04インク作り
後日、図鑑は冒険者協会にも寄贈されると、瞬く間に冒険者たちの間で話題となり、大反響を呼んだ。
「これを見れば、魔導具の仕組みがよくわかる」
「俺もこれ読んで、魔導具、もっと使いこなせるようになりたい!」
「こんなに面白い本、初めて読んだ!まさか、魔導具の解説書なのに、こんなにワクワクするなんてな!」
図鑑は飛ぶように売れ、冒険者だけでなく一般の市民や他の魔導具師たちの間でも、キャロル・レモンピューレーの名前はさらに広まっていった。魔導具は常識を塗り替える存在となっていく。ニヤニヤしてしまう。
「ねえ、キャロル姉さま、マジカル・パブリッシャーがあれば、もっとたくさんの本を作れますわよね?」
ティータイム、ミーチェが目を輝かせながら言う。
「もちろん。文字通り無限に作れる」
胸を張るとユミスがふと思いついたように口を開いた。
「それでしたら、魔導具を使って、世界中の物語や知識を集めたらどうでしょう?遠く離れた国の文化や、失われた歴史の記録なども本として残すことができるかもしれません」
ユミスの言葉に顔を上げた。
「それだ!ユミス、天才!」
目を輝かせた。
「そうか。マジカル・パブリッシャーを使えば、紙媒体で世界中の知識を共有できるね。図書館作れるね?」
ソフィアも目を大きく見開いて、こくこくと頷く。ミーチェも興奮冷めやらぬといった表情だ。
「みんなであらゆる知識や物語を集めて、本にしていこう。そうすれば、もっともっと楽しくなるはず」
三姉妹は満面の笑顔で頷いた。知識と文化を繋ぐ、新たな役割を担おうとしていた。気合いも入るというものだ。
「よし。そのためにもまずはマジカル・パブリッシャーの量産体制を整えなきゃ」
グッと紅茶を一気に飲み干し、勢いよく立ち上がった。鼻息荒く意気込んだ。
ぼんやりと、頭を休める。
「キャロル姉さま、朱色のインク、どう思います?」
ある日、ユミスが小瓶に入った鮮やかなインクを手に工房にやってきた。工房の窓から差し込む夕日がインクの色を一層際立たせている。
「すごく綺麗な色だけど。どうしたの、これ?」
キャロルが興味津々に小瓶を覗き込む。
「この前、お父様とダンジョンに行った時に見つけた、朱色の魔石を加工してもらったんですの。珍しい色なので、本の装丁に使ったら美しいかと思いまして」
ユミスが微笑むと目をぺかりと輝かせた。
「ユミス、ナイスアイデア。マジカル・パブリッシャーで朱色の本を作ったら、めちゃくちゃ映えるよ」
マジカル・パブリッシャーで世界中の知識を本にする計画は順調に進んでいた。各地の冒険者や学者、一般の人々から様々な物語や歴史の記録が公爵家に送られてくる。
それをミーチェが整理し、ソフィアが読みやすく校正。ユミスが挿絵を描き、キャロルがマジカル・パブリッシャーで本として形にしていく。
公爵家は今、巨大な出版社のようになっていた。そんな中、ユミスが持ってきた朱色のインクは新たなインスピレーションを与える。
「そうだ。マジカル・パブリッシャーに、もっと色を自由に扱える機能を追加しようかな」
これまでのマジカル・パブリッシャーは基本的には黒インクと、数種類の色しか使えなかった。朱色の魔石のようにまだまだ知られざる、美しい素材がたくさんあるはず。
インクとして利用し、本に彩りを加えることができれば表現の幅は格段に広がるだろう。
「色の表現かぁ……光の三原色と色の三原色、どっちをベースに考えるのがいいかな」
魔力理論を融合させながら、新たな魔導具の設計図を練り始めた。色を魔力で再現するにはそれぞれの色に特有の魔力波長を特定し、正確に制御する必要がある。
「朱色の魔石は特定の魔力波長を強く吸収する性質があるから、これをインクにすることで波長を紙に定着させる……みたいなイメージ?」
ブツブツと独り言を言いながら、様々な素材を組み合わせて魔力回路を試行錯誤していく。
「うーん、この組み合わせだと色が濁る。もっと鮮やかに、うーん。もっと深みのある色を出すには」
工房には様々な色の魔石や植物の染料が並べられ、錬金術師のように色と魔力の関係を追求していった。
時には失敗して変な色の煙がモクモクと上がったり、工房中が妙な匂いに包まれたりすることも。トラブルはあったがまあまあ順調だ。
「キャロル姉さま、この植物すごく綺麗な青色が出そうですわ」
ミーチェがダンジョンの奥地で見つけたという、珍しい青い花を持ってくる。料理だけでなく植物や鉱石の知識も豊富で様々な素材を提案してくれた。ありがたい。
「すごい!ミーチェ、ありがとう。これなら、深みのある青色が作れそう」
「キャロル姉さま、論文に色の魔力について書かれた一節がありましたわ。もしかしたらヒントになるかもしれません」
ユミスは、古文書の中から色の魔力に関する記述を見つけ出し、キャロルに提供した。
知識の広さと探求心は開発に大きな助けとなり、ソフィアは試作した様々な色のインクを使って紙の上に絵を描く。
描く絵は優しくて目指すような鮮やかで美しい色のイメージを見事に具現化してくれた。
例の朱色の魔石から作られたインクは、研究の過程で非常に安定した発色と魔力定着率を示すことが分かったので、朱色は開発する色の魔導具の象徴とも言える存在になる。
数週間後、マジカル・パブリッシャーを改良し、新たに虹色の写字機イリス・グラフィアと名付けた。
虹色の写字機は魔石や植物、鉱物から色を抽出し、インクとして本に印刷できる画期的な魔導具。色鮮やかな挿絵はもちろんのこと文字そのものを様々な色で表現することも可能。
完成披露パーティーの日、公爵家の広間は以前にも増して熱気に包まれ今回は有名画家や美術愛好家、各国の大使たちも招待されている。
「それでは皆様、新たな魔導具の誕生です。虹色の写字機という名前となります」
告げると隣に置かれた虹色の写字機が、虹色に輝き始めた。目の前で生成されたのは朱色の表紙に色鮮やかなイラストが描かれた一冊の本。
「わぁ……なんて美しい!」
「まさか、こんなに鮮やかな色が、魔力で表現できるとは!」
周りは息を呑み、美しさに魅入られた。本の中には朱色で描かれた夕焼けの風景、青いインクで表現された深海の生物、緑色で彩られた広大な森など様々な色の物語が綴られている。
「朱色は、特に美しゅうございますわね」
ユミスが誇らしげに朱色のページを指差した。
「朱色は、ユミスが見つけてくれた魔石のおかげ」
にこやかに言うと、ユミスは少し照れたように微笑んだ。虹色の写字機は瞬く間に世界に広まり、各地の出版社や図書館、学校に導入され色鮮やかな本が次々と生み出されていった。




