の光が飛び散ったり、妙な像が壁に映し出されたりすることもあったが。
ユミスは公爵家が所有する古文書の中から、光の魔力に関する記述を読み解き、ヒントを与えてくれた。知識の広さと探究心は開発の大きな助けとなる。
「キャロル姉さま、魔力レンズ、どうです?透明度が高いだけでなく特定の魔力波長を効率よく透過する性質がありますわ」
新しく発見されたばかりの透き通った鉱石を持ってくる。結晶構造は魔力変換の効率を格段に高める可能性を秘めていた。
「すごい!ユミス、まさにこれだ。レンズがあればもっと鮮明な映像を送れる」
ミーチェはキャロルが試作した魔導電話の音声や映像を熱心に確認した。鋭い感性はわずかなノイズや映像の乱れを正確に察知し、調整のヒントを与える。
「キャロル姉さま、この部分の映像、少しだけ色が薄いですわ。もう少し彩度を上げた方が見ていて気持ちがいいかもしれませんよ」
ミーチェの言葉にキャロルは魔力回路の微調整を行うと、画面に映し出された映像の色が、一段と鮮やかになった。
ソフィアは、キャロルが試作した映像電話で、家族の笑顔が映し出されるたびに嬉しそうに手を叩く。彼女の純粋さは、キャロルの開発の原動力。
試作機を長時間使う中でバッテリーの持ちや、操作感に関する素朴な感想をキャロルに伝えてくれた。映像通話機能が安定してきた頃、ミーチェが新たなアイデアを持ち込んだ。
「キャロル姉さま、魔導電話、複数人で同時に話せるようになりませんか?お父様とお母様と私たち、姉妹全員で話せたらもっと楽しいのですけど」
「グループ通話。それは便利そう」
ミーチェのアイデアに感銘を受けた。複数人で同時に音声や映像を共有するには魔力回線の分配とそれぞれの音声・映像データの分離・統合が必要となる。
映像電話の拡張に留まらない新たな技術的挑戦。虹色の写字機で培った技術を応用し、魔導具で電子書籍や地図、世界のニュースなどを閲覧できる機能を追加したい。
冒険者たちが遠征先で情報を得るのに、これほど便利なものはないだろう。公爵家にある様々な魔導具を、端末から遠隔操作できる機能も加えることにした。




