02自動でご飯
「ん~~、このレモンパイ、最高!」
キャロルはソファに深く沈み込み、至福の表情で手元のレモンパイを堪能していた。陽光が降り注ぐ、広々としたリビングにはほんのり甘酸っぱい香りが漂っている。
「ミーチェが腕を上げた証拠ですわね」
隣に座ったユミスが優雅に紅茶を啜りながら微笑む。向かいのテーブルではソフィアが絵本を広げ、ミーチェは新しいお菓子のレシピ本を熱心に読んでいた。
「いやほんと、ミーチェのお菓子、お店出せるレベルだよ」
キャロルが親指を立てると、ミーチェは顔を赤らめて照れ臭そうに俯く。
「えへへ……でも、まだ改良の余地がありますのよ?」
ミーチェが頬を染めながらレシピ本に視線を落とす。
「十分美味しいのに向上心がすごい。見習わなきゃ」
感心したように言うと、ユミスがふふっと笑った。
「キャロル姉さまも、いつも新しい魔導具の開発に余念がないじゃありませんか」
「そうそう!聞きたいんだけど、ねえ、次は何の魔導具作ってるの?」
ソフィアが絵本から顔を上げて、キラキラした瞳でキャロルを見つめる。
「んー、今はね、自動で美味しいご飯が出てくる魔導具と、どこでも快適に眠れる魔導具の構想を練ってる」
キャロルに三姉妹の目が一層輝いた。
「わぁ!自動でご飯ですって!」
ミーチェが身を乗り出す。
「そう。作れるだけじゃなくて、今日の気分に合わせて最高の料理が出てくる、みたいな?」
「それは素晴らしいですわ。ダンジョンでの食事はどうしても、味気ないものになりがちですから」
ユミスも目を輝かせた。
「あと、寝るやつはね、どんな場所でもぐっすり眠れるようにする。結界を張って音も遮断できるし、体温に合わせて快適な温度も保てるようにするつもりで」
「冒険者の方も大助かりですわね。危険な場所での休息は心身の回復に直結しますもの」
ユミスが頷くとミーチェもソフィアも「うんうん!」と同意した。
数日後、キャロルは工房にこもりきりになって、膨大な資料を広げ、設計図を書き込んでいる。
「うーん、グルメボックスの味覚再現が一番の課題なんだよなぁ……魔力の波長で風味をコントロールするって、本当にできるのか」
独り言を呟きながら試作の魔導具から出てきたスープを一口飲む。
「……うわっ!しょっぱ!」
顔をしかめてすぐにコップの水を呷る。
「キャロル姉さま、大丈夫ですの?」
ノックの音とともにユミスが顔を出す。彼女は魔法の知識が豊富で魔導具開発を理論面でいつも、支えてくれていた。
「ユミス。ちょうどよかった!味の調整、どうしたらいいと思う?魔力の出力を変えてもなんかピンとこなくてさ〜?」
キャロルはユミスに設計図を見せる。ユミスはじっくりと眺め、指でそっと回路を辿る。
「この部分の魔力循環路、少し複雑すぎるように思えますわ。もっとシンプルに、特定の波長だけを増幅させるように変更してみてはいかがでしょうか?」
ユミスの助言にハッと顔を上げた。
「なるほどな。余計な波長が混ざって、味がブレてたのか。ユミス、天才!」
「いえ、キャロル姉さまの発想があってこそですわ」
ユミスはにこやかに答える。一方、夢見心地のシェルターの開発は比較的順調に進んでいた。
「静寂の結界はこれでいけるな。あとは、持ち運びやすさか」
試作のシェルターを広げたり畳んだりしているとそこに、ミーチェとソフィアが顔を出した。
「キャロル姉さま〜、何かお手伝いできることはありませんか〜?」
ミーチェが尋ねる。細かい作業が得意で、部品の組み立てなどを手伝ってくれるのだ。いつものことなので、大変助かる。
「あ、ミーチェ。これ、もっとコンパクトにするにはどうしたらいいと思う?冒険に持っていくには、もう少し小さくしたくて」
