03温かいシチューと焼きたてのパン
魔力を流し込み「温かいシチューと焼きたてのパン」と念じるとまばゆい光とともに、香ばしい湯気を立てるシチューとふかふかのパンが現れた。会場からは感嘆の声が上がる。
メイドたちが配っていき試食してもらう。
「う、美味い!これは本当に魔導具から出てきたのか!?」
「信じられない……今そこで作られたばかりのようだ」
試食した人が味に驚きと感動の声を上げる。
「こちらが安息の聖域シェルター!」
広間に設置した夢見心地のシェルターの上に横になると淡い光の結界が張られ会場の喧騒がピタリと止んだ。
「すごい!何も聞こえない」
「この中で寝たらどんなに疲れていても回復できそうだ」
次々と試してみる人たちが効果に驚愕する。
「これで、冒険者たちはもっと安全に快適に活動できるようになるでしょう」
お父様に会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
レモンピューレー公爵家のパーティーから数日後、公爵家の庭でキャロルは自作のハンモックに揺られながら、のんびりと本を読んでいた。
「キャロル姉さま、今日のデザートミーチェ特製のフルーツタルトですわ!」
ユミスが優雅にティーセットを運んできた。ミーチェとソフィアもそれぞれ、お気に入りのクッションを抱えてやってくる。
「わ、ミーチェ、ありがとう」
キャロルは目を輝かせてフルーツタルトを手に取り、一口食べると甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がる。
「ん~~、幸せ!」
「新しい魔導具、大好評でしたわね。冒険者協会の皆さんからも感謝のお手紙がたくさん届いていますもの」
ユミスが微笑む。
「うんうん。みんなが喜んでくれてるのが、一番嬉しい」
キャロルはにこやかに答えた。
「ねえ、キャロル姉さま、次はどんな魔導具作るの?」
ソフィアが目を輝かせながら尋ねる。この質問もいつもの恒例。
「うーん、そうだなぁ……」
少し考え込む。ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「次は、時間旅行ができる魔導具とか、どうかな?」
キャロルの言葉に、三姉妹は聞き慣れた「えぇぇぇぇ!?」という驚きの声を上げた後、想像を膨らませるように目をキラキラさせた。
「過去にも未来にも行けるってことですか!?」
ミーチェが興奮したように尋ねる。
「歴史の謎を解き明かしたり、未来の美味しいものを食べに行ったり……考えるだけでワクワクするでしょ?」
三姉妹は「うんうん!」と大きく頷いた。
「でも、それはさすがにハードルが高そうですわね?」
ユミスが少し心配そうに言う。
「大丈夫、時間はかかるかもしれないけど、いつかきっと作ってみせるから」
キャロルは自信満々に胸を張る。
「ねぇ、みんな、聞いて聞いて」
キャロルはダイニングルームに飛び込んできた。手に抱えているのは、ずっしりとした革表紙の大きな本。
「あら、キャロル姉さま、どうかなさいましたの?」
ユミスがティーカップをソーサーに戻しながら優雅に尋ねる。ミーチェとソフィアも、おやつを食べる手を止めて注目した。
「じゃーん。見てこれ。冒険者公爵レモンピューレー家の奇妙な魔導具図鑑。作ってみた」
本を掲げると三姉妹は目を丸くした。
「えぇ?これって、キャロル姉さまが作った魔導具をまとめた本ですの?」
ミーチェが興奮気味に声を上げる。
「そうなんだ。私が今まで作った魔導具を、図解入りで詳しく解説してある。イラストはユミスにお願いして、解説文はミーチェとソフィアにも手伝ってもらった」
三姉妹は顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。実はこの数ヶ月、次の魔導具開発の合間を縫って、本を作る魔導具の開発に没頭していたのだ。
本を作る魔導具、その名もマジカル・パブリッシャー。開発したマジカル・パブリッシャーは、ただ文字を印刷するだけの魔導具ではない。
入力された情報に基づいて、自動でレイアウトを調整し、挿絵を生成し、さらには紙の質や表紙のデザインまで、全てを自動で調整してくれる画期的な魔導具。
「これがあれば、誰でも簡単に、自分の好きな本を作れるようになる、かも」
誇らしげにマジカル・パブリッシャーの試作品を見せた。やっとできたから、見せびらかしたくなる。
「でも、本を作るって、想像以上に大変でしたわね」
ユミスがふうと息をつく。彼女は元々絵を描くのが得意だったが魔導具の仕組みを図解したり、複雑な構造を分かりやすくイラストに落とし込んだりするのは想像以上の作業量だったらしい。
「ユミスのイラストのおかげで、どの魔導具もすごく分かりやすくなったよ。特に、どこでも行ける扉風転移装置の内部構造の図解なんて、プロの技術書みたいだしね?」
絶賛すると、ユミスは頬を染めて俯いた。
「ミーチェとソフィアも解説文の校正をすごく手伝ってくれたから。特にソフィアは、難しい言葉を優しい表現に変えてくれたりして、すごく助かった」
ミーチェはキャロルのざっくりとした説明を、分かりやすいように具体的な表現に修正してくれた。
「えへへ、頑張りましたわ!」
ミーチェが嬉しそうに胸を張る。
ソフィアは言葉数が少ない分、文字の表現や配置に非常に敏感だ。その視点から「ここはもっと大きく」「この部分は小さくしてほしい」といった要望が出されて本の読みやすさに大きく貢献した。
「ソフィアが文章の言い回し、もっと分かりやすくしてほしいって言ってくれたおかげでちっちゃい子でも楽しめる内容になった」
ソフィアの頭を撫でると、ソフィアははにかんだように微笑う。公式の冒険者公爵レモンピューレー家の奇妙な魔導具図鑑が完成すると早速お父様とお母様にもお披露目された。
「おおれこれは素晴らしい。我が公爵家の歴史書ではないか」
お父様が目を輝かせながらページをめくると、お母様も隣で「あら、こんなに綺麗にまとまっているなんて!」と感嘆の声を上げた。
「これなら、これから冒険者になる若者たちにも知識を伝えることができるわね」
お母様に胸が熱くなった。楽しいからという理由で作ってきた魔導具が誰かの役に立つ。それが最高の宝物。