キャロルが試作品を見せるとミーチェは腕を組み、じっとシェルターを眺める。
「うーん……フレームの部分、もっと薄くて丈夫な素材に変えられませんかしら?あと、畳んだ時に隙間ができないように、少し工夫が必要かもしれません」
鋭い視点に舌を巻いた。
「さすがミーチェ。そういう細かいところに気づくの、本当に助かる」
ソフィアは言葉こそ少ないが、黙々と工房の整理整頓をしてくれていた。散らかりがちな工具をきれいに並べたり、素材を種類ごとに分けたりといつも、作業がしやすい環境を整えてくれている。
「ソフィア、ありがとうね。ソフィアがいてくれると、どこに何があるかすぐわかるから助かる」
キャロルが声をかけるとソフィアははにかんだように微笑む。作業に集中できたので、アイデアも生まれる。
そんな中でお父様とお母様が工房を訪れた。二人はどうやら冒険者協会の会議から帰ってきたばかりで、少し疲れた様子だ。
「ただいま、キャロル」
「お帰りなさい、お父様、お母様!」
「キャロル、ちょうどよかった。実は冒険者協会で、新しい魔導具について話が出ていてね」
お父様が突然切り出した。
「え、魔導具が?」
「ああ。グルメボックスと夢見心地のシェルターの噂が広まっていて、ぜひ早く使ってみたい、という声が多数上がっているんだ」
お母様が嬉しそうに言う。
「特に、危険なダンジョンに挑むベテラン冒険者たちが魔導具に大きな期待を寄せているわ。安全な休息と栄養のある食事は、命綱のようなものですから」
「そうかぁ……みんなそんなに期待してくれてるんだね?」
自分の作ったものが誰かの役に立つんだと、改めて感じた。
「どうだ?開発は順調か?」
お父様の問いに少し首を傾げた。
「グルメボックスの味覚再現がなかなか難しくて……あと、シェルターの耐久性と携帯性を両立させるのも課題で」
「そうか。もし何か素材で困っているなら言ってくれ。直接、ダンジョンで探してこよう」
お父様が力強く言うとお母様も笑顔で頷く。
「え?本当?じゃあ、ちょっと珍しい鉱石と、あとは魔力伝導率の高い植物とかがあったら嬉しいな」
目を輝かせてリストを伝えるとお父様とお母様は「任せておけ!」と頼もしい返事をくれた、数ヶ月後。
ついにグルメボックスと夢見心地のシェルターが完成した。
グルメボックスは掌サイズの宝石箱のような見た目で、蓋を開けて好みを魔力で念じると瞬時に温かい料理が生成される。味は、一流シェフが作ったものと寸分違わないほど。
夢見心地のシェルターは折り畳み式の薄い布のような形状で、地面に広げると自動でドーム状の結界が展開され、内部は最高級ホテルのベッドルームのように、快適な空間が広がる。
外界の騒音は完全にシャットアウトされ、心地よいアロマの香りが漂い、心身の疲れを癒す。
完成披露パーティーの日、公爵家の広間はこれまでにないほどの熱気に包まれていた。たくさんの人がいて、こちらへ熱のある目を向けているのを感じる。
「楽しみですね」
「招待されたのは光栄ですよ」
冒険者協会の幹部から名の知れた冒険者たち、一般の貴族まで多くの人が二つの魔導具を見るために集まっていた。
「それでは皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。レモンピューレー公爵家が誇る天才魔導具師、キャロルが開発した最新の魔導具をご紹介させていただきます」
お父様の高らかな声が響き渡る。親バカな紹介の仕方をされて恥ずかしいのだけれど。
「まずは、こちらの至高の饗宴ボックス!」
キャロルが掌に乗るほどの大きさのグルメボックスを掲げると、会場はざわめきに包まれる。




